【完結】透明令嬢だったけれど、素敵な愛を知ることができました。

(22) 魅惑の夜の告白

数日後の晩、アリシアはひとりで庭に出て、月明かりの下でぼんやりと座っていた。

空気はひんやりとして、心地よい夜風が頬を撫でる。

庭の花々が夜の静寂の中でほんのりと香り、月の光が柔らかく地面を照らしていた。

しかし、アリシアの心の中では、ヴァレンティア侯爵との会話が何度も繰り返されていた。

その度に、心の中に重たいものが沈むような気がして、どうにも気分が晴れなかった。

「アリシア。」

突然、背後からその声が聞こえた。

思わず振り返ると、そこにはレオネルが立っていた。

夜風が彼の髪を揺らし、月の光を浴びた顔が一層魅力的に見える。

アリシアは少し驚きながらも、自然と笑顔を浮かべた。

「レオネル…どうしてここに？」と、少し恥ずかしげに尋ねる。

「君が気になって、ちょっと会いに来たんだ。」

レオネルは少し照れくさそうに言った。

「なんだか、君が悩んでいるように見えたから。」

彼の声には優しさが滲んでいたが、それ以上に彼の目には心配の色が浮かんでいた。

アリシアは彼をじっと見つめ、胸の内に湧き上がる感情を抑えきれなくなった。

「私、どうしても…婚約者を決めなければならないんだけど。」

その言葉に、レオネルは一瞬黙った。

だがすぐに真剣な眼差しで、アリシアを見つめ返した。

「それがどうした？」と、少し強い口調で言った。

「君が本当に好きな人と一緒にいるべきだ。そんなこと、誰が決めるんだ？」

彼の言葉は、アリシアの心にまっすぐに届いた。

「でも、父様が…」

アリシアは、どうしても父親の言葉が頭をよぎってしまう。

「父親の期待に答えることが、君の幸せじゃないだろ？」

レオネルは優しく、でも決然とした声で言った。

「君が選ぶべきは、自分の気持ちだ。」

その声の中には、彼自身の確固たる意志が込められていた。

その言葉が胸に響き、アリシアの心はじんわりと温かくなった。

思わず、彼の方に一歩踏み出し、少し照れくさそうに言った。

「私は、レオネルのことが…好き。」

その瞬間、レオネルは驚き、そして嬉しそうに微笑んだ。

「本当に？」

彼の目が輝いた。

アリシアは少し頬を赤くして、照れながらも頷いた。

「うん、ずっと前から。」

照れくさい笑顔を浮かべながら、言葉を続けた。

「でも、怖かった。自分の気持ちを信じるのが。」

それまでずっと、思い悩んでいた自分が嘘のように感じた。

「僕も。」

レオネルは軽くアリシアの手を取り、優しく握った。

その温もりに、アリシアの胸がさらに高鳴った。

「でも、君と一緒なら、怖くないよ。」

「本当？」

アリシアは、彼の目を見つめながら微笑んだ。

月明かりの下で、彼の顔がますます近く感じられ、その笑顔があまりにも温かくて、アリシアは少しだけドキドキしてしまった。

「うん、だって僕は君を守りたいから。」

レオネルは少し照れくさそうに、でも真剣に言った。

「君が不安そうにしているのを見て、どうしても放っておけなかった。」

アリシアはその言葉を聞いて、また胸の中が温かくなるのを感じた。

こんなにも優しく、真摯に自分を思ってくれる人がいることが、なんだかとても不思議で、幸せな気持ちに包まれていった。

「ありがとう、レオネル。」

アリシアは、素直にその言葉を口にした。

彼がどんなに気を使ってくれているのか、よくわかっていた。

二人は静かな夜の中で、手をつなぎながら、これからの未来に思いを馳せていた。

月明かりが二人を包み込み、冷たい風が肌を撫でる中で、アリシアは初めて心から安らかな気持ちを感じることができた。

「ねえ、レオネル。」

アリシアはふと、彼の顔を見上げながら言った。

「何？」

レオネルは、少し驚いたように顔を向けた。

「これから、どうしようか。」

アリシアは少し笑いながら言った。

「父様には、どう伝えるかしら？」

レオネルはちょっと考え込み、そして冗談めかして言った。

「僕に任せてくれ。君は、僕が一番素敵な方法で伝えるから。」

その言葉にアリシアは吹き出し、二人は笑い合った。

こうして、アリシアとレオネルの関係は、少しずつ、けれど確実に深まっていた。

未来の不安もあったが、二人なら一緒に乗り越えられると感じていた。

月明かりの下で、手をつなぎながら、アリシアは心の中で決心を固めた。

これからは、自分の気持ちに正直に生きることを。

そして、夜空の星々が二人を見守る中、アリシアは穏やかな気持ちで、少しずつ前を向いて歩き始めた。