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 アナリスは真っ赤になって彼から離れようとするが、慣れない馬車のせいでうまくバランスが取れない。

「大丈夫かい?  アナリス嬢」

 ラファエルはアナリスを抱き寄せると、しっかりと腕の中に閉じ込めた。

 その力強い抱擁に、アナリスはますますパニックになる。

(いやああああ!)

 アナリスが心の中で絶叫していると、馬車の外から馬に跨る衛兵たちの声が聞こえた。

「殿下ー!」

 ラファエルはすぐに反応して、眼光鋭く窓から外を見ると、

「なにごとだ?」

と訊いた。

 馬に跨った衛兵たちは、前方を指さして、

「行く手を盗賊どもが、ふさいでおります。通行料を払え! ついでに女もよこせとわめいております!」

と叫んだ。

 この国境近くの山岳地帯に、山賊が多くいることは聞いたことがあったものの、まさか実際にあったことなど、アナリスには経験がない。

 誘拐した女性を奴隷にして娼館などに売りさばくという話も聞いたことがある。アナリスは更に青ざめる。

 みるみるうちに、荒馬にのった盗賊たちがぐるぐると旋回しながら、馬車の方へと近づいてくる。

「金は払わない。払っても、奴らはもっとせびるだけだ。もしくは他のものに危害を加えるのみだろう。アナリス嬢は、わたしの命をかけて守り抜く。そして我々は、悪党たちを追っ払う!」

 ラファエルは言い放つと、衛兵たちに前進するように命じた。

 馬車はゆっくりと動き始める。

(なに、なんなの?  どうすればいいの?)

 アナリスが動揺しながらラファエルを見上げると、彼は安心させるように微笑んでくれた。

「大丈夫だよ」

 アナリスは、ただただ恐怖に怯えるしかなかった。

 盗賊たちは一様に顔を黒い布で覆っており、正体が分からないが、布からぎょろりと除く赤い目は殺気で満ちている。

 彼らは、いっせいに馬車をめがけて突進してきた。

「うぉー!」

「金がだめなら女だ! 女をよこせーっ!!」

 盗賊たちは口々に叫びながら、馬車を取り囲んでくる。

 その叫び声や馬の音を聞いて、アナリスは震えが止まらなくなる。

(怖いわ!!)
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