9 / 40
第9章 試練の舞台
しおりを挟む
王宮劇団の正式な一員として迎えられた私は、ついに大舞台に立つことになった。
宮廷劇の主演。貴族たちが見守る壮麗な舞台。
「くぅぅぅぅぅ!! 緊張するううう!!」
楽屋で頭を抱えながら転がっていると、隣で衣装を直していたリナが苦笑した。
「マリア、あんたもう主演何度目よ?」
「いや、今までの劇団とは違うの! ここは王宮劇団! 失敗したら即クビの可能性もあるのよ!? しかも今日の舞台には王妃陛下もいらっしゃるっていうじゃない!」
「……それに」
私はそっと舞台袖に視線を向けた。
そこには、艶やかな衣装をまといながら、余裕の笑みを浮かべているセレーナの姿があった。
彼女は王宮劇団の花形女優であり、絶対的な存在。
そして――私を良く思っていない筆頭候補でもある。
---
セレーナは私が宮廷劇団に入ってからというもの、何かと目をつけてきた。
「新人のくせにずいぶんとチヤホヤされてるじゃない?」
「まあ、すぐにみんな気づくでしょうけどね。あなたみたいな田舎劇団上がりが、王宮の舞台に立つにはふさわしくないって」
まーったく嫌味がうまいこと。
そのうち「あなたの顔が気に入らないのよ」とか言い出すんじゃないかと思っていたら、案の定、言われた。
「……あなたのその、庶民っぽい顔が気に入らないのよね」
心の中で「やっぱり!!!」と叫んだのは言うまでもない。
---
そして迎えた本番。
幕が上がると、王宮の豪華な劇場が目に飛び込んできた。
金色に輝くシャンデリア、着飾った貴族たち、そして最前列には優雅な笑みを浮かべる王妃陛下。
私は大きく息を吸った。
「……よし、やるしかない!」
セレーナが何か仕掛けてくるのはわかっていたけれど、私のやるべきことは一つ。
全力で演じること。
「たとえ相手がどんなに意地悪な花形女優でも、舞台の上では関係ない!」
そう意気込んで舞台に立ったのはいいものの――。
やっぱり来たよ、セレーナの嫌がらせ!!
---
彼女は芝居の中でわざと私の衣装の裾を踏んだり、予定外のセリフをぶつけてきたりと、あの手この手で私を困らせた。
けれど――負けるもんですか!!
私は即興でセリフをアドリブに変えて、むしろ彼女を追い詰める演技をしてやった。
「まあ、なんて意地の悪いお姫様でしょう!」
「それはあなたが無礼な庶民だからよ!」
本来なら「お優しい姫様」なんて台詞だったのに、セレーナが意地悪モードに入ったので、私も全力で演じ返した。
観客たちはすっかり引き込まれ、どよめきが起こる。
そして、幕が降りる頃には、劇場全体が大歓声に包まれていた。
セレーナは信じられないといった顔で立ち尽くし、私は客席からの拍手を全身に浴びながら、勝利を確信した。
---
舞台が終わり、楽屋に戻ると――。
「……すごかったな」
背後から、あの低く甘い声が聞こえた。
振り向くと、ヴァルターがそこにいた。
「ヴァルター!」
仮面の奥から覗く瞳が、じっと私を見つめていた。
その視線が、なんだか……妙に熱っぽく感じる。
「……お前、すごかった」
そう言いながら、彼は私の頬にそっと触れた。
「舞台の上のお前は……まるで光みたいだった」
ど、どうしよう……。
こんなこと言われたら、また心臓が爆発しちゃう!!
「ちょ、ちょっと……褒めすぎじゃない?」
照れて顔を背けると、彼が少しだけ笑った。
「いや、足りないくらいだ」
そして――ふいに、ヴァルターが私の腰を引き寄せた。
「お前は俺の誇りだ、マリア」
え、ちょ、ええええええ!?!?!?!?
「な、なに急にデレデレしちゃってるの!?」
必死に抗議するけど、ヴァルターは余裕の笑みを浮かべたまま。
そのまま、私の髪にそっと口づけてきた。
や、やめて!! 心臓がもたない!!!
「ヴァルター!! そんなことしてる場合じゃないわよ!」
「……?」
彼が不思議そうに顔を上げる。
私は深刻な顔で続けた。
「セレーナさんに勝ったのはいいけど、次はあなたの番よ!」
そう、セレーナとの対決の裏で、宮廷内ではヴァルターを狙う陰謀が渦巻いている。
彼はふっと笑い、私の手を取った。
「じゃあ……お前も手伝ってくれるか?」
そう言って、彼は私の手の甲に軽く唇を落とす。
うわああああ!!! そういうの!! そういうの!!! もっと心の準備をさせてよ!!!
