One night stand after〜俺様カメラマンと一夜限りの関係のはずが気付けば愛執に捕らわれていました〜

玖羽 望月

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24 side T

3.

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リストを見ながら、結局「よく分からない……」と言い出した瑤子に好みを聞いて、俺が選ぶ。ボトルの方に好みに近いものがあり、さすがに一人では飲みきれないだろうと俺も同じものを飲むことにした。

「ウィスキーじゃなくてよかったの?」

オーダーした後、瑤子にそう尋ねられたが、別にこだわりがあるわけではない。

「美味けりゃなんでもいい」
「司、本当にお酒好きだよね。ビールなんてお茶代わりに飲んでない?」

3ヶ月と少し前、同じ人が作った服で着飾ってここに来た時とは違う顔して瑤子は笑う。あの時はセフレになったばかりで、瑤子の表情はまだまだ硬かった。
でも今は、何処にいようと家にいるように安心した顔を見せてくれている。そんな瑤子の顔を見ると、愛しいと言う気持ちが湧き上がる。

ずっと触れていたい
ずっと感触を味わっていたい
ずっと繋がっていたい

そんな事ばかり思ってしまう。

『愛してる』と言われてどんなに嬉しかったか、瑤子は分かっているのだろうか。
俺が言う事を躊躇した言葉を、瑤子から言ってくれた。俺を認めてくれたからこそ、その言葉を口にしてくれたのだ。
これからもずっと、永遠に一緒にいたい。そう思う。

もう、すでに俺の問題、ではなく俺達の問題、になっている沢山の障害を、きっと瑤子となら越えていける。そんな気がした。

ソムリエがワインをサーブしている様子を瑤子はキラキラとした瞳で眺めている。俺はずっとそんな事を考えながらその顔を眺めていた。ソムリエが去ると、それぞれグラスを持ち上げる。

「今日はお疲れ様でした」
「ふっ。今からまだ疲れるぞ?」

そう言って笑うと、

「だから、すぐそう言う事言うんだから!」

と瑤子は半分呆れて、半分照れたような顔を見せた。

「ま、乾杯」

はぐらかすようにグラスを上げて、口を付けると、瑤子は「もう!」と言いながら同じ様にグラスに口を付けた。

それからしばらくはワインやチーズを楽しみながら昔話をした。
希海や香緒の幼い頃の話に、睦月とニューヨークにいた時の話など。瑤子は楽しそうに目を輝かせて聞いている。

「ニューヨークかぁ……。行ってみたいなぁ……」

なんて瑤子は呟く。

「じゃあ行く?」
「ちょっとそこまでみたいに言わないでよ」

目を丸くして瑤子は言う。

「んー……。じゃ、年末年始は?スケジュール空いてるだろ?」
「それ、本気で言ってる?」
「俺はいつでも本気だけど?」

しばらく動きを止めて俺の方を見てから、「パスポート……取る」と瑤子は小さく言う。

「あぁ。どこ行きたいか考えとけよ?」

頬を染めながら、ゆっくり瑤子は頷いた。


…………?

さっきから、時折視線を感じる。
こちらを探る様な、そんな視線を。

俺は撮る側だが、幼い頃から不躾な視線を投げかけられる事も多かったせいで、見られている事にも敏感だ。視線を感じるたび、悟られないようそちらに視線をやるが、相手も巧妙に隠れているようで誰なのかは特定出来ない。

「どうかした?」

瑤子はすでに3杯目になったグラスを手に俺に尋ねる。ボトルはそろそろ空に近い。

「いや……?何でもない」

あえて言うことでもないし、心配させないように俺はそう言って瑤子の方を向いた。

「車に着替え取りに行ってくる。ちょっとここで待っててくれ」
「分かった。て言うか、いつの間に部屋取ってたの?」

してやられた、と言いたげな顔している瑤子の顔を見ながら席を立ち、髪をそっと撫でる。

「お前、ほんと車の中で寝るとなかなか起きねーな。普通に電話してたのに気付いてねーだろ」

瑤子は無言でジトっと俺を見上げて、

「もう寝ない」

と拗ねたように言う。
笑いながら頭から手を離し、

「ま、無理だな。じゃあ大人しく待ってろよ」

と席から離れた。

さっきの視線が、俺に向けられたものなのか、瑤子に、なのか少し気になり、店を出る前にスタッフに耳打ちしておく。

「悪いが、あの席に誰か近づかないか様子を見ておいてくれないか」

スタッフは「かしこまりました」と返事をして俺を見送った。

エレベーターホールには先客が一人。他には誰もおらず、静まりかえったホールでエレベーターの到着を待った。

チンっ到着を告げる音が鳴ると扉が開き、先に待っていた男が入る。行先ボタンの前にそいつは立ち、俺はその横を通り奥へ向かった。

「何階ですか?」

冷たく響く低めの声がして、「地下へ……」と俺は答える。

年はたぶん俺と変わらないくらい。俺より身長は低いが、一般的に見れば高い方で細身の体格。そして着ているブラックスーツはかなり上質なものなのは分かる。
場所が場所だけにそんな客は珍しくもないが、何故か顔も見えないその男のオーラの様なものが冷たい気配を放っていて、何となく居心地は悪い。

そう言う時に限って途中で止まる事もなく、エレベーターは静かに地下に止まった。

「お先にどうぞ」

扉が開くと男はそう言った。

「あ、あぁ……」

そいつの顔に興味はあるが、ジロジロ見るわけにいかず、俺はそれだけ言うとそいつの横を通り過ぎた。

「いい女連れてますね。長門司さん?」

ククッと薄笑いのような声と共に、冷淡な声が耳に届く。

「は?」

慌てて振り返るが、扉の閉まりかけているエレベーターだけが俺の目に入った。
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