俺様カメラマンは私を捉えて離さない

玖羽 望月

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 ほぼ、なんの予定も入っていない十日もある長い夏休み。唯一前から予定が入っていたのは、休みも終盤の木曜日の午後だった。

 マンションの一室の前に立つと、『村井むらい』と掲げられた表札を見ながらインターフォンを押す。ガチャリ、と大きな音とともにドアは開いた。

「瑤子、いらっしゃい!」
「お邪魔します」

 笑顔で出迎えてくれたのは、大学に入ってすぐ意気投合し仲良くなった夕実ゆみちゃんだ。
 すらっと背が高く、ショートヘアのよく似合う彼女は、剣道でインターハイに出たこともある猛者だ。そんな夕実ちゃんだけど、実はかなり女子力は高く、料理の腕前はプロ並み。私は今までたくさん教えてもらってきた。
 同級生のなかで大学卒業後、今でも付き合いがあるのは夕実ちゃんだけ。なんでも話せていつも私にそっと寄り添ってくれる、大事な大事な友人だ。
 そして、もう一人。

「瑤子ちゃん!」

 突進してきたかと思うと私の腰に腕を回して見上げているのは、夕実ちゃんの可愛い一人娘。

紗英さえちゃん、また大きくなった?」
「うん! 紗英、もう六才のお姉さんだもん!」

 得意げな笑顔を見せるその頭を私は撫でた。
 彼女もまた、私の大事な存在。いつでもこうやって癒してくれる。私は姪っ子のように可愛がっていた。

「あ、夕実ちゃん。ケーキ買って来たよ。一緒に食べよう?」

 手に持っていた箱を差し出すと「ありがと。コーヒー淹れるね」と夕実ちゃんは受け取った。

「紗絵ちゃんには、はい。これ」

 もう一つ持っていた紙袋を差し出すと、紗絵ちゃんはキラキラ目を輝かせて受け取った。

「開けていい?」
「もちろん!」

 すぐに取り出せるよう紙袋にして貰って正解だった。小さな手ですぐに中身を取り出すと驚いたように目をまん丸にしていた。

「ママ! 見て見て! 瑤子ちゃんがお人形の新しいドレスくれたよ!」
「も~。瑤子。何もいらないのに。紗絵、お礼は言った?」
「瑤子ちゃん、ありがとう! 紗絵と一緒に遊ぼう?」

 急かすように私の手を一生懸命引っ張る紗絵ちゃんの姿がなんとも微笑ましい。

(私にも子どもがいたら、一緒に遊んだのかな?)

 もしかしたら私にも、同じ年頃の子がいたかも知れない。けれどそれは幻のままに終わった。
 五年と少し前、それまで六年付き合った相手に無惨に捨てられた時点で。

 ――その日は週末でもない平日の夜だった。
 なんの前触れもなく突然私の家を訪れたのは、石原いしはら征士まさしさん。当時付き合っていた人だ。
 新卒で入った前の会社で知り合った彼とは、向こうから交際を申し込まれ付き合いだした。仕事もでき、周りからの人望も厚く、いつもたくさん人に囲まれていた。
 それまで付き合った相手もほとんどおらず、女子高、女子大と男の人にも慣れていなかった私は、そんな人に見初められ舞い上がっていた。

『瑤子とは将来のことも考えたいけど、社内恋愛はやりにくいんだよね』

 前の職場は、大学で専攻していた英語力を活かせる外資系企業だった。第一希望の会社に就職したはずなのに、そう言われてなんの疑問も持たず転職活動を始めた。
 もちろん、私たちが交際しているなんて社内の誰にも言ってない。転職理由も、『家の都合で……。時間の融通の効く仕事を探しているんです』と身近な人にだけ話した。
 今の職場は、前に勤めていた会社の先輩の紹介だった。
 
『大学の先輩がいい人いないか探してるの。良かったら面接受けてみない?』

 その人は榎木社長の奥様、茉紀まきさんと付き合いがあったらしい。条件を聞くと願ってもない内容で、私は二つ返事で面接へ向かった。
 話はトントン拍子に進み、私は無事転職をした。
 
 それからしばらくしてからだった。優しかった彼が少しずつ変わっていったのは。

『ちょっとこれ、塩辛くない? それにほら、材料の切り方も雑だし』
『そう……かな?』

 自分ではそんな風に感じなかった。雑に作ったわけではないし、味もいつも通りだと思った。
 否定するわけでもなく、ただ思ったことを口にした。それだけだった。なのに、征士さんは途端に不愉快そうに眉を顰め、箸を叩きつけるように置いた。

『何? 僕が間違ってるって言いたいわけ?』

 初めてみるその姿に、怒らせてしまったと慌てた私はすぐさま謝った。

『そ、そんなことない。ごめんなさい。次はちゃんと作るから』

 小さくなりながら言うと、征士さんは呆れたように息を吐いてまた箸を手にした。

『当たり前だろう? 僕は瑤子のためを思って、心を鬼にして言ってるんだからね?』

 それからも『瑤子のため』と言う言葉とともに指摘されることが増えた。

(私が……悪いんだから……)

 指摘されるたび、私は自分を否定し続けた。
 だんだん自分が蝕まれていることに、その時気付くことはなかった。
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