でも――。
私は彼の手をぎゅっと握り返し、真剣な目で頷いた。
宮廷劇の主演。貴族たちが見守る壮麗な舞台。
「くぅぅぅぅぅ!! 緊張するううう!!」
楽屋で頭を抱えながら転がっていると、隣で衣装を直していたリナが苦笑した。
「マリア、あんたもう主演何度目よ?」
「いや、今までの劇団とは違うの! ここは王宮劇団! 失敗したら即クビの可能性もあるのよ!? しかも今日の舞台には王妃陛下もいらっしゃるっていうじゃない!」
「……それに」
私はそっと舞台袖に視線を向けた。
そこには、艶やかな衣装をまといながら、余裕の笑みを浮かべているセレーナの姿があった。
彼女は王宮劇団の花形女優であり、絶対的な存在。
そして――私を良く思っていない筆頭候補でもある。
---
セレーナは私が宮廷劇団に入ってからというもの、何かと目をつけてきた。
「新人のくせにずいぶんとチヤホヤされてるじゃない?」
「まあ、すぐにみんな気づくでしょうけどね。あなたみたいな田舎劇団上がりが、王宮の舞台に立つにはふさわしくないって」
まーったく嫌味がうまいこと。
そのうち「あなたの顔が気に入らないのよ」とか言い出すんじゃないかと思っていたら、案の定、言われた。
「……あなたのその、庶民っぽい顔が気に入らないのよね」
心の中で「やっぱり!!!」と叫んだのは言うまでもない。
---
そして迎えた本番。
幕が上がると、王宮の豪華な劇場が目に飛び込んできた。
金色に輝くシャンデリア、着飾った貴族たち、そして最前列には優雅な笑みを浮かべる王妃陛下。
私は大きく息を吸った。
「……よし、やるしかない!」
セレーナが何か仕掛けてくるのはわかっていたけれど、私のやるべきことは一つ。
全力で演じること。
「たとえ相手がどんなに意地悪な花形女優でも、舞台の上では関係ない!」
そう意気込んで舞台に立ったのはいいものの――。
やっぱり来たよ、セレーナの嫌がらせ!!
---
彼女は芝居の中でわざと私の衣装の裾を踏んだり、予定外のセリフをぶつけてきたりと、あの手この手で私を困らせた。
けれど――負けるもんですか!!
私は即興でセリフをアドリブに変えて、むしろ彼女を追い詰める演技をしてやった。
「まあ、なんて意地の悪いお姫様でしょう!」
「それはあなたが無礼な庶民だからよ!」
本来なら「お優しい姫様」なんて台詞だったのに、セレーナが意地悪モードに入ったので、私も全力で演じ返した。
観客たちはすっかり引き込まれ、どよめきが起こる。
そして、幕が降りる頃には、劇場全体が大歓声に包まれていた。
セレーナは信じられないといった顔で立ち尽くし、私は客席からの拍手を全身に浴びながら、勝利を確信した。
---
舞台が終わり、楽屋に戻ると――。
「……すごかったな」
背後から、あの低く甘い声が聞こえた。
振り向くと、ヴァルターがそこにいた。
「ヴァルター!」
仮面の奥から覗く瞳が、じっと私を見つめていた。
その視線が、なんだか……妙に熱っぽく感じる。
「……お前、すごかった」
そう言いながら、彼は私の頬にそっと触れた。
「舞台の上のお前は……まるで光みたいだった」
ど、どうしよう……。
こんなこと言われたら、また心臓が爆発しちゃう!!
「ちょ、ちょっと……褒めすぎじゃない?」
照れて顔を背けると、彼が少しだけ笑った。
「いや、足りないくらいだ」
そして――ふいに、ヴァルターが私の腰を引き寄せた。
「お前は俺の誇りだ、マリア」
え、ちょ、ええええええ!?!?!?!?
「な、なに急にデレデレしちゃってるの!?」
必死に抗議するけど、ヴァルターは余裕の笑みを浮かべたまま。
そのまま、私の髪にそっと口づけてきた。
や、やめて!! 心臓がもたない!!!
「ヴァルター!! そんなことしてる場合じゃないわよ!」
「……?」
彼が不思議そうに顔を上げる。
私は深刻な顔で続けた。
「セレーナさんに勝ったのはいいけど、次はあなたの番よ!」
そう、セレーナとの対決の裏で、宮廷内ではヴァルターを狙う陰謀が渦巻いている。
彼はふっと笑い、私の手を取った。
「じゃあ……お前も手伝ってくれるか?」
そう言って、彼は私の手の甲に軽く唇を落とす。
うわああああ!!! そういうの!! そういうの!!! もっと心の準備をさせてよ!!!
でも――。
私は彼の手をぎゅっと握り返し、真剣な目で頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?
桜
恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ブラック企業に勤めていた私、深夜帰宅途中にトラックにはねられ異世界転生、転生先がホワイト貴族すぎて困惑しております
さら
恋愛
ブラック企業で心身をすり減らしていた私。
深夜残業の帰り道、トラックにはねられて目覚めた先は――まさかの異世界。
しかも転生先は「ホワイト貴族の領地」!?
毎日が定時退社、三食昼寝つき、村人たちは優しく、領主様はとんでもなくイケメンで……。
「働きすぎて倒れる世界」しか知らなかった私には、甘すぎる環境にただただ困惑するばかり。
けれど、領主レオンハルトはまっすぐに告げる。
「あなたを守りたい。隣に立ってほしい」
血筋も財産もない庶民の私が、彼に選ばれるなんてあり得ない――そう思っていたのに。
やがて王都の舞踏会、王や王妃との対面、数々の試練を経て、私たちは互いの覚悟を誓う。
社畜人生から一転、異世界で見つけたのは「愛されて生きる喜び」。
――これは、ブラックからホワイトへ、過労死寸前OLが掴む異世界恋愛譚。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる