【完結】透明令嬢だったけれど、素敵な愛を知ることができました。

(7)変わり始めた日常

それからというもの、アリシアの毎日は少しずつ変わり始めた。

最初はぎこちなかったが、レオネルとの時間が自然と増え、次第に自分らしさを取り戻していった。

彼との会話は心を軽くしてくれる特効薬のようで、何でもない日常が輝いて見えるようになった。  

そんなある日の午後、アリシアは庭園の片隅で花を摘んでいた。

心地よい風が髪を揺らし、咲き誇る花々の甘い香りが広がる中、彼女は真剣な顔で一輪の花を選んでいた。  

「君、また花を摘んでるのか？」  

不意に背後から声がした。  

驚いて振り返ると、そこにはレオネルが立っていた。

爽やかな風に髪をなびかせながら、いつもの少し照れくさそうな笑顔を浮かべている。  

「はい、ちょっとだけ。」

アリシアは微笑み返しながら、そっと花を隠すように手で覆った。  

「何隠してるんだ？」

レオネルはすぐに気づき、いたずらっぽく目を細めた。

「また何か変わったことをしてるんじゃないだろうな？」  

「いいえ、今日は特別な花を摘んでいるんです。」  

「特別な花？」

レオネルは興味津々で彼女に近づいてきた。

「どんな花なんだ？」  

アリシアは少しだけ顔を赤くしながら、小さな声で答えた。

「あなたに、似合いそうな花です。」  

「俺に？」

レオネルは目を丸くして驚いた。

「そんな花があるなんて、初めて聞いたよ。」  

「ありますよ。」

アリシアは頷きながら、摘み取った花をそっと胸元に抱えた。

「それに、こういうのは見つける人の気持ちが大事なんです。」  

「ふむ、つまり俺には見つけられなかったけど、君には見つけられたってことか。」

レオネルは少しおどけた声で言いながら肩をすくめた。

「じゃあ、その特別な花ってどれなんだ？」  

アリシアは少し躊躇った後、意を決して花を差し出した。

それは淡いオレンジ色の花で、太陽の光を浴びて輝いているようだった。  

「この花です。」

彼女は小さな声で言った。

「オレンジ色は、あなたの明るさや温かさにぴったりだと思って。」  

レオネルは目を細めながら、差し出された花をじっと見つめた。

その表情は一瞬真剣になり、やがて柔らかい笑みへと変わった。  

「ありがとう、アリシア。」

彼は花を受け取りながら言った。その声はいつもより少し低く、心に深く響くものだった。

「俺のために選んでくれたんだな。」  

「はい…でも、そんな大げさなことじゃないですから。」

アリシアは目を逸らしながら照れたように笑った。  

「いや、大げさだよ。」

レオネルは真剣な目で彼女を見つめた。

「君が俺のことを考えながら選んでくれた、それがすごく嬉しい。」  

その言葉に、アリシアの胸がじんわりと温かくなった。

自分の小さな気遣いが、彼にこんなにも喜んでもらえるとは思っていなかった。  

「それにしても、君って面白いところがあるよな。」

レオネルはにやりと笑った。

「最初に会ったときはお堅いお嬢様だと思ってたけど、こんなに素直で可愛らしい面があるなんてさ。」  

「またそうやってからかう！」

アリシアはぷっと頬を膨らませた。

「素直とか可愛らしいとか、そんなことないですから。」  

「いやいや、あるよ。」

レオネルは悪戯っぽく笑いながら、花を大事そうにポケットにしまった。

「この花、俺の宝物にするから。」  

「そこまでしなくてもいいのに…」

アリシアは苦笑いを浮かべたが、どこか嬉しさが込み上げてきた。  

その後、二人はそのまま庭園のベンチに腰掛け、しばらくの間、何気ない話を続けた。

風に揺れる草花を眺めながら、互いの存在を自然と感じ合う時間がどれほど心地よいか、二人とも言葉にはしなかったが、同じように感じていた。  

レオネルがふと空を見上げて言った。

「アリシア、君が笑ってるときの顔が一番好きだよ。」  

「またそんなことを！」
　
アリシアは顔を真っ赤にして声を上げたが、彼の言葉が嬉しくて仕方なかった。  

レオネルが見せる笑顔は、アリシアにとっても特別なものだった。

自分らしくいられるこの時間が、何よりも大切に思えた。

彼と過ごす日々の中で、彼女の心は少しずつ、けれど確実に変わっていくのを感じていた。  

そして、その日の庭園に咲いていた花々の香りは、二人の心に優しく刻まれていった。