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2月14日
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デートは引き延ばしできるだけ引き延ばしてバレンタインデーの日曜日にした。
都心は混むから、新百合ヶ丘でお茶して映画を見る約束をした。
朝、起きるとちらほら小雪が舞っていた。
車で行ってもいいけど、どうせ二駅先だから電車で行くか。
朝日はベッドでぐたぐた寝ている。
一二時になっても寝てるので聞いた。
「大介君の家に行かないの?」
「金曜、大介、風邪で学校休んだ。今日も具合悪いって。遊ぶの無理だって」
「じゃあ、朝日も一緒に行こうよ」髪をくしゃっと撫でる。
「だって、三浦先生とデートじゃ?」
「デートじゃないよ。お出かけ。朝日も行こうよ」
「先生、がっかりするよ。栄と二人で出かけたかったのに」
「ね、一緒に行こうよ」
「うーん、いいのかな?」
昼二時になっても雪が降っていた。
コートを着て外に出ると、息が白くなった。粉雪が積もり始めている。
朝日が「さむっ」と、マフラーを巻く。
朝日とこうやってお出かけ、いいな。これからたくさんお出かけしようね。
新百合ヶ丘の改札が待ち合わせ場所だった。
三浦先生は、おしゃれをしていた。
美容院できちんと髪をセットして、新品のグレーのコートを着て、赤い大きなカバンも新品だった。
「三浦先生、雪のなかどうも」
「いえいえ。お忙しいのに無理きいてもらってすみません」
先生の頬がピンクに染まる。
でも横の朝日を見て、ちょっと複雑そうだ。
「朝日も連れてきちゃいました」
「ええ。朝日君、元気だった?」先生はちょっと気が動転しているのか、普段は『はざま君』って呼んでいるのに朝日君と言い間違えた。
朝日は元気のない声で返事をする。
「はい」
チェーン店の喫茶店に入る。
いつもは学生や主婦グループで混んでいるが雪の日なのでがらがらだった。
先生にクリスマスに渡し忘れたネックレスを渡す。
「これ大したものじゃないですけど、朝日の勉強を見てもらったお礼」
「わあ。開けていいですか?」
「どうぞ」
わくわくした少女みたいな顔して、包みを開ける。
パールのペンダントトップが付いている金のネックレス。
「これ高くなかったですか? こんな素敵なネックレスもらっちゃっていいのかな?」
安くはなかったよ。五万円ぐらいだったかな。
朝日の勉強をみてもらったから、そのぐらいのものプレセントしないとね。
先生はピンクの紙袋を渡す。
「これ、バレンタインデーのプレゼント」
中を開けると、手作りらしいチョコレートの入った小箱と毛糸の手袋。
朝日はさっきから黙ってオレンジジュースをズビズビ音を立てながら飲んでいる。
「どうもありがとう。朝日と二人でいただきます」
先生はちらっと朝日を見る。
先生の考えていることわかるよ。
朝日、朝日って、この子、なんでついてきたのよ、邪魔だわって。
「じゃあ、映画館に行きますか」と僕が話を切り上げた。
喫茶店を出て、見上げると空は真っ白だ。
どんどん雪が落ちてくる。
「僕、先に帰ってるから」ぼそっと朝日が言った。
「一緒に映画見ようよ」
「いいや。寒いし、家に帰る」
とぼとぼ雪の中、駅に向かう朝日。
傘もささずにコートのポケットに両手をつっこんで歩いている。
その後ろ姿を見ていたら、とても寂しそうで胸が痛んだ。
先生が言った。
「前の中学校で一人ぼっちで下校するはざま君、あんな感じだったな」
僕は黙って、後ろ姿を見つめている。
「みんな友達とわいわい下校するのに。中学って小学校からそのまま同じ子が上がるから、すでに友達とかグループができてて。それにはざま君、小学校の時、みんなから無視されたり、いじわるされてたって。子供って残酷だから、ちょっとしたきっかけでみんなでいじめたりするの。はざま君の場合は転校生だったのと親のネグレクトで服装とか態度が浮いていたからって理由で」
