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「腰……。痛いんだけど」
2人して惰眠を貪り、結局慌てて用意してチェックアウトしたのがギリギリ12時前。それから朝食ではなく昼食をそのままホテルのラウンジで取って今に至る。
昨日はいつも以上に無茶苦茶にされてしまった所為で、助手席に座ると何となく腰がじんわり重い。
「帰ったらマッサージしてやるよ」
ハンドルを動かしながら笑って言う司に、恨めしげに視線を送りながら私は口を開く。
「ちょっとは私の体を労ってよね!若くないんだから!」
自分で言ってて虚しくなるが事実だから仕方がない。
「お前が若くなかったら俺はどうなんだよ。もう40になるんだけど」
そう言えば……司の誕生日って、11月くらいじゃなかったっけ?と昔見たプロフィールを思い出す。自分の誕生日は司に出会った時に既に過ぎていて、そう言えばそんな話になった事もなかった。
「司って……誕生日いつなの?」
「ん?1日」
運転中だから、もちろん前を向いたまま司は軽くそう言う。
「ちょっと待って!1日って、もしかして……」
「あ?あぁ……来週だな。30代最後の1週間かよ」
「嘘でしょ……」
11月1日。
ちょうど一週間後と言う事実に思わず絶句してしまう。
プレゼントなんて何にも考えてない。まさかこんなすぐだなんて思ってもなかったし……。
「何もいらねーぞ。今頭ん中で慌ててどうしようか考えてるだろ?」
さすがに見透かされている。
「だって!せっかくの……その初めての誕生日だし」
そう言って口籠る。
何か改めて言うとなんだか恥ずかしい。付き合いたての若いカップルでもあるまいし、記念日だからって気負う必要はないのかも知れないけど。
「何?そう言うの気にする方?」
「そうじゃないけど……」
車は一方通行の路地に入り、一台分空いていたパーキングに止められる。
「じゃあ、お前の行きたいところに連れて行ってくれ」
車のエンジンを切り、司は私にそう言った。
「私の行きたいところ?」
「そ。何処でもいいぞ。水族館でも映画館でもテーマパークでも」
それはそれで悩むけど……
少し考えてから、私は口を開く。
「じゃあ、当日のお楽しみって事で。本当に何処でもいいんだよね?」
シートベルトを外しながら念押しするて、「いいぞ?期待してる」と笑顔で返ってきた。
ハードルが上がってしまった気もするが、司があまり行かないところにしようとちょっと悪巧みしている気分になった。
「期待してて!じゃあ事務所寄って来るね」
そう言ってドアに手を掛けて、ふとその存在を思い出す。
「ごめん、指輪預かってて。さすがに社長や茉紀さんに見られたらいい逃れできないし」
そう言って指輪を外すと司に渡す。
「アイツら……。いや、まぁいいか。じゃここで待ってる」
司に見送られ、私は事務所へ向かった。
「お疲れ様です」
事務所に入り、受付をしている社員に声を掛けて自席に向かう。私の席は専属をやっている社員だけが固められた島で、だいたいいつも誰もいない。郵便物や机の上に貼られた急ぎじゃない社内メモを回収して、今片付けられるものは終わらせておこうと中身を確認する。
「瑤子お疲れ~!」
私が来ているのが見えたのか、茉紀さんがいつものように元気よくやって来た。
「お疲れ様です。茉紀さん」
「早速で悪いんだけど、これお願い。淳一がメール送り忘れてたんだって」
そう言って書類の挟まれたクリアファイルを差し出された。
「何ですか?」
それを受け取り、中の書類を取り出しながら尋ねると、
「長門のプロフィールの確認だって。変わってないか聞いといて」
と興味なさそうに茉紀さんは答えた。
そして、そこには案の定……
誕生日載ってる!!忘れてたって……社長もうちょっと早く頂戴よー!
と私は心の中でボヤいた。
「そう言えば長門、もうすぐ誕生日だ。今年はどうするのかねぇ……」
そんな私の心の声を聞いていたかのように、茉紀さんはしみじみそう口にする。
「どうするって何をですか?」
「アイツ、昔は自分の誕生日に誰か特定の相手と過ごして勘違いされるの嫌だからって、ワザと淳一や睦月と飲みに行ってたりしたんだけど。そう言えば今年は何の音沙汰もないらしいんだよね~」
宙を見つめて、思い出すように茉紀さんはそう言った。
「そ……う……ですか」
何と返したらいいかなんて思い付かず、それだけ返すと茉紀さんは何故か笑顔でこちらを向いた。
「そろそろ自分の誕生日を一緒に過ごしたい人でも出来たのかねぇ?」
ま……茉紀さん……その意味ありげな顔は一体何?
「ど……どうなんでしょう?」
と私は強張った顔でそう返すしかなかった。
なかなかに察しのいい人だから、なんとなく勘付かれている気もする。これが社長だったら誤魔化せそうな気もするんだけどなぁ、と思ってみる。
司はきっと2人には言ってもいいって言うんだろうけど……私から打ち明ける勇気は出ない。
2人は、私がまだ司に打ち明けることのできない出来事を知っている。ほんの数年前までの私が一体どんなだったかを。だから、心配かけたくないって言うのもある。けれど、ずっと黙っているのも気が引ける。
「あ、そうだ瑤子。引っ越ししたならちゃんと手続きしといてね。色々総務の子が困るからさ」
「すみません。ちょっとバタバタしてて……。……って何で知ってるんですか⁈」
私まだ事務所の誰にも言ってない!
