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第八章

第62話

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 セリスとロリーネが馬で、神官庁舎にたどり着いたのは、すっかり夜が更けた深夜であった。

 ゴロゴロと不吉な雷鳴がとどろき、灰色の雲と雲との間から稲妻の光が走った。

 庁内は真っ暗に静まりかえっていたが、庁内の孤児たちの宿舎の窓からは、まだランプの灯火が漏れていた。

 ふたりが入ると、テレス神官がひとりの少女の額に手をやり、熱を下げる治癒魔法を施していた。

「テレス神官様!」

 調薬師ロリーネが声を掛けた。
 隣のセリスは腕をおさえている。テレス神官は、穏やかな笑みを浮かべた。

「腕、怪我されたんですね」
 テレス神官は、セリスに近づいた。
 彼の前に跪くと、銀杖をかざして、傷口に当てようとする。

 セリスは、身を反らして、剣を構えた。

「ヒドラ獣をけしかけておいて、俺を直してどうする? 敵ですよ」

 テレス神官は、穏やかに微笑んだ。
 
「敵であろうと、味方であろうと、それが今、何の意味があります? 最初はこの子たちみたいに、私たちは純朴だったはずです」

「何の話をしている?」

「まあ、何しろ、このままだと傷口から菌が入って、あなたは死ぬ。腕を切るなんてことになる。そうしたら、あなたのような英雄の活躍が見れなくなります」
 テレス神官はそう諭すと、杖をかざして、治癒魔法を施した。

 セリスが、包帯をほどくと、傷口は無かったように、元の肌に戻っていた。

「さあ、剣を交えたいなら、外に出ましょう。ここでは子どもたちが、起きてしまいますからね」

 三人が外に出た頃には、すでに外は激しい雨があられのように降り注いでいた。

 そのまま、魔物たちの牢がある運動場に移動する。

「さあ」
 テレス神官は、杖を槍に変えると、セリスとロリーネに矛先を向けた。

 セリスは剣を構え、ロリーネは腰袋から白黒の玉を用意して、投げる準備をした。

 テレス神官は微笑んでいる。

「決着させましょうか」
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