生まれる前から好きでした。

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49.甘く見てました。

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 室内にドライヤーの音だけが響く。
 相澤和真はソファの上に足を投げ出して座り、その背後に三峰汐音が右足だけを下に降ろした状態で和真の髪を乾かしていた。

「大丈夫なのか?」
「え?」

 相澤和真の問いかけに、三峰汐音はすぐにドライヤーを止めた。

「体調が悪いなら、必ず言ってくれ。絶対に無理はするな」

 振り向き、和真はいつになく強い口調で汐音に告げる。そのまっすぐな眼差しを受け止め、汐音は嬉しそうに破顔する。
 先程、風呂場で汐音が浴室にあたふたと戻った時の事を言っていると分かってくれたようだ。

「私の身を案じてくださるのですね。ありがとうございます」

 そして、少し照れくさそうに言葉を続ける。

「本当に、大丈夫です。私が健全なる男だということなので、ご心配には及びません」
「……?」

 汐音の言葉の意味がすぐに理解出来ず、和真は首を傾げた。その姿を愛おしそうに汐音が見つめ返してくる。

「和真さんへの溢れ出す気持ちは、暴走しないように上手く自制出来ているつもりでいたのですが、さすがに生理現象は抑える事が出来ませんでした。和真さんの色気を甘く見ていたようです」

 和真は眉間に皺を寄せる。

(色気? 何を言い出したんだ? この男は……)

 戯言だと聞き流せばいいのだろが、つい真剣に受け止めてしまう。

(生理現象……)

 今も、意図する事が分かった途端、頬が赤くなるのを自覚し、汐音に背を向ける。汐音の言い回しは、一々恥ずかしいのだ。

(……でも、具合が悪いのかと気を揉んだけど、問題はないみたいで良かった)

 汐音が元気だと確認が出来て胸を撫で下ろす和真の耳に、汐音の呟きが聞こえてきた。

「パーティーはもう来月なんですね」

 忘れていたかった事を思い出さされ、和真は一気に嫌な気分に突き落とされた。

(パーティーとは名ばかりの、今回は後継者ダービーの下見会だ。パドックでレースに出走する馬の如く、後継者候補が関係者達に見定められる)

 そんな事をもちろん知る由もない汐音はご機嫌な様子で再び髪を乾かし始めた。
 汐音の手は和真のものより大きい。その手で髪を梳くように乾かしていく。大胆な動きなのに、とても丁寧だ。

(気持ちいい……)

 ずっと触れていて欲しいとさえ思える程だ。

(汐音が上手いのか? それとも……)

 汐音に対する自分の気持ちから目を逸らすように、和真は口を開いた。

「……会場までは一緒に行くだろ?」
「もちろんです。ご一緒させてください!」
「じゃあ、おれの足が治っていてもパーティーまでここに住めばいい」
「いいんですか?」
「もちろん。宮田さんにはおれから言っておく」
「ありがとうございます!」

 嬉しそうな声と同時にドライヤーが止まる。汐音の手が離れた途端、急に寂しいような、物足りなさを感じた。

「では、お部屋にお連れいたしますね」

 そう言うや否や、汐音は和真を抱き上げた。

「おい! 勝手に抱き上げるな! 部屋までぐらい自分で歩ける!」
「そうなんですか? でも、お疲れのようなので、今日は特に無理はなさらない方がいいです。しっかり掴まっていてくださいね」

 どうやら、汐音は全く降ろす気はないようだ。歩き出した汐音の首に和真は無意識に腕を回していた。汐音の腕の力が僅かに強くなった気がした。上機嫌の汐音は、何処かで聞いた事があるメロディーを口ずさみながら和真の部屋へと向かう。汐音の体からは、和真と同じボディーソープの香りがした。
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