新緑の少年

東城

文字の大きさ
8 / 28

好きやねん

しおりを挟む
「大阪、案内したる。おもろいとこぎょうさんあるで」
こてこての大阪弁で話す枚方はキジトラの地域猫みたいな雰囲気を持つ青年で、笑った顔がどきっとするほど可愛いかった。
枚方とは、はじめは友人として、すぐに仲良くなった。
「ひらぱー行こう!」枚方はCMソングを歌いだした。
「なにそれ?」
「ひらかたパーク。知らんの?」
「なにそれ、それって実在するの?」
「大阪府民ならみんな知っとるで。遊園地や」

遊園地はレトロ感があってよかったけど、帰りの電車がすごかった。
大股開きでスポーツ新聞を読んでいるおじさんや昼間から酔っぱらって騒いでいる若者もいて、怖い。
でも大阪らしいね。

「栄之助って、お爺さんみたいな名前な」枚方は言った。
「出世を願って偉くなるように親がつけたんだ」
そう、栄光の「栄」を取って、父がつけた名前。
「えいのすけー、クレヨンしんちゃんみたいや」
枚方は一人で笑っている。
いじられるような変な名前でもない。ちょっとムカッとした。
「友達には桐野って呼ばれているけど、栄でいいよ」
「栄さ、俺んち泊まんね? 狭いけど」
「家族と住んでいるの?」
「一人暮らし」
「でも迷惑じゃ?」
「気い、つかわんといてや。ホテルだと高くなるから、俺んちに泊まり」
「いいの?」
「全然オッケー」
気取らない明るい性格の枚方と一緒にいるとすっごく楽しい。
「じゃあ、明日からお邪魔していいかな?」
「明日の十時ごろ、ホテルまで迎えに行くから、ロビーで待ち合わせな」



次の朝、荷物をまとめてロビーに行くと枚方がいた。
「うっす!」
量販店のポロシャツ着てるよ。でもお洒落っぽく着こなしてるとこが大阪の青年らしい。
枚方のアパートは岸和田にあった。
「まー、狭いとこだけどな、大掃除したからピカピカや」
アパートに上がると見事にチリひとつなかった。
北欧調のテーブルや小物など置いてあり、センスのいいインテリアだった。

夜になって寝る時間になり、枚方は押し入れから布団を出して敷いてくれた。
「ふとん一枚しかないから、一緒に寝ような」
「え?」
「べつにええやん。意識することない。男どうしやし」
男同士だからこまるんじゃん。
枚方は、紐を引っ張って電気を消す。二人で煎餅布団に寝転がる。
「あつうて寝れへん」
熱帯夜で、アイスみたいに溶けるかと思うほど寝苦しかった。しかし枚方の家には扇風機しかなかった。
「うん、暑いね」
「栄、彼女いる?」
「いないよ。夏休みの前に失恋したばかり。ずーっと片思いの人がいたんだけどね」
「栄よりイケメンに取られたん?」
「女の子に」
枚方は、すっとんきょうな高い声で聞いた。
「レズビアンってやつか?」
「うーん、ちょっと違うけど。また明日話す。おやすみ」
「俺も彼女、おったことない。いたことないわ。彼氏ならおったけどな」
僕は飛び起きた。
「えええ?」
「俺、ゲイ。男が好きねん」
「まあ、そういう人もいっぱいいるよね。僕は全然気にしないよ」
「せやなー。ほな、おやすみ」
その夜、自分もゲイだということを言えなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

想いの名残は淡雪に溶けて

叶けい
BL
大阪から東京本社の営業部に異動になって三年目になる佐伯怜二。付き合っていたはずの"カレシ"は音信不通、なのに職場に溢れるのは幸せなカップルの話ばかり。 そんな時、入社時から面倒を見ている新人の三浦匠海に、ふとしたきっかけでご飯を作ってあげるように。発言も行動も何もかも直球な匠海に振り回されるうち、望みなんて無いのに芽生えた恋心。…もう、傷つきたくなんかないのに。

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

処理中です...