【完結】透明令嬢だったけれど、素敵な愛を知ることができました。

(12)お昼の約束

丘を後にしたアリシアとレオネルは、隣に並んで歩きながら軽い会話を交わしていた。

風がやわらかく吹き、二人の髪が揺れる。

その瞬間、レオネルがふと立ち止まり、にっこりと微笑んだ。

「アリシア、実は僕…君のこと、もっと知りたいんだ。」

アリシアは目を丸くして、驚きの表情を浮かべた。

「え、そんな急に…？」

「だって、君が僕に言ってくれた歌の話、なんだか気になるんだ。」

レオネルは少し真剣な顔をして言った。

「どうして君は、あんな素敵な声を持ってるのに、歌わないんだ？」

「それは…」

アリシアは顔を少し赤くしながら、言葉を選んだ。

「歌うことが、どうしても恥ずかしくて…私、いつも人前で歌うのは苦手だったんです。」

「恥ずかしいなんて、全然思わないけどな。」

レオネルはにやりと笑いながら言った。

「君の声、とても綺麗だった。」

「ありがとう。」

アリシアは微笑んだが、すぐに顔を赤らめて視線を下ろした。

「でも…歌うことで何かが変わるって、ちょっと怖いんです。」

「変わるって？」

レオネルは首をかしげて、「どういうこと？」

アリシアはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐きながら言った。

「私、他の人と違って…ちょっと、内向的で、目立たない方が楽なんです。だから、自分が何かを変えたら、周りにどう思われるかが不安で。」

レオネルはしばらくアリシアをじっと見つめた。

その目は優しく、真摯で。

「君は、目立つ必要なんてないよ。」

レオネルは穏やかに言った。

「君はそのままで、十分素敵だ。それに、僕は君が笑ってくれるだけで、すごく嬉しい。」

アリシアはその言葉に心を打たれた。

レオネルの言葉は、まるで暖かい毛布のように彼女を包み込んだ。

「でも、歌を歌うのが怖いなんて…なんだか変ですね。」

アリシアは照れくさそうに言った。

「全然変じゃないさ。」

レオネルは肩をすくめて、笑顔で言った。

「だって、怖くないものなんて、何もないよ。僕も初めて馬に乗った時、ものすごく怖かったけど、今では大好きだ。」

「レオネル、あなた、馬に乗るのが得意なんですね。」

アリシアはその話に少し興味を持って聞いた。

「まあね、得意かどうかは分からないけど、君に見せてあげるのも面白いかも。」

レオネルは少し自信ありげに言った。

「いつでも教えてあげるよ。もし興味があれば。」

アリシアは目を輝かせた。

「本当に？」

「もちろんだ。」

レオネルは軽く肩をすくめた。

「君が怖がっているなら、僕が一緒に乗ってあげるから。」

「じゃあ…お願いしようかな。」

アリシアは少し恥ずかしそうに言った。

「怖いけど、レオネルが一緒なら、大丈夫かも。」

レオネルは目を細めて笑い、「じゃあ、決まりだね。」と言った。

「でも、その前に、君が作ってくれるお弁当が楽しみだな。」

アリシアは少し驚いた。「まだお昼の話、覚えてくれてたんですね？」

「もちろんさ。」

レオネルは肩をすくめて、少しおどけて言った。

「美味しいお弁当が待ってるなんて、僕にとっては一番の楽しみだ。」

アリシアは照れくさそうに笑った。

「それなら、精一杯美味しいのを作りますから。」

「おお、期待してるぞ！」

レオネルは大げさに胸を張った。

「きっと、僕のために作ったお弁当は、今まで食べた中で一番美味しいに違いない！」

「うーん、それほどでも…」

アリシアは笑いながら、顔を赤らめた。

「でも、頑張ります。」

二人は歩きながら、いつの間にかお昼を食べる場所を決めていた。

アリシアは少し心を躍らせながら、これからの時間が楽しみだと感じていた。

そして、レオネルが突然、ふと立ち止まった。

「そういえば、君…どんなお弁当を作るつもりなんだ？」

アリシアはちょっと考え込み、「えっと、たぶん、レオネルが好きなものを…。」と答えた。

「だから、野菜をたっぷり使って、ヘルシーにしようかなって。」

レオネルは少し驚いた様子で言った。

「ヘルシーって…おいおい、君、僕を健康オタクみたいに思ってるの？」

アリシアは笑いながら言った。

「でも、あなた、案外野菜も好きでしょう？」

「いや、野菜は苦手だぞ！」

レオネルはふざけたように肩をすくめて言った。

「でも、君が作ったものなら、どんなものでも食べるけど。」

その言葉を聞いたアリシアは、心の中でほんの少しだけ胸が高鳴るのを感じた。

「じゃあ…レオネルのために、少しだけ工夫するね。」

アリシアは微笑みながら答えた。

二人はお昼ご飯の話をしながら、だんだんと自然に心が通じ合っていった。

アリシアは以前よりもずっと楽しい時間を過ごしている自分に気づき、その温かさが心地よかった。