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 ヴィクトールは微笑みました。

「伯爵さま、それではかえって好都合です。私はエリーナ嬢、本人も、彼女の実の母上を尊敬している。私は彼女のそばにいるだけで幸せで光栄ですから」

「ヴィクトール様……」

「伯爵、むしろ、エリーナに謝ってください。他の兄姉に虐げられてきたことを」

「ふん、今さら謝っても手遅れだ。エリーナ、お前は私の所有物なのだ。お前は一生この家で暮らすのだ」

 伯爵は苦虫をかみつぶしたような、渋い顔で言いました。

「私にだって、人生を選ぶ権利はあるわ!」

  エリーナは涙を流して、父親を睨みつけました。

「あなたは最低の父親です……」

  父親は真っ青になりました。娘の初めての反抗に動揺したのです。

「エリーナ、お前はどうかしている。実の父親に向かってその態度は何だ?」

「お父様こそ、私を傷つけようとするのですか? あなたは私が嫌いなのですわね……?」

「違う! 私は……私はお前を心配しているだけだ!」

「嘘よ! だったらなぜ私たちの結婚を認めてくださらないのです?」

 エリーナは泣き崩れました。

「エリーナ……」

 ヴィクトールはそっと彼女を抱きしめました。ヴィクトールは彼女がどれほど辛い思いをしてきたか理解していたのです。だからこそ、彼はエリーナを守りたいと思ったのです。

「私は……あなたを愛し続けます」

 エリーナはそう言って、彼にしがみつきました。

「エリーナ、私は……お前のことを愛していないわけではないぞ」

 父親は苦しそうに言いました。

「いいえ、お父様は私を愛さなくていいの! でも……それでも……せめて……」

 エリーナは嗚咽しながら言いました。

「結婚だけは許してほしい。少なくても血がつながったお父様には認められて……ヴィクトールと結婚したいのです」

 エリーナは父親の反応に怯えながらも、必死に言葉を絞り出していました。

「お願いです……お父様……」

 エリーナは懇願するように言いました。彼女の目には涙が浮かんでいました。

「エリーナ……」

 父親は悩んだ末に、ため息をつきました。

「わかった、結婚を認める…」

 伯爵はため息をついて言いました。

「お父様!」

 エリーナは伯爵の言葉を聞いて、喜びました。彼女は涙をぬぐいました。

「ありがとうございます!」
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