寝坊した大聖女、1000年後の王子に溺愛される

朝日みらい

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第4章 王城の陰謀

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 王都に戻ってきてから一週間。

 ロヴェン村の奇跡が広まり、王宮も王国も、わたしのことを『本物の聖女』と祭り上げていました。  
 ありがたいような、やりすぎのような……。

「オーフィン様の花のおかげで国が救われた!」  
「伝説は本当だったのだ!」  
「さすが聖女様! 笑顔が眩しい!」

 ……わたしの寝起きすっぴんでも同じこと言えますかと、心の中で突っ込みました。  

 けれど、そんな平和な祝福の裏で、どうやら面倒なことも起きていたようです。

***

「“偽聖女”の噂が出回っている?」

「ええ。」  
 紅茶を片手に告げたロードレック殿下の眉間に、深いしわが寄っていました。

「オーフィンほど無欲で、優しい人を偽物と呼ぶなんて、信じられませんね。」

「誰がそんなことを……?」

「どうやら、貴族院の一部勢力の動きだとか。あなたの力を恐れているのでしょう。」

 ふむ……なるほど、また貴族の方々の胃が痛くなる話ですね。

「わたしの力なんて、花が咲くだけですよ。笑ったら咲くんです、便利ですけど。」

「その“笑えば咲く”のが一番怖いんですよ、嫉妬深い貴族には。」

「えぇ……笑顔禁止令でも出されたらどうしましょう。」

「出させません。」
 ロードレックがゆるく笑いながら、わたしのカップにそっと紅茶を注ぎ足してくれました。

 その動作があまりに自然で、まるでずっと前から、誰かの世話を焼くのに慣れている人のようで。  
 胸の奥がふっと温かくなります。

***

 しかし、問題はほんとうに起きました。

「大変です、オーフィン様!」  
 侍女のメイリアが慌てて部屋に飛び込んできました。  
「王都の新聞全部が、“偽聖女疑惑”で埋まっております!」

「えっ、えっ!? 寝坊の次は偽聖女!? 一体どんなスキャンダル構成!?」

 新聞の見出しにはこう書かれていました。

【千年前の“聖女”を名乗る謎の女、王子に取り入り政治利用か!?】  
【噂の美貌、“奇跡”は演出!? 王都学者の見解――花は仕込み!?】

 ……花が仕込みって。あれ、普通に生えましたよ? 地面から。

「あのですね、メイリアさん。わたし、そんな器用なサクラ芸できません。」

「わ、わかっております! でも貴族院のあの方々が……」

 ちょうどその時、扉の外からわざとらしい足音が響きました。

「ごきげんよう、聖女様。」

 かすかに甘ったるい声の主は、貴族院議長の姪にして、王都一の自称美女、リュシエル・ヴァーレン嬢でした。  
 白いドレスをひらめかせて登場するその姿、ちょっと眩しいです。

「まあまあ、お茶ですのね? 失礼しても?」

「どうぞどうぞ。今ちょうど、噂の“偽聖女茶会”を開催してるところです。」

「ふふ、皮肉もお上手になられて。」

 リュシエル嬢は唇を傾げて、わざとらしくため息をつきます。  
「いくら王子直属の庇護があるとはいえ、あなたのような千年前の人間が“今の国”を理解できるはずないでしょう? ねぇ、おかしくて。」

「そうですねぇ。」  
 わたしはお茶を一口飲んでから、にっこり笑いました。  
「千年前と違って、いまはティーカップがすごく軽くてびっくりしました。」

「……は?」

「あと砂糖が三種類もあって! 一番高いのを使えば、あなたの口の悪さも少しは甘くなるかもですね!」

 部屋の空気が、一瞬ぴきっと凍りました。
 メイリアの悲鳴が「また言ったぁ」と心の底から響いています。

 でも、わたしは笑っておきます。だって、負けたくないんです。誰に何を言われても。

「じゃあ、偽物だと思うなら、証拠を出してください。」

「……へぇ。」

 リュシエル嬢は扇で口元を隠して、背を向けます。  
「まあいいですわ。時間が証明しますもの。――あなたが、“嘘”だってことを。」

 そう言い捨てて出て行きました。

「もう、ドラマですかここは……」

「ええ、王族劇場の開幕ですよ。」
 扉の影から、ロードレックが姿を現しました。

「っ! ろ、ロード!? なんで聞いてたんですか!」

「あなたが一人で頑張ってるのを見て、放っておけると思いますか?」

 その穏やかな声を聞いた瞬間、緊張がほどけて涙があふれそうになりました。

「ロード……」

「ふふ、そんな泣きそうな顔は似合いませんよ、聖女様。」

 そう言って、彼はそっとわたしの頬に触れました。  
 温かな手のひらが、少し冷えた頬を包み込みます。

「僕が傍にいます。必ずあなたを守ります。」

 心臓が一瞬止まって、時間がゆっくり流れました。  
 だめです。そんなまっすぐな声で言われたら。

「……ずるいです、ロード。」

「ずるくても、あなたに泣いてほしくはありません。」

 視線が絡むたびに、何かがほどけていくようでした。  
 わたしはうつむいて頬の熱を隠します。

「……笑えばいいんですよね、わたし。」

「ええ。あなたの笑顔が、この国の希望なんです。」

「そんなこと言われると、ちゃんと笑わなきゃって思っちゃうじゃないですか。」

「それでいいんです。」

 ロードレックの穏やかな笑顔に、心がほんのり灯をともしたみたいに温かくなりました。

***

 それから数日後。

 女官室では、なぜかわたしが「お茶会の無双聖女」と呼ばれていました。  
 ……なんでそうなったんでしょう?

「オーフィン様、あのリュシエル嬢まで“あの人に逆らうと花が咲く”とか言ってましたよ!」  
「もう勘弁してください……」

 でも、村の人たちから届いた花束には小さな手紙が添えられていました。

『笑顔のお姉ちゃん、ありがとう。花、また咲いたよ。』

 それを読んだ瞬間、胸の奥がぽっと温かくなりました。

「泣いたら笑えばいい。ほんと、それがいちばんですね。」

 小さく呟いたその言葉が、静かな廊下に溶けていきました。  
 その先で待っている未来に、また一輪の希望が咲くと信じながら。

 ──そして、夜の王城の廊下で。  
 ロードレックはひそやかに報告を受けていた。

「例の貴族たちが、“封印の記録”を探りはじめました。」

 彼は目を閉じて低く呟く。

「やはり、リースと彼女の結界の真実にたどり着く気か……。」

 穏やかな月光が射し込む。  
 それは、二人の運命を静かに揺らめかせていた――。
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