【完結】薔薇の仮面 ~演劇大好き少女は公爵様に溺愛されて~

朝日みらい

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第9章 試練の舞台

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王宮劇団の正式な一員として迎えられた私は、ついに大舞台に立つことになった。  

宮廷劇の主演。貴族たちが見守る壮麗な舞台。  

「くぅぅぅぅぅ!! 緊張するううう!!」

楽屋で頭を抱えながら転がっていると、隣で衣装を直していたリナが苦笑した。  

「マリア、あんたもう主演何度目よ?」

「いや、今までの劇団とは違うの! ここは王宮劇団! 失敗したら即クビの可能性もあるのよ!? しかも今日の舞台には王妃陛下もいらっしゃるっていうじゃない!」

「……それに」

私はそっと舞台袖に視線を向けた。  

そこには、艶やかな衣装をまといながら、余裕の笑みを浮かべているセレーナの姿があった。  

彼女は王宮劇団の花形女優であり、絶対的な存在。  

そして――私を良く思っていない筆頭候補でもある。  

---

セレーナは私が宮廷劇団に入ってからというもの、何かと目をつけてきた。  

「新人のくせにずいぶんとチヤホヤされてるじゃない?」 

「まあ、すぐにみんな気づくでしょうけどね。あなたみたいな田舎劇団上がりが、王宮の舞台に立つにはふさわしくないって」

まーったく嫌味がうまいこと。  

そのうち「あなたの顔が気に入らないのよ」とか言い出すんじゃないかと思っていたら、案の定、言われた。  

「……あなたのその、庶民っぽい顔が気に入らないのよね」

心の中で「やっぱり!!!」と叫んだのは言うまでもない。  

---

そして迎えた本番。  

幕が上がると、王宮の豪華な劇場が目に飛び込んできた。  

金色に輝くシャンデリア、着飾った貴族たち、そして最前列には優雅な笑みを浮かべる王妃陛下。  

私は大きく息を吸った。  

「……よし、やるしかない!」 

セレーナが何か仕掛けてくるのはわかっていたけれど、私のやるべきことは一つ。  

全力で演じること。  

「たとえ相手がどんなに意地悪な花形女優でも、舞台の上では関係ない!」

そう意気込んで舞台に立ったのはいいものの――。  

やっぱり来たよ、セレーナの嫌がらせ!!  

---

彼女は芝居の中でわざと私の衣装の裾を踏んだり、予定外のセリフをぶつけてきたりと、あの手この手で私を困らせた。  

けれど――負けるもんですか!!  

私は即興でセリフをアドリブに変えて、むしろ彼女を追い詰める演技をしてやった。  

「まあ、なんて意地の悪いお姫様でしょう!」  

「それはあなたが無礼な庶民だからよ!」  

本来なら「お優しい姫様」なんて台詞だったのに、セレーナが意地悪モードに入ったので、私も全力で演じ返した。  

観客たちはすっかり引き込まれ、どよめきが起こる。  

そして、幕が降りる頃には、劇場全体が大歓声に包まれていた。  

セレーナは信じられないといった顔で立ち尽くし、私は客席からの拍手を全身に浴びながら、勝利を確信した。  

---

舞台が終わり、楽屋に戻ると――。  

「……すごかったな」

背後から、あの低く甘い声が聞こえた。  

振り向くと、ヴァルターがそこにいた。  

「ヴァルター!」

仮面の奥から覗く瞳が、じっと私を見つめていた。  

その視線が、なんだか……妙に熱っぽく感じる。  

「……お前、すごかった」

そう言いながら、彼は私の頬にそっと触れた。  

「舞台の上のお前は……まるで光みたいだった」

ど、どうしよう……。  

こんなこと言われたら、また心臓が爆発しちゃう!!  

「ちょ、ちょっと……褒めすぎじゃない?」

照れて顔を背けると、彼が少しだけ笑った。  

「いや、足りないくらいだ」

そして――ふいに、ヴァルターが私の腰を引き寄せた。  

「お前は俺の誇りだ、マリア」

え、ちょ、ええええええ!?!?!?!?  

「な、なに急にデレデレしちゃってるの!?」

必死に抗議するけど、ヴァルターは余裕の笑みを浮かべたまま。  

そのまま、私の髪にそっと口づけてきた。  

や、やめて!! 心臓がもたない!!!  

「ヴァルター!! そんなことしてる場合じゃないわよ!」

「……?」

彼が不思議そうに顔を上げる。  

私は深刻な顔で続けた。  

「セレーナさんに勝ったのはいいけど、次はあなたの番よ!」

そう、セレーナとの対決の裏で、宮廷内ではヴァルターを狙う陰謀が渦巻いている。  

彼はふっと笑い、私の手を取った。  

「じゃあ……お前も手伝ってくれるか?」

そう言って、彼は私の手の甲に軽く唇を落とす。  

うわああああ!!! そういうの!! そういうの!!! もっと心の準備をさせてよ!!!  

でも――。  

私は彼の手をぎゅっと握り返し、真剣な目で頷いた。  
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