俺様カメラマンは私を捉えて離さない

玖羽 望月

文字の大きさ
17 / 27
3

6

しおりを挟む
 テーブルの上に広げられた料理は、綺麗さっぱりなくなった。なっちゃんが途中、「そろそろ本気出していい?」なんて笑い、残っていたものを全部平らげていた。
 なっちゃんと紗英ちゃんがお風呂に入っている間に二人で片付ける。それが終わると勝手知ったるリビングのソファに体を預けた。

「ご馳走様~! こんなに食べたの久しぶり!」
「お粗末さま。ビール、飲む?」
「うん。じゃ、貰う」

 食事中はセーブしていたけど、動いたらお腹も落ち着いてきたのか一缶くらいなら入りそうな気がする。夕実ちゃんから缶ビールを受け取ると二人で同時にプシュっと音を立てて開けた。

「瑤子さ。最近はどう? 仕事、まだ忙しい?」

 夕実ちゃんと前に会ったのは六月の終わり。安請け合いしたはいいが、予想以上の撮影依頼にうんざりしていた頃だ。

「さすがにね。この休みの間は後輩に任せてあるけど、休み明け怖いなぁ……」
「瑤子がそんなこと言うなんてよほどだ。そんなに凄い人なの? 新しいクライアントって」
「うん。結構ね。今までで一番かも。でも、来月中には専属の担当者決まるだろうし、それまでの我慢かな?」

 ビールで喉を潤しながら私は答える。だいたい記憶してあるスケジュールを考えても、あの人のマネージャーはそれくらいには決まっているはずだ。とにかく今を乗り切って、早く平穏な日常に戻りたい。

 けれど、果たして平穏な日常が訪れるのかはわからない。セフレ宣言をされてまだたったの一週間。あの日を思い出すだけで、お腹の奥深くが疼いてしまう。もしかしたら、向こうの思惑通りなのかも知れない。
 私から『抱いてください』と言わせるための。

「そっか。ところで瑤子。最近は、その……いい人とか、いないの?」
「えっ! あ、いない! いないよ!」

 変なことを考えていたせいで、挙動不審な感じで返してしまう。

「そう? でも、その様子じゃ気になってる人くらいいる感じ?」
「いやいや、気にもしてないから! ほんと、冗談じゃない!」

 話せば話すほど深みに嵌っていることに気づかず、首を盛大に振りながら否定する。

「ふぅん……。ま、そう言うことにしとこ。けど、もし……許されるなら、そんな相手ができたら紹介して?」

 ビールを飲みがら言うその顔は笑顔ではない。今でもきっと、夕実ちゃんは自分を許してないのだ。

「もちろん……。そんな人が現れたら……ちゃんと紹介するから」

 そんな日はきっと来ない。でも、夕実ちゃんを安心させたくて、私はそう答えた。

 征士さんを初めて会わせたとき、二人とも彼にどこか違和感を感じたのだと言う。けれど、幸せそうだった私にそれを言い出せなかった、と聞いたのはずいぶん経ってからだった。
 あの頃の私にはとても言えなかっただろう。精神的に追い込まれていた私は、その後しばらくしてから自分が異常をきたしていたことに気づいたのだから。そして、二人をとても心配させてしまったのだ。

「瑤子ちゃん、どした?」

 ぼぉっと窓の外を眺めていた私に、運転席からなっちゃんの心配そうな声が聞こえてきた。
 紗英ちゃんの寝る時間になり、ちょうどいいから帰るね、と言った私をなっちゃんが車で送ってくれている。
 まだ時間は夜九時を過ぎたばかり。『電車もまだまだあるし、大丈夫』と断ったが、『いいからいいから。瑤子ちゃん送るために酒も飲まなかったんだから送らせてよ』と言われると断りきれなかった。

「ん? なんでもないよ。それより、ありがとう、なっちゃん。お風呂も入ってあとは寝るだけだったでしょ?」
「いいって。瑤子ちゃんのためならお安い御用だよ」

 ハンドルを握り前を向いて笑う、なっちゃんの横顔を見て思う。

(私も……なっちゃんみたいな人と出会えてたら、今頃……)

 考えても虚しいだけなのに、時々そんなことが頭をよぎる。でも、今からそんな相手を探そうなんて思わない。一人で殻に閉じこもっていれば、誰も私を傷つけることはない。そうやってこれからも生きていこうと決めたのだから。

 なっちゃんたちの家から私の家までは車で三十分ほど。その道のりが半分になった頃、バッグの中からブーブーと音が聞こえた。

「電話? 俺のことは気にせず出てよ?」
「あ、うん……」

 こんな時間にいったい誰? と思いながらバッグを探りスマートフォンを手にする。そこに表示されていた名前を見て、思わず私は「ひっ‼︎」と変な声を出した。

(なっ、なんで⁈)

 けれど、仕事の話だったら……と、恐る恐る画面をタップした。

「もっ……もしもし?」
『……出るの遅ぇ。お前、今どこ?』

 車の窓に頭を押し付けるように身を屈めたまま小声で答える。

「どこだっていいでしょ!」
『へぇ……。この前俺でストレス発散しといて、俺のストレスは解消してくれねぇわけ』

 その顔が目に浮かぶような嫌味な言いかた。それ自体がストレスの元なんだけど。

「そっちだって発散したでしょ⁈」
「瑤子ちゃん? 大丈夫?」

 思わず声を大きくして言い返した私の背中側から、心配そうな声が響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

国宝級イケメンとのキスは、最上級に甘いドルチェみたいに私をとろけさせます♡ 〈Dulcisシリーズ〉

はなたろう
恋愛
人気アイドルとの秘密の恋愛♡コウキは俳優やモデルとしても活躍するアイドル。クールで優しいけど、ベッドでは少し意地悪でやきもちやき。彼女の美咲を溺愛し、他の男に取られないかと不安になることも。出会いから交際を経て、甘いキスで溶ける日々の物語。 ★みなさまの心にいる、推しを思いながら読んでください ◆出会い編あらすじ 毎日同じ、変わらない。都会の片隅にある植物園で働く美咲。 そこに毎週やってくる、おしゃれで長身の男性。カメラが趣味らい。この日は初めて会話をしたけど、ちょっと変わった人だなーと思っていた。 まさか、その彼が人気アイドル、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーだとは気づきもしなかった。 毎日同じだと思っていた日常、ついに変わるときがきた。 ◆登場人物 佐倉 美咲(25) 公園の管理運営企業に勤める。植物園のスタッフから本社の企画営業部へ異動 天見 光季(27) 人気アイドルグループ、dulcis(ドゥルキス)のメンバー。俳優業で活躍中、自然の写真を撮るのが趣味 お読みいただきありがとうございます! ★番外編はこちらに集約してます。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/693947517 ★最年少、甘えん坊ケイタとバツイチ×アラサーの恋愛はじめました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/408954279

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

サイコパス社長の執着溺愛は異常です

鳴宮鶉子
恋愛
サイコパス社長の執着溺愛は異常です

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

処理中です...