【完結】薔薇の仮面 ~演劇大好き少女は公爵様に溺愛されて~

朝日みらい

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第35章 王の試練

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ヴァルターが王宮へ戻ってから、もう何日が過ぎただろう。  

私は今日も劇団の練習場で、台本を抱えてぼんやりと座っていた。  

「……はぁ。」  

ため息なんてついてもしょうがないのに、もう何回目かわからない。  

「マリア、またため息ついてる!」  

劇団の仲間に指摘されて、私は慌てて背筋を伸ばした。  

「そ、そんなことないわよ!」  

「いや、あるね! ほら、顔に“ヴァルター不足”って書いてある!」  

「書いてない!!!」  

私はジタバタ抗議するものの、周りの劇団員たちはみんな笑っている。  

「だってさー、いつもヴァルターといちゃついてたのに、急にいなくなったら、そりゃ寂しいよな~。」  

「しかも、王宮だぜ? きっとお堅い貴族たちに囲まれて、ガチガチに緊張してるんじゃない?」  

……そう、ヴァルターは今、王宮で苦闘している。  

彼が戻った時には、すでに王宮は混乱の渦だったらしい。貴族たちは権力争いに必死で、誰が王の味方で誰が敵かすらわからない状態だった。  

それでもヴァルターは逃げなかった。  

そして、王として私の前から去っていった。  

あああああもう!!! 思い出したら余計に会いたくなるじゃない!!!!!  

「マリア、顔赤いぞ」  

「うるさい!!」  



 一方その頃、王宮では……

「……はぁ。」  

ヴァルターもため息をついていた。  

「陛下、またため息ですか?」  

側近のルートヴィヒが呆れたように眉をひそめる。  

「いや、別に……。」  

「それ、マリア様のことを考えている時の表情ですね。」  

「ぐっ……!!」  

ヴァルターは咳払いをして誤魔化そうとするが、ルートヴィヒの目はごまかせない。  

「陛下、国の改革を進めるのは結構ですが、時々は息抜きも必要ですよ?」  

「……そんな余裕があればな。」  

ヴァルターは王座に座りながら、貴族たちの争いに頭を悩ませていた。  

彼のいない間に貴族たちは好き勝手に権力を振るい、財政は悪化し、国の政策も滞っている。  

「……俺がもっと早く戻っていれば……。」  

そんな後悔がよぎるが、彼はすぐに頭を振った。  

今はそんなことを考えている場合じゃない。  

「それにしても……」  

ルートヴィヒがふと口を開く。  

「劇団の皆様は、マリア様のことをどう思っているのでしょうかね。」  

「どういう意味だ?」  

「王を想いながらも、劇団の仕事を続けている……気丈なものです。」  

ヴァルターはそれを聞いて、少し微笑んだ。  

「……あいつらしいな。」  



劇団の舞台は、今日も満員だった。  

私は役に没頭しながらも、時々ふと考える。  

ヴァルターは今、どうしているのだろうか。  

「……陛下、お手紙が届いております。」  

王宮の一室で、ヴァルターは差し出された封筒を受け取った。  

差出人は――マリア。  

「……っ!!」

彼は思わずその場で封を切る。  

「ヴァルターへ――」 

手紙には、ただひと言。  

「私、ずっと待ってるから。でも、限界が来たら、行っちゃう…かも!」 

彼はそれを読んで、ふっと笑った。  

そして、すぐにペンを取った。  

「……俺も、お前に会える日を楽しみにしてる。」  

それぞれの場所で、それぞれの想いを胸に――二人は今日も、遠く離れていても、心は寄り添っていた。
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