【完結】傷物令嬢は無愛想な宮廷魔術師に溺愛される ~元婚約者に捨てられた私ですが、彼の言葉が私を強くしてくれました~

朝日みらい

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第3章「傷物」宣告

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「リシェル様、デリック様がお見舞いにいらっしゃいましたよ」

侍女の声で目を覚ました時、わたしの胸は甘い期待でいっぱいになりました。

あれから、もう三日も経っていたでしょうか。事件以来、カリナは侍女を辞めて戻りませんでした。

傷の痛みは少し落ち着きましたが、心はまだ、深い暗闇の中をさまよっています。

腕に巻かれた分厚い包帯が、わたしが受けた心の傷をそのまま形にしたかのようでした。

でも、デリック様が来てくださる。

その一言が、わたしを支える唯一の光でした。

「ご無事でよかったです。リシェル」

そう言って、デリック様はわたしを優しく抱きしめてくださるでしょうか。

あるいは、わたしの手を握って、「君が生きているだけでいいんだ」と微笑んでくださるかもしれません。

そうしたら、わたしは「デリック様……!」と感激のあまり泣き出して、でも、もう大丈夫です、と笑顔を浮かべるのです。

そんな、夢のような光景を想像しながら、わたしは、震える手で乱れた髪を整え、精一杯の笑顔を浮かべました。

「デリック様をこちらへお通しして」

侍女が部屋を出ていくと、わたしは静かに息を吐きました。

どうか、デリック様が、わたしを以前のように見てくれますように。

傷ついたわたしを、それでも愛してくれますように。

そんな、切ない願いを込めて、わたしは彼を待ちました。

やがて、部屋の扉がノックされ、デリック様が姿を現しました。

「リシェル。体調はどうだい?」

彼の声は、いつもと変わらない、甘く優しい声でした。

栗色の髪と緑の瞳。

すらりと伸びた背筋は、騎士として鍛え上げられた証です。

いつも完璧な微笑みを浮かべる彼の姿は、まるで絵画から抜け出してきたようでした。

「デリック様……! 来てくださったのですね」

わたしは、ベッドの上で身を起こし、彼に微笑みかけました。

「ええ。君の無事が気がかりでね」

そう言って、彼はわたしのベッドサイドに椅子を引いて座りました。

わたしは、彼が来てくださったことの安堵から、堰を切ったように話し始めました。

「あの夜は、本当に恐ろしくて……。わたし、もう駄目かと思いました。でも、デリック様との結婚を夢見ていたから、なんとか……」

そこまで話したところで、わたしは、彼がわたしの腕に巻かれた包帯をじっと見つめていることに気がつきました。

「リシェル、君は……どうしてそんな傷を負ってしまったんだい?」

彼の声は、先ほどまでの甘さが消え、どこか冷たい響きを帯びていました。

わたしは、ゾッとしました。

まさか、デリック様はわたしが襲われたことを知らないのでしょうか?

「襲われてしまって……。でも、もう大丈夫です。ちゃんと治療をしていただきましたし、いずれは傷跡も薄くなるかと」

わたしは、彼を安心させようと、精一杯の笑顔を浮かべました。

ですが、デリック様は何も答えず、ただじっとわたしを見つめていました。

その視線は、まるで汚れたものを見るかのようでした。

「デリック様……?」

わたしは不安になり、彼の名前を呼びました。

すると、彼はわたしから視線を逸らすように、フッと小さく鼻で笑いました。

「君の顔は、まだ美しい」

その言葉に、わたしは一瞬だけ、安堵しました。

「ですが、花嫁にふさわしいのは完璧な身体だ。傷物の女など、伯爵家の妻にはできない」

彼の言葉に、わたしは耳を疑いました。

「デリック、様……?」

「騎士たる俺が、傷物を妻に迎えるわけにはいかないだろう? 騎士の名に泥を塗る行為だ」

彼は、まるでつまらないものを眺めているかのように、わたしから目をそらしました。

わたしは、頭が真っ白になりました。

傷物。

その言葉が頭の中で、何度も何度も繰り返されました。

「デリック様、わたしは、貴方の婚約者です……! 信じてください! この傷は、わたしが望んで負ったものではありません!」

わたしは、必死に訴えました。

ですが、デリック様はわたしの言葉を、まるで耳に届いていないかのように冷たい瞳を向けるだけでした。

「責めるなら自分の運命を呪え。俺のせいではないだろう?」

その一言が、わたしの世界を音を立てて崩壊させました。

わたしは、デリック様との結婚を夢見ていました。

彼となら、きっと幸せになれると信じていました。

ですが、彼はわたしを「傷物」と呼び、あっさりと切り捨てたのです。

わたしは、彼の言葉に、涙が止まらなくなりました。

「……っ」

声にならない悲鳴を上げながら、わたしは、布団に顔を埋めました。

「君は、伯爵家の妻にふさわしくない」

デリック様はそう言って、静かに部屋を出ていきました。

彼が去った後も、わたしは、ただ泣き続けるしかありませんでした。

わたしの腕は、もう治らないのかもしれない。

そして、デリック様との未来も、もう永遠に手に入らないのだ。

わたしは、この世から、一人取り残されてしまったかのような、孤独な気持ちに襲われました。

もう、何もかもどうでもいい。

わたしは、心の底からそう思いました。

部屋に差し込む、淡い光がまるで嘲笑っているかのようでした。


絶望に沈むわたしの病室に、両親の招きで、一人の青年が入ってきました。

無愛想で、ぶっきらぼうな黒髪の青年。

宮廷魔術師、セオドール=ヴァレンティア様でした。
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