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「でも、ご存じかと思いますが、わたし、王妃教育などろくにしたことがないですし、ダンスなんてかなり酷いかと思うんですけど……大丈夫でしょうか?」

「それなら心配いりませんよ。王宮には専門の教育係がおりますので」

 アルが微笑んで言った。

(ええっ、厳しそう……ヒジバシのスパルタ教育は嫌いかも)

 アナリスは心の中で嘆息した。

 だが、断るわけにもいかないので、仕方なく引き受けることにした。

「わかりました。不束者ですが、よろしくお願いします」

 アナリスは再び頭を下げる。

 すると、アル・デイラーン公爵は満足げな表情を浮かべると、

「では、王宮のダンスホールに参りますか?」と言った。

「はい……」

 アナリスが答えると、アル・デイラーン公爵は頷いた。そして、彼は馬車に向かって歩いて行く。

(ああ……なんてことでしょう)

 アナリスは心の中で呟くと、急いで後を追ったのであった──。

 アナリスが馬車に乗り込むと、アル・デイラーン公爵が隣に腰掛ける。そして、クリストファーも隣に座る。

(はあ……やっぱり緊張するわ)

 アナリスは、膝の上でぎゅっと両手を握りしめる。

「緊張しているのですか?」

 アル・デイラーン公爵が気遣うように言った。

 アナリスは慌てて笑顔を作ると首を横に振った。そして、話題を変えることにした。

「ところでお尋ねしたいことがあるんですが……」

「なんでしょうか?」

 アナリスは、夢の中で見たことを話してみようと思った。宰相であれば、なにか知っているかもしれない。

 夜の闇に紛れてターバンを巻いた男たちの一群が、何やら岩場から何か赤い鉱石を掘り出している姿が見えたことを──。

「デイラーン宰相様、お聞きしたいことがあるですけれど、国境付近の盗賊団のことなのですが……。どうしてあんなに治安が悪いのですか?」

 アナリスは不安そうな表情を浮かべて尋ねた。

「原因は……あの荒野から魔法石が発掘されたんです。その鉱石の魔力は強力で、傷を癒すことも武器にもなるものです。その魔法石の採掘は禁じているのです。しかし窃盗団が後を絶たなくてね……」

 アル・デイラーン公爵は淡々と説明する。

(魔法石……?)
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