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好きやねん
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「大阪、案内したる。おもろいとこぎょうさんあるで」
こてこての大阪弁で話す枚方はキジトラの地域猫みたいな雰囲気を持つ青年で、笑った顔がどきっとするほど可愛いかった。
枚方とは、はじめは友人として、すぐに仲良くなった。
「ひらぱー行こう!」枚方はCMソングを歌いだした。
「なにそれ?」
「ひらかたパーク。知らんの?」
「なにそれ、それって実在するの?」
「大阪府民ならみんな知っとるで。遊園地や」
遊園地はレトロ感があってよかったけど、帰りの電車がすごかった。
大股開きでスポーツ新聞を読んでいるおじさんや昼間から酔っぱらって騒いでいる若者もいて、怖い。
でも大阪らしいね。
「栄之助って、お爺さんみたいな名前な」枚方は言った。
「出世を願って偉くなるように親がつけたんだ」
そう、栄光の「栄」を取って、父がつけた名前。
「えいのすけー、クレヨンしんちゃんみたいや」
枚方は一人で笑っている。
いじられるような変な名前でもない。ちょっとムカッとした。
「友達には桐野って呼ばれているけど、栄でいいよ」
「栄さ、俺んち泊まんね? 狭いけど」
「家族と住んでいるの?」
「一人暮らし」
「でも迷惑じゃ?」
「気い、つかわんといてや。ホテルだと高くなるから、俺んちに泊まり」
「いいの?」
「全然オッケー」
気取らない明るい性格の枚方と一緒にいるとすっごく楽しい。
「じゃあ、明日からお邪魔していいかな?」
「明日の十時ごろ、ホテルまで迎えに行くから、ロビーで待ち合わせな」
*
次の朝、荷物をまとめてロビーに行くと枚方がいた。
「うっす!」
量販店のポロシャツ着てるよ。でもお洒落っぽく着こなしてるとこが大阪の青年らしい。
枚方のアパートは岸和田にあった。
「まー、狭いとこだけどな、大掃除したからピカピカや」
アパートに上がると見事にチリひとつなかった。
北欧調のテーブルや小物など置いてあり、センスのいいインテリアだった。
夜になって寝る時間になり、枚方は押し入れから布団を出して敷いてくれた。
「ふとん一枚しかないから、一緒に寝ような」
「え?」
「べつにええやん。意識することない。男どうしやし」
男同士だからこまるんじゃん。
枚方は、紐を引っ張って電気を消す。二人で煎餅布団に寝転がる。
「あつうて寝れへん」
熱帯夜で、アイスみたいに溶けるかと思うほど寝苦しかった。しかし枚方の家には扇風機しかなかった。
「うん、暑いね」
「栄、彼女いる?」
「いないよ。夏休みの前に失恋したばかり。ずーっと片思いの人がいたんだけどね」
「栄よりイケメンに取られたん?」
「女の子に」
枚方は、すっとんきょうな高い声で聞いた。
「レズビアンってやつか?」
「うーん、ちょっと違うけど。また明日話す。おやすみ」
「俺も彼女、おったことない。いたことないわ。彼氏ならおったけどな」
僕は飛び起きた。
「えええ?」
「俺、ゲイ。男が好きねん」
「まあ、そういう人もいっぱいいるよね。僕は全然気にしないよ」
「せやなー。ほな、おやすみ」
その夜、自分もゲイだということを言えなかった。
こてこての大阪弁で話す枚方はキジトラの地域猫みたいな雰囲気を持つ青年で、笑った顔がどきっとするほど可愛いかった。
枚方とは、はじめは友人として、すぐに仲良くなった。
「ひらぱー行こう!」枚方はCMソングを歌いだした。
「なにそれ?」
「ひらかたパーク。知らんの?」
「なにそれ、それって実在するの?」
「大阪府民ならみんな知っとるで。遊園地や」
遊園地はレトロ感があってよかったけど、帰りの電車がすごかった。
大股開きでスポーツ新聞を読んでいるおじさんや昼間から酔っぱらって騒いでいる若者もいて、怖い。
でも大阪らしいね。
「栄之助って、お爺さんみたいな名前な」枚方は言った。
「出世を願って偉くなるように親がつけたんだ」
そう、栄光の「栄」を取って、父がつけた名前。
「えいのすけー、クレヨンしんちゃんみたいや」
枚方は一人で笑っている。
いじられるような変な名前でもない。ちょっとムカッとした。
「友達には桐野って呼ばれているけど、栄でいいよ」
「栄さ、俺んち泊まんね? 狭いけど」
「家族と住んでいるの?」
「一人暮らし」
「でも迷惑じゃ?」
「気い、つかわんといてや。ホテルだと高くなるから、俺んちに泊まり」
「いいの?」
「全然オッケー」
気取らない明るい性格の枚方と一緒にいるとすっごく楽しい。
「じゃあ、明日からお邪魔していいかな?」
「明日の十時ごろ、ホテルまで迎えに行くから、ロビーで待ち合わせな」
*
次の朝、荷物をまとめてロビーに行くと枚方がいた。
「うっす!」
量販店のポロシャツ着てるよ。でもお洒落っぽく着こなしてるとこが大阪の青年らしい。
枚方のアパートは岸和田にあった。
「まー、狭いとこだけどな、大掃除したからピカピカや」
アパートに上がると見事にチリひとつなかった。
北欧調のテーブルや小物など置いてあり、センスのいいインテリアだった。
夜になって寝る時間になり、枚方は押し入れから布団を出して敷いてくれた。
「ふとん一枚しかないから、一緒に寝ような」
「え?」
「べつにええやん。意識することない。男どうしやし」
男同士だからこまるんじゃん。
枚方は、紐を引っ張って電気を消す。二人で煎餅布団に寝転がる。
「あつうて寝れへん」
熱帯夜で、アイスみたいに溶けるかと思うほど寝苦しかった。しかし枚方の家には扇風機しかなかった。
「うん、暑いね」
「栄、彼女いる?」
「いないよ。夏休みの前に失恋したばかり。ずーっと片思いの人がいたんだけどね」
「栄よりイケメンに取られたん?」
「女の子に」
枚方は、すっとんきょうな高い声で聞いた。
「レズビアンってやつか?」
「うーん、ちょっと違うけど。また明日話す。おやすみ」
「俺も彼女、おったことない。いたことないわ。彼氏ならおったけどな」
僕は飛び起きた。
「えええ?」
「俺、ゲイ。男が好きねん」
「まあ、そういう人もいっぱいいるよね。僕は全然気にしないよ」
「せやなー。ほな、おやすみ」
その夜、自分もゲイだということを言えなかった。
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