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chapter 3
Here Comes the Sun(1)
しおりを挟む「で?どうだった?」
湊の部屋に居候するようになった頃、オレが勝手に持ち込んだレコードを選びながら湊が尋ねてくる。
理香子さんが帰って行った後、しばらくしてからオレは湊に連絡をした。
「勿体振らずにさっさと話せよ」
缶ビールをすでに一缶飲み終えた長田が冷蔵庫から新しいビールを取り出しながら言う。
今はまだ昼の四時過ぎなんだけどな。
「ちょっと待ってよ、ボクもちゃんと話聞きたいんだから」
斉藤は買って来た惣菜と昨日持って来てくれた手料理を皿に盛り付けてくれている。
小原は斉藤に指示され皿や箸をテーブルに並べている。
「……なんで全員集合してんだよ」
理香子さんが帰った事を電話で告げて約一時間後、湊はメンバー全員引き連れて帰って来た。
「どうせ全員に話すんならまとめてはやい方がいいだろ」
散々悩んでからビートルズの『アビイ・ロード』を再生すると湊はテーブルを挟んでオレの正面に座った。
「……そうだけど」
またオレの居ないところでいろいろ決められている。もちろんみんなに話すつもりではいたが、正直まだオレの中でも整理がついていない。
「で、結局理香子さん?何の話をしに来たの?」
料理を並べ終えた斉藤が最後に座って改めて全員の視線がオレに向けられた。
「……うん、何から話せばいいか」
とにかく情報が多過ぎた。
「じゃあオレから改めて聞くけど、おまえ、あの人の事が好きなわけ?」
痺れを切らした湊がそう切り出した。
「……正直、そうなのかもって、思った事はある。けど違う。オレは理香子さんに対しては、恋愛感情は無い」
「なら誰に対してだよ」
「うん、……その前に、その理香子さんなんだけど、英理奈さんの親友だった」
「はぁ?!」
オレ以外全員の声が揃った。そりゃそうだよな。オレだっていまだに信じられない。
「え、どういう事?」
「ガチで?ちょっとゾワッとしたんだけど」
「ついでにもう一つ言うと、理香子さんは、浅野さんの元カノだった」
「えぇぇーー!?」
うるせぇ。けど予想通りの反応だ。
「何それ、怖すぎるって」
「浅野さんとやらの、呪い?」
「いや、それシャレになんないから」
各々期待以上の反応を返してくれたので、後は理香子さんがどうしてオレと英理奈さんの繋がりに気付いたのか、英理奈さんと理香子さんと浅野さんの大学生の頃の話、あの頃英理奈さんがオレの事をどう想っていたのか、そして、その後の英理奈さんの事、理香子さんがオレに教えてくれた事をみんなにも伝えた……。
「けどみんなでこうやってこの部屋に集まるの結構久しぶりだよねー。ボクはちょくちょく来てるけど、小原くんは趣味に費やす時間が多いからそんなに来ないし」
「長田はオレの酒勝手に飲み尽くすから滅多に入れてやらない」
「何だよいいじゃねぇか、減るもんじゃねぇし」
「減るわ!おまえバカか?」
「……いや、だからちょっと待て」
またこのパターンかよ。
「おまえらが話せっつーから全部話してんだろ、何か言えよ!」
オレがそう言うとみんな一斉に黙り込んだ。しばらくお互いの様子を探り合ってからようやく斉藤が口を開く。
「もうマジで呪いじゃない?次のライブまでにお祓い行ってくれば?」
若干面倒くさそうに言う。
酷くないか?
「というのは冗談としても、ごめん、ボクもうなんて言っていいかわかんない、お手上げ」
まぁ逆の立場ならオレもそう言うかもしれない。
「なんだろな、マジで。なんかいろいろ衝撃がデカ過ぎて本題からズレてる気がすんだけど、そもそも何の話だっけ?」
顔を顰めながら長田が言う。それ、理香子さんも似たような事言っていたな。
「それだよ。おまえ、今更前の人の気持ち知ったからって、やっぱりまだ好きとか言うつもりじゃないだろうな?」
「………」
オレが答えあぐねていると湊はさらに畳み掛ける。
「おまえなぁ、おまえの不調は全部あの人のせいだろ」
外側から見れば、そう捉えられるだろうな。けど、
「そう思われんのは全部オレが不甲斐ないせいだよ。理香子さんも言ってくれたけど、英理奈さんはオレを浅野さんの身代わりにしたかったわけではないと思う。……実際、英理奈さんは浅野さんの事は言わずにオレとの関係を終わらせようとしてたんだし、たまたまオレが知ってしまっただけで。それに、オレがもっとちゃんと自分に自信持っていられたら誰と比べられようと揺らぐ事なんてなかったんだ、……だから、英理奈さんのせいではない」
口に出してこそ言ってこなかったが、不調の原因をオレは心の何処かで英理奈さんのせいにしていた。その方が自分が楽だったからだ。一番の問題は自分と向き合う事が出来ないでいるオレ自身なのに、ずっと目を背けてきた、あの頃から何一つ成長していない。自己保身の為だけに自分の気持ちからも英理奈さんの気持ちからも逃げていた。何も解決しないままに。
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