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 アンリ神父はもう、エミリーの顔を見ようとしませんでした。

「役割? 何を言っているのですか? あなたの役割は聖女として神様に仕えること。癒しの力で人々を助けることでしたよね。その役割を放棄したあなたは聖女ではありません」

「私はもう聖女ではないというのですか?」

 エミリーは驚いて尋ねました。

「そうです。あなたは教会から追放されます」

 アンリ神父は冷たく言いました。

「追放される……?」

 エミリーの瞼に熱いものがこみ上げてきました。

「そうです。すみやかにここを立ち去ってください。これからは子爵家の令嬢として過ごしなさい」

 神父は言って、扉を閉めました。

 エミリーは教会の中庭で一人取り残されました。

 そのまま自分の部屋で、荷物をまとめ始めました。ひとまず、実家の子爵家に帰ることにしました。

 エミリーは自分の過去を振り返っていました。幼い頃から癒しの能力を持っていて、その能力を使って、多くの人々の命を救えたし、その能力で、聖女と呼ばれ、尊敬され、愛してもらった。それで十分ではなかったの。

 それから自分の未来を考えてみました。彼女はもう癒しの能力を使えないし、聖女ではないのです。しかも、悪魔のような魔王にだまされて力を奪われてしまったかもしれない。もしかしたら、自分の力を悪用されるかもしれないと思うとぞっとしました。

 なぜか、エミリーはアルベールのことを想いました。幼馴染であり、恋人であり、将来の愛を誓いあってきました。彼は優しくて明るくて素直な人だった……。

 アルベールは自分に対しても優しくて、よく遊んだり話したりしてくれた。よく笑顔で見つめたり、手を握ったりしたな。

 愛情を告白して、プロポーズまでしたのに……。

 エミリーはアルベールのことを愛していたし、プロポーズを受け入れて、あんなに嬉しかったことはありませんでした。

 翌朝、エミリーは自分の荷物を持って、部屋を出ました。教会の前に向かって、中心広場から出る乗合馬車で故郷に戻ろうと思っていました。

 そこで、彼女は驚いたことに出くわしたのです。それは、公爵家の豪奢な馬車でした。
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