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第八章

第61話

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 剣士アルベルは、クララの法衣には穴があるのに、一切の血が流れないことに、目を疑った。

 クララは気づいた。すでに、自分の体はセリストの体でもある。そして、わたしの心も。
 
 まぶたを閉じると、今、まさしく傷ついている体を強いて、セリストは神官庁舎のテレス神官へ1戦を挑んでいる。

 わたしも、セリストのように、逃げないで、1歩前に進まないといけない。
 
 クララは、銀杖を構えて、再びシールドを張った。
 ヒドラ獣神が、容赦なく、無数の首が伸ばし、シールドにかじりついてくる。

「新米、今は一旦、退却するぞ」
 アルベルは、巨大なヒドラ獣を前にして、後ずさりした。

「だめです、アルベルさん! わたしたち、背を向けたら、殺されるだけです」

「何だって?」

「アルベルさん、首は何本、斬れますか?」

「六、七本だろう」

「では、あと16、17本斬れれば、倒せますね」
 クララは、目の前のヒドラ獣神を見あげていた。

「何か、策はあるの?」
 弓手イジスが、戻ってきた。打撃者ロドリゴも後に続いて、シールドに入った。
 
「今、セリスさんとロリーネさんが、テレス神官の元に向かっています。テレス神官とあの魔物は強い魔法で守られているんです。倒すのは、同時攻撃しかありません」

「同時攻撃?」 
 冒険者たち三人は、顔を見合わせた。

「タイミングは、わたしが言います。そうしたら、皆さんで、一斉に首を切って下さい。わたしは、心臓を刺してとどめを刺します」

 剣士アルベルは、剣を肩に担いで言った。

「新米、分かったよ。俺ががんばって、10本を斬ってやる。イジス、ロドリゴは五本ずつでいいか」
 
「わたしなら、最高で七、八本はできるわ」
 イジスが短剣をかざしながら、言った。

「俺が八本くらいは余裕で、つぶしてやる」
 ロドリゴが息巻くと、シールド内は、戦闘前の熱気で包まれた。
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