「ふふ~ん。知りたい?」
茉紀さんは私に、なんだか悪い顔してニヤリと笑った。
2人して惰眠を貪り、結局慌てて用意してチェックアウトしたのがギリギリ12時前。それから朝食ではなく昼食をそのままホテルのラウンジで取って今に至る。
昨日はいつも以上に無茶苦茶にされてしまった所為で、助手席に座ると何となく腰がじんわり重い。
「帰ったらマッサージしてやるよ」
ハンドルを動かしながら笑って言う司に、恨めしげに視線を送りながら私は口を開く。
「ちょっとは私の体を労ってよね!若くないんだから!」
自分で言ってて虚しくなるが事実だから仕方がない。
「お前が若くなかったら俺はどうなんだよ。もう40になるんだけど」
そう言えば……司の誕生日って、11月くらいじゃなかったっけ?と昔見たプロフィールを思い出す。自分の誕生日は司に出会った時に既に過ぎていて、そう言えばそんな話になった事もなかった。
「司って……誕生日いつなの?」
「ん?1日」
運転中だから、もちろん前を向いたまま司は軽くそう言う。
「ちょっと待って!1日って、もしかして……」
「あ?あぁ……来週だな。30代最後の1週間かよ」
「嘘でしょ……」
11月1日。
ちょうど一週間後と言う事実に思わず絶句してしまう。
プレゼントなんて何にも考えてない。まさかこんなすぐだなんて思ってもなかったし……。
「何もいらねーぞ。今頭ん中で慌ててどうしようか考えてるだろ?」
さすがに見透かされている。
「だって!せっかくの……その初めての誕生日だし」
そう言って口籠る。
何か改めて言うとなんだか恥ずかしい。付き合いたての若いカップルでもあるまいし、記念日だからって気負う必要はないのかも知れないけど。
「何?そう言うの気にする方?」
「そうじゃないけど……」
車は一方通行の路地に入り、一台分空いていたパーキングに止められる。
「じゃあ、お前の行きたいところに連れて行ってくれ」
車のエンジンを切り、司は私にそう言った。
「私の行きたいところ?」
「そ。何処でもいいぞ。水族館でも映画館でもテーマパークでも」
それはそれで悩むけど……
少し考えてから、私は口を開く。
「じゃあ、当日のお楽しみって事で。本当に何処でもいいんだよね?」
シートベルトを外しながら念押しするて、「いいぞ?期待してる」と笑顔で返ってきた。
ハードルが上がってしまった気もするが、司があまり行かないところにしようとちょっと悪巧みしている気分になった。
「期待してて!じゃあ事務所寄って来るね」
そう言ってドアに手を掛けて、ふとその存在を思い出す。
「ごめん、指輪預かってて。さすがに社長や茉紀さんに見られたらいい逃れできないし」
そう言って指輪を外すと司に渡す。
「アイツら……。いや、まぁいいか。じゃここで待ってる」
司に見送られ、私は事務所へ向かった。
「お疲れ様です」
事務所に入り、受付をしている社員に声を掛けて自席に向かう。私の席は専属をやっている社員だけが固められた島で、だいたいいつも誰もいない。郵便物や机の上に貼られた急ぎじゃない社内メモを回収して、今片付けられるものは終わらせておこうと中身を確認する。
「瑤子お疲れ~!」
私が来ているのが見えたのか、茉紀さんがいつものように元気よくやって来た。
「お疲れ様です。茉紀さん」
「早速で悪いんだけど、これお願い。淳一がメール送り忘れてたんだって」
そう言って書類の挟まれたクリアファイルを差し出された。
「何ですか?」
それを受け取り、中の書類を取り出しながら尋ねると、
「長門のプロフィールの確認だって。変わってないか聞いといて」
と興味なさそうに茉紀さんは答えた。
そして、そこには案の定……
誕生日載ってる!!忘れてたって……社長もうちょっと早く頂戴よー!
と私は心の中でボヤいた。
「そう言えば長門、もうすぐ誕生日だ。今年はどうするのかねぇ……」
そんな私の心の声を聞いていたかのように、茉紀さんはしみじみそう口にする。
「どうするって何をですか?」
「アイツ、昔は自分の誕生日に誰か特定の相手と過ごして勘違いされるの嫌だからって、ワザと淳一や睦月と飲みに行ってたりしたんだけど。そう言えば今年は何の音沙汰もないらしいんだよね~」
宙を見つめて、思い出すように茉紀さんはそう言った。
「そ……う……ですか」
何と返したらいいかなんて思い付かず、それだけ返すと茉紀さんは何故か笑顔でこちらを向いた。
「そろそろ自分の誕生日を一緒に過ごしたい人でも出来たのかねぇ?」
ま……茉紀さん……その意味ありげな顔は一体何?
「ど……どうなんでしょう?」
と私は強張った顔でそう返すしかなかった。
なかなかに察しのいい人だから、なんとなく勘付かれている気もする。これが社長だったら誤魔化せそうな気もするんだけどなぁ、と思ってみる。
司はきっと2人には言ってもいいって言うんだろうけど……私から打ち明ける勇気は出ない。
2人は、私がまだ司に打ち明けることのできない出来事を知っている。ほんの数年前までの私が一体どんなだったかを。だから、心配かけたくないって言うのもある。けれど、ずっと黙っているのも気が引ける。
「あ、そうだ瑤子。引っ越ししたならちゃんと手続きしといてね。色々総務の子が困るからさ」
「すみません。ちょっとバタバタしてて……。……って何で知ってるんですか⁈」
私まだ事務所の誰にも言ってない!
「ふふ~ん。知りたい?」
茉紀さんは私に、なんだか悪い顔してニヤリと笑った。
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