【完結】透明令嬢だったけれど、素敵な愛を知ることができました。

(11)恥ずかしがり屋の歌声

アリシアとレオネルは丘の上に並んで座り、しばらくは二人で静かな時間を楽しんでいた。

あたりには風の音と鳥のさえずりが心地よく響いている。

その時、レオネルが唐突に言った。

「じゃあ、歌おうか。」

「え？」

アリシアは思わず目を大きく開いた。

「今？」

「うん、君が言ったんだから。」

レオネルはニヤリと笑った。

「だって、君が歌わないと僕が歌う番だろ？」

アリシアは恥ずかしさに顔を真っ赤にして、「それは…ちょっと無理です。」と目を逸らした。

「私、歌なんて得意じゃないんです。」

「そう？」

レオネルは腕を組んで、少しだけ冗談めかして言った。

「でも、君がピアノも弾けるって言ってたから、きっと上手なんだろうな。」

アリシアは少しムッとした表情を浮かべた。

「だからって、簡単に歌わせないでください！」

レオネルは肩をすくめて、ちょっとだけ意地悪そうに言った。

「だって、君が歌うって言ったんだから。約束だろ？」

「うーん…」

アリシアは両手を膝に置き、顔を赤くしながら考えた。

「じゃあ、少しだけ…歌います。でも、あなたが歌わないと、私は歌いませんからね。」

「わかった、わかった。」

レオネルは手をひらひらと振りながら、大きく息を吐いた。

「じゃあ、僕が最初に歌おう。で、君が次に歌う番だ。」

アリシアは目を細めて、「本当に歌うんですか？」と笑いながら尋ねた。

「もちろん。」

レオネルは自信満々に胸を張り、少し照れくさい笑顔を見せた。

「だって、君が歌ってくれるなら、僕も歌わないわけにはいかないだろ？」

「じゃあ、期待してますよ。」

アリシアは少しだけからかうように言った。

レオネルは鼻を高くして、「任せておけ。」と自信満々に答えたが、心の中では少しドキドキしていた。

そして、レオネルはついに口を開いた。

「♪君と出会ってから、心が舞い上がって…」

その歌声は、ちょっとぎこちなくて、確かに上手とは言えなかった。

でも、その真剣な様子にアリシアは思わず吹き出しそうになった。

「ちょっと、レオネル…それ、なんだか笑っちゃいますよ。」

アリシアは手で口を押さえながら、笑いをこらえた。

「え！？笑っちゃダメだよ！」

レオネルは焦りながらも、歌い続けた。

「だって、君が歌う番だから、僕も気合い入れないと！」

「そうだけど…」

アリシアは笑いをこらえきれずに声をあげた。

「もう少しリズムを…」

「うるさい！リズムだって君が教えてくれるんだろ？」

レオネルは冗談を交えながら歌い続けた。

音程も多少外れているけれど、それがまた彼らしい。

アリシアは思わず手を叩いて笑った。「あはは！本当にあなたって、面白いです！」

「うるさいって！」

レオネルは少し顔を赤くして、肩をすくめた。

「でも、君が笑ってくれるなら、それでいいんだ。」

その言葉に、アリシアの胸が温かくなった。

レオネルの歌声が、なんだか心に響いてきた。

「じゃあ、私も…」

アリシアは少しだけ勇気を振り絞り、歌い始めた。

「♪月の光が照らす夜に、私は…」

彼女の歌声は、最初は緊張していたが、すぐに心が解けて、しっとりとしたメロディが森の中に広がった。


レオネルはその歌声に聞き入って、思わず見惚れてしまう。

「すごい…」

レオネルはしばらく黙ってアリシアの歌を聴き、やがて言った。

「君、ほんとうに上手だね。」

「ありがとう。」

アリシアは少し照れくさそうに笑って言った。

「でも、あなたも意外に歌うじゃないですか。」

「まあ、頑張ったからね。」

レオネルは少し鼻を高くして、得意げに言った。

「君のためだから、頑張らないと。」

その言葉に、アリシアは胸がキュンとした。

レオネルが自分のために何かをしてくれることが、こんなにも嬉しいなんて思わなかった。

「レオネル、ありがとう。」

アリシアは少し照れながらも、しっかりと目を見て言った。

「あなたのために歌うの、楽しかった。」

「もちろん。」

レオネルはニコっと笑って、「これからも、何でも一緒にやろうな。」

その言葉にアリシアは心が温かくなり、何か不思議な安心感を感じた。

彼と一緒にいると、全てがうまくいくような気がした。

「じゃあ、今度は…お昼ご飯を一緒に食べに行こうか？」

レオネルはにやりと笑いながら言った。

「こんなところで歌ってたら、腹が減ってきたよ。」

アリシアは笑って答えた。

「それなら、私が美味しいお弁当作ってあげますよ。」

「本当に？それじゃあ、最高だね！」

レオネルは嬉しそうに言い、二人は笑いながら丘を後にした。