【完結】薔薇の仮面 ~演劇大好き少女は公爵様に溺愛されて~

朝日みらい

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第1章 運命の幕開け

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田舎町での生活は、まあ、それなりに平和だった。朝は小鳥のさえずりで目を覚まし、母さんと一緒に洗濯をし、昼は市場で食材を選び、夜は暖炉の前で母さんの編み物を眺める。  

……うん、退屈!!  

そんなある日、町の広場に見慣れない旗が立った。

「王都宮廷劇団、今宵この町にて公演!」なんて大きな布に書かれていて、町の人たちは大騒ぎだ。

もちろん私も大興奮! 劇団なんて、都会の人が楽しむものだと思ってたのに、こんな田舎町まで来てくれるなんて。  

「行きたい!!」  

そう母さんに言ったら、返ってきたのはお約束の「ダメよ」。  

「劇なんて、貴族の道楽か、旅芸人の見せ物でしかないのよ。そんなものに関わったら、将来まともなお嫁にいけなくなるわ」  

いや、私は別に嫁ぐ気は……まあ、それはさておき、どうしても行きたい。

だって、町の子どもたちも、商人の奥さんたちも、みんなで行くって言ってる。私だけが家に閉じ込められるなんて絶対イヤだ。  

そこで、私は作戦を考えた。  

「母さん、病気になっちゃったみたい……(ゴホゴホ)」

「うそおっしゃい!!」  

バレた。まあいい、強行突破だ!

 「ちょっと市場に行ってくる!」と嘘をつき、母さんの目をかいくぐって劇場の広場へと駆け出した。  

そして、私は運命の舞台に足を踏み入れる。  

——目の前に広がる光景は、まるで別世界だった。  

舞台の上では華やかな衣装をまとった役者たちが舞い踊り、劇中の貴族たちが激しく口論し、恋に落ち、涙し、笑いあっていた。まるで魔法にかかったように、私はその世界に飲み込まれた。  

「すごい……!」

その瞬間、隣から低い声が響いた。  

「初めて観るのか?」  

驚いて振り向くと、そこには上等なマントを羽織った青年がいた。光に照らされた彼の横顔は整いすぎていて、思わず二度見する。  

「えっ、ええっと、はい!」

「ほう。どうだった?」  

「あ、あの……すごく、胸が熱くなりました! まるで私まで舞台の中にいるみたいで……!」  

青年はクスッと笑うと、私をじっと見つめた。その瞳は深い青色で、夜空のように吸い込まれそうだった。  

「いい目をしているな。……君、役者になってみる気はないか?」  

その一言に、私はひっくり返りそうになった。  

「えぇっ!? 私がですか!?」  

「そうだ。舞台のことを何も知らないのに、心が震えたのだろう? それは役者としての素質がある証拠だ」  

「いやいや、そんな急に……!」  

「だったら、試してみればいい」  

彼はにやりと笑うと、ふっと私の手を取った。  

——ぎゃー! 近い! 手! こんな素敵な人に触られてる! どうしよう!!  

頬が熱くなって、どう返事をすればいいのかも分からない。でも、その手は驚くほど温かくて、しっかりとした力強さがあった。  

「役者というのは、人生を何度も生きることができる存在だ。楽しいぞ?」  

まるで誘うように、青年はささやく。  

……楽しそう。すごく、すごく。

でも、そのとき私は思い出した。母さんの「劇には関わるな」という言葉を。  

「でも……母が許さないと思います」  

「なら、どうする?」  

私は青年の顔を見上げた。  

どうするって、そんなの決まってる。  

「……やってみたい!」  

気がつけば、そう叫んでいた。  

青年は満足そうに笑い、「いい返事だ」と言って、私の手を優しく引いた。  

こうして、私は劇団の世界へと足を踏み入れた。

母さんの反対? そんなの、今は考えたくない! だって、私の胸はこれまでにないくらい高鳴っているんだから!  
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