「すごくかわいそうじゃないですか」
「私もそう思った。なんで周囲の大人が助けてやらないのって。小学校のときなんて担任も同調して、はざま君に嫌なこと言ったり、仲間外れにしたりしてたらしいよ。そういう子が一人いればクラスがまとまるとかって。最低な教師だよね」
先生は怒っていた。
「それって新聞に載ってもおかしくないじゃないですか」
「はざま君、食事もろくにとってなくて、それで私が家に招いてごちそうしたり、夕ご飯用に給食室から余った給食をもらって持たせて帰らせたり」
朝日、そんな辛い思いしていたんだね。
僕も落ち込んできた。
どんと背中を押された。
「はざま君のこと追いなよ。ぼっちなんてかわいそすぎる。はざま君にはもう悲しい思いも寂しい思いもして欲しくないの」
背中を三浦先生に押された。
「私はいいから、行って」にっこりと先生は笑った。
ああ、この人、プロの教師なんだ。
僕の頭のなかでマライア・キャリーのHeroが流れた。
そういえば三浦先生、マライア・キャリーに髪形と雰囲気がすこし似ているかも。
***
雪の中、朝日を追う。
すぐに追いつき、肩を抱く。
はっとした表情をして僕を見る朝日。長いまつ毛に雪が付いてるよ。
「一緒に帰ろう」
「うん」
朝日は下を向いて頷いた。少し安心した顔をしていた。
後ろを振り向くと、水玉の傘を差した三浦先生が手を振っている。
僕も手を振る。そして、朝日と駅に向かって歩き出した。
雪はさらにたくさん空から落ちてくる。
でも寒くないよ。朝日がそばにいてくれるから。
なんだろうこの気持ち。どんどん君に惹かれていく……君との恋におちていく。もうこの気持ち、止められないよ。
どこまで僕は落ちていくんだろう。
奈落なのか。それともそこにあるのは楽園なのか。
でも君はまだ幼すぎて僕の気持ちなんて分からないだろうね。
都心は混むから、新百合ヶ丘でお茶して映画を見る約束をした。
朝、起きるとちらほら小雪が舞っていた。
車で行ってもいいけど、どうせ二駅先だから電車で行くか。
朝日はベッドでぐたぐた寝ている。
一二時になっても寝てるので聞いた。
「大介君の家に行かないの?」
「金曜、大介、風邪で学校休んだ。今日も具合悪いって。遊ぶの無理だって」
「じゃあ、朝日も一緒に行こうよ」髪をくしゃっと撫でる。
「だって、三浦先生とデートじゃ?」
「デートじゃないよ。お出かけ。朝日も行こうよ」
「先生、がっかりするよ。栄と二人で出かけたかったのに」
「ね、一緒に行こうよ」
「うーん、いいのかな?」
昼二時になっても雪が降っていた。
コートを着て外に出ると、息が白くなった。粉雪が積もり始めている。
朝日が「さむっ」と、マフラーを巻く。
朝日とこうやってお出かけ、いいな。これからたくさんお出かけしようね。
新百合ヶ丘の改札が待ち合わせ場所だった。
三浦先生は、おしゃれをしていた。
美容院できちんと髪をセットして、新品のグレーのコートを着て、赤い大きなカバンも新品だった。
「三浦先生、雪のなかどうも」
「いえいえ。お忙しいのに無理きいてもらってすみません」
先生の頬がピンクに染まる。
でも横の朝日を見て、ちょっと複雑そうだ。
「朝日も連れてきちゃいました」
「ええ。朝日君、元気だった?」先生はちょっと気が動転しているのか、普段は『はざま君』って呼んでいるのに朝日君と言い間違えた。
朝日は元気のない声で返事をする。
「はい」
チェーン店の喫茶店に入る。
いつもは学生や主婦グループで混んでいるが雪の日なのでがらがらだった。
先生にクリスマスに渡し忘れたネックレスを渡す。
「これ大したものじゃないですけど、朝日の勉強を見てもらったお礼」
