【完結】薔薇の仮面 ~演劇大好き少女は公爵様に溺愛されて~

朝日みらい

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第33章 迫る決断

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旅の途中、劇団が宿泊していた町に、とうとう王国の兵士たちが現れた。  

「ヴァルター様をお連れする! 速やかに引き渡せ!」  

宿の前にずらっと並んだ兵士たちが、そんな物騒なことを叫んでいた。  

私は一瞬心臓が止まりそうになった。  

(ついに来ちゃった……!)  

劇団員たちもザワザワと騒ぎ始める。  

「おいおい、まずは舞台のチケット買ってからにしろよ!」  

「役者の命をなんだと思ってるんだ!」  

「ヴァルターはうちの一番人気なんだ! 渡してたまるか!」  

……なんか違う方向で団結してる気もするけど、まあいい。とにかく、みんなヴァルターを守ろうとしてくれてる。  

しかし、問題は本人だった。 

ヴァルターは静かに私を見つめ、ぽつりと呟いた。  

「……俺がいることで、劇団に迷惑をかけるのではないか」  

(なに言ってるの、この人!?)  

「そんなこと言ってる場合!? 兵士たち、完全に捕まえる気満々だよ!」  

「だが、俺がいなくなれば劇団は無事だ」  

「ヴァルター!」  

私は思わず彼の腕を掴んだ。  

「やめてよ……! そんなこと言わないで!」  

彼の青い瞳が揺れる。  

「俺は……また王に戻るべきなのか?」  

「バカ!!」  

私は彼の胸を思いっきり叩いた。  

「ヴァルターが王様だろうと役者だろうと、私にとっては同じヴァルターなの! どっちを選ぶかなんて、もう分かってるでしょ!!」  

「……マリア」  

ヴァルターは戸惑ったように私を見つめる。でも、そんな優柔不断な目は許さない!  

「ここで私を置いて行ったら、一生恨むからね!!」  

ヴァルターの唇がピクリと震えた。  

「……それは、怖いな」  

「怖がりなさいよ!」  

「じゃあ……お前のそばにいるべきだな」  

「当たり前でしょ!!」  

私は涙目で怒鳴りながら、ヴァルターの胸に飛び込んだ。  

彼は苦笑しながら、そっと私を抱きしめる。  

「俺が迷ったのは間違いだった」  

「うん、そうだよ」  

「これからも、お前のそばにいる」  

「絶対だよ!」  

ヴァルターは微笑んで、私の額にそっと口づけを落とした。  

ズキューン!!!(本日一回目)  

……くそっ、こんな時でも甘いなんて、ずるい。  



外では劇団員たちが大暴れしていた。  

「ヴァルターは渡さないぞー!!」  

「お前ら、舞台の邪魔をするってことは、役者の命を奪うのと同じだ!」  

「ええい、押し通れ!」  

兵士たちが突入しようとするが、劇団員たちは舞台道具を投げつけて抵抗している。  

「脚立アタック!!」  

「カーテン大作戦!!」  

「スポットライト照射!!」  

「ぎゃああ!! まぶしい!!」  

――想像以上に戦えてる。 

私はヴァルターの腕を引いて、裏口へと駆け出した。  

「今のうちに逃げるよ!」  

「でも、皆を置いて――」  

「いいの! 彼らは彼らのやり方で戦ってるんだから!」  

ヴァルターは苦笑しながら頷いた。  

「そうだな……行こう!」  

私はヴァルターの手を握りしめたまま、夜の町へと走った。  

「どこへ行くんだ?」  

「そんなの決まってるでしょ!」  

私はヴァルターを見つめ、にっこりと微笑んだ。  

「あなたと一緒なら、どこへでも!」  

ヴァルターの目が優しく細められた。  

「……お前には敵わないな」  

「当然よ!」  

――王か恋人か? そんなの決まってるでしょ!!
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