【完結】透明令嬢だったけれど、素敵な愛を知ることができました。

(26)朝の微妙な距離

翌朝、アリシアは鏡の前で髪を整えながら、昨日の出来事を思い出していた。

レオネルの照れくさそうな顔、そしてあの言葉――「君に会う度に、すごくドキドキしてるんだ」。

あれからずっと胸の奥がじんわりと熱くなりっぱなしで、どうにもその感情を整理できなかった。

顔を赤くしてしまう自分が、まるでおかしくて、でも少し嬉しかった。

「まさか、レオネルがあんなに…」

アリシアは心の中で自分に言い聞かせるように呟きながら、また顔を赤くしてしまう。

外の朝の光が窓から差し込み、静かな部屋の中に温かな空気を運んできた。

その光の中で、自分の気持ちをどうにかしなければと思うものの、どうにもそのドキドキを消すことができなかった。

突然、ドアが軽くノックされ、アリシアは思わずビクッとして立ち上がった。

「アリシア？」

ドアの向こうから、低く、優しい声が聞こえた。

「あ、はい！」

慌ててドアの方を向いたアリシアは、顔が熱くなるのを感じながら、手早くドアを開けた。

すると、そこにはにっこりと微笑むレオネルが立っていた。

いつもは余裕のある笑顔を見せる彼だが、今朝は何か、いつも以上に心なしか、少しだけ照れくさい雰囲気が漂っているような気がした。

「おはよう。」

レオネルが微笑みながら軽く手を挙げた。

その目には、普段の落ち着いた様子ではなく、どこか熱を帯びた表情が浮かんでいる。

「お、おはようございます。」

アリシアは言葉が詰まり、少し動揺しながら挨拶をした。

「昨日は楽しかったね。」

レオネルが肩をすくめ、冗談っぽく言った。

「あれからちゃんと眠れた？」

「そ、それは…！」

アリシアは顔を真っ赤にして、言葉に詰まった。

昨晩の会話を思い出すと、どうしても胸がドキドキしてしまう。

レオネルがあの時、自分に伝えてくれた気持ちが、いまだに響いているようだった。

「心配しないで、君の気持ちはちゃんと受け取ったよ。」

レオネルがニヤリと笑いながら、アリシアの髪に軽く触れた。

「それに、あんなに素直な君を見るのは初めてだから、なんだか得した気分だな。」

レオネルの言葉に、アリシアは再び顔が赤くなるのを感じた。

「や、やめてください！そういうこと言うの！」

アリシアは急いで手で顔を隠し、少し後ずさりした。

レオネルのからかいが、嬉しいけれどもどこか恥ずかしい。

レオネルはそんなアリシアを見て、楽しそうに笑った。

「ごめん、冗談だよ。でもさ、君が恥ずかしがる顔が可愛すぎて、ついからかいたくなっちゃうんだ。」

「もう…！」

アリシアはうつむきながら、照れくさい気持ちを必死に隠そうとする。

けれど、内心では彼の言葉が嬉しくて、心が温かくなるのを感じていた。

その一瞬の沈黙の後、レオネルがふっと息を吐いて、真面目な表情になった。

「でも、本当に君のことを大切に思ってるよ、アリシア。」

その言葉に、アリシアは少しだけ驚き、心がふっと軽くなるのを感じた。

「私も、あなたが…」と言いかけて、また少し言葉を詰まらせる。

どうしても、自分の気持ちをそのまま言葉にするのが恥ずかしい。

「うん、わかってる。」

レオネルは穏やかに微笑み、アリシアの手をそっと取った。

「それなら、もう少しだけ君に寄り添わせてくれ。」

アリシアはその手の温もりを感じながら、少しだけ胸が高鳴った。

「はい。」

彼の優しい言葉に、自然と頷く。

レオネルはその手を引いて、ゆっくりと歩き始める。

彼の温もりが心地よく、アリシアの胸は静かに、しかし確実にときめいていた。

「でもさ、アリシア。」

レオネルがふと立ち止まり、真剣な目でアリシアを見つめた。「君に言いたいことがあるんだ。」

「え、何ですか？」

アリシアは少し驚きながらも、目を合わせた。

レオネルは微笑みながら、少し照れたように言った。

「これから、君にもっと素直になってほしい。俺、君にいっぱい甘えたいんだ。」

アリシアはその言葉に、驚きと共に、さらに胸がドキドキと高鳴るのを感じた。

レオネルの言葉の中に込められた真剣な気持ちが、彼の優しさが、まっすぐに心に届いてくる。

「じゃあ、もっと素直になるように頑張ります。」

アリシアは少し照れくさそうに微笑んだ。

レオネルは嬉しそうに笑い、「ありがとう、アリシア。」としっかりと手を握り返した。