「わあ。開けていいですか?」
「どうぞ」
わくわくした少女みたいな顔して、包みを開ける。
パールのペンダントトップが付いている金のネックレス。
「これ高くなかったですか? こんな素敵なネックレスもらっちゃっていいのかな?」
安くはなかったよ。五万円ぐらいだったかな。
朝日の勉強をみてもらったから、そのぐらいのものプレセントしないとね。
先生はピンクの紙袋を渡す。
「これ、バレンタインデーのプレゼント」
中を開けると、手作りらしいチョコレートの入った小箱と毛糸の手袋。
朝日はさっきから黙ってオレンジジュースをズビズビ音を立てながら飲んでいる。
「どうもありがとう。朝日と二人でいただきます」
先生はちらっと朝日を見る。
先生の考えていることわかるよ。
朝日、朝日って、この子、なんでついてきたのよ、邪魔だわって。
「じゃあ、映画館に行きますか」と僕が話を切り上げた。
喫茶店を出て、見上げると空は真っ白だ。
どんどん雪が落ちてくる。
「僕、先に帰ってるから」ぼそっと朝日が言った。
「一緒に映画見ようよ」
「いいや。寒いし、家に帰る」
とぼとぼ雪の中、駅に向かう朝日。
傘もささずにコートのポケットに両手をつっこんで歩いている。
その後ろ姿を見ていたら、とても寂しそうで胸が痛んだ。
先生が言った。
「前の中学校で一人ぼっちで下校するはざま君、あんな感じだったな」
僕は黙って、後ろ姿を見つめている。
「みんな友達とわいわい下校するのに。中学って小学校からそのまま同じ子が上がるから、すでに友達とかグループができてて。それにはざま君、小学校の時、みんなから無視されたり、いじわるされてたって。子供って残酷だから、ちょっとしたきっかけでみんなでいじめたりするの。はざま君の場合は転校生だったのと親のネグレクトで服装とか態度が浮いていたからって理由で」
「すごくかわいそうじゃないですか」
「私もそう思った。なんで周囲の大人が助けてやらないのって。小学校のときなんて担任も同調して、はざま君に嫌なこと言ったり、仲間外れにしたりしてたらしいよ。そういう子が一人いればクラスがまとまるとかって。最低な教師だよね」
先生は怒っていた。
「それって新聞に載ってもおかしくないじゃないですか」
「はざま君、食事もろくにとってなくて、それで私が家に招いてごちそうしたり、夕ご飯用に給食室から余った給食をもらって持たせて帰らせたり」
朝日、そんな辛い思いしていたんだね。
僕も落ち込んできた。
どんと背中を押された。
「はざま君のこと追いなよ。ぼっちなんてかわいそすぎる。はざま君にはもう悲しい思いも寂しい思いもして欲しくないの」
背中を三浦先生に押された。
「私はいいから、行って」にっこりと先生は笑った。
ああ、この人、プロの教師なんだ。
僕の頭のなかでマライア・キャリーのHeroが流れた。
そういえば三浦先生、マライア・キャリーに髪形と雰囲気がすこし似ているかも。
***
雪の中、朝日を追う。
すぐに追いつき、肩を抱く。
はっとした表情をして僕を見る朝日。長いまつ毛に雪が付いてるよ。
「一緒に帰ろう」
「うん」
朝日は下を向いて頷いた。少し安心した顔をしていた。
後ろを振り向くと、水玉の傘を差した三浦先生が手を振っている。
僕も手を振る。そして、朝日と駅に向かって歩き出した。
雪はさらにたくさん空から落ちてくる。
でも寒くないよ。朝日がそばにいてくれるから。
なんだろうこの気持ち。どんどん君に惹かれていく……君との恋におちていく。もうこの気持ち、止められないよ。
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でも君はまだ幼すぎて僕の気持ちなんて分からないだろうね。
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