【完結】作家の伯爵令嬢は婚約破棄をされたので、愛読者の第三王太子と偽装結婚して執筆活動に邁進します！

(58)

「わたしはアロンソ・シタールと申します。アダムス家の家老職として、この城と領地を代理で治めております」

　男性は自己紹介をした。

　彼は背が高く、すらりとしていてなかなかの美形だ。

　目元が鋭く、緊張した雰囲気を感じる。

「さあ、お城の中をご案内します。どうぞこちらへ」

　彼は、アナリスを先導しながら、城の中を歩いていく。

「お嬢様はここでお生まれになって、このお城で2年間お住まいになっていました」

　彼は懐かしそうに微笑むと、ゆっくりと歩きながら教えてくれた。

「お父様は、どのような方だったのですか？」

　アナリスは、興味津々といった様子で尋ねた。

「そうですね……あなたのお父さまであるブルース・アダムス公爵は、とても聡明な方でしたよ。外交手腕に長けていて、隣国のエスカルゴ王国の国王陛下とも親しくされていたようでした」

　アロンソは、懐かしそうに語った。

「わぁ……すごい方だったんですね」

　アナリスは、感嘆の声を上げた。

　自分の父親ながら、なんだか誇らしい気持ちになる。

　アロンソは城の塔に案内した。

　そこは小さな小部屋になっていて、星やハートの壁紙が貼られていた。

「ここがお嬢様のお気に入りのお部屋だったのですよ」

　彼は微笑みながら言った。

　アナリスは部屋の中を見回しながら、自分がここで過ごしていた頃を想像する。

──どんな風に過ごしていたのだろう？

「覚えていますか？」

　アロンソが尋ねた。

　アナリスはゆっくりと窓辺に近づいた。

　窓からは一面に海が見える。

　紺碧の空に、真っ青な水平線が広がり、白い帆船が浮かんでいるのが見えた。

「ええ、なんとなく……」

　アナリスは頷いた。

　確かにどこかで見たことがある景色だ

────夜の闇に紛れてターバンを巻いた男たちの一群が、掘り出した赤い鉱石を、ハント家の紋章の入った木箱に入れて、城の地下倉庫へ運び入れている光景が目の前に浮かんできた──！


（予知夢だわ。それも鮮明に見えてくる……）