One night stand after〜俺様カメラマンと一夜限りの関係のはずが気付けば愛執に捕らわれていました〜

玖羽 望月

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30 side T

1.

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自分の中にまだそんなものが残っていたなんて思っていなかった。
涙を流す、なんてもう遠い昔、記憶にないくらい昔にあった筈の行為。
なのに、目の前の女が、俺の感情を激しく揺さぶり、それを思い出させてくれた。
嬉しくても涙が出るんだという事を。

俺にもあった葛藤を、恐らく違う形で瑤子もしていたと思う。
結婚なんて、所詮書類上での事だと冷めた気持ちでいた俺に、そうじゃない事を教えてくれたのは他でもない瑤子自身だ。
俺の抱えているものを知った上で、それでも俺と一緒に共に歩んでくれる事を選んでくれた。それが何よりも嬉しい。

だから俺は何があっても、もう何も失う事なく大事なものを守りきる。それが、俺に課せられた新たな使命だと、そう思った。

それにしても……。一つだけ、後悔している事はあったりする。
冷静になってみると、薄暗いベッドの上で、しかも瑤子は半裸の状態で言う事だったのかと反省した。
さすがにこれは、やり直しするべきだよな、なんて事を瑤子を腕に閉じ込めたまま思った。

「なに……考えてる……の?」

俺が少しばかり上の空だったのがバレたのか、瑤子が潤ませた瞳を向けて尋ねてきた。

「いや?どうお前を啼かせようかなって」

そう言って腰を深く押し付けると、瑤子は仰反るように背中を浮かした。

「あっんんんっ!も……さっきから……ずっと啼かされてる!」
「ふっ。確かに」

そう言って、瑤子の唇に深く口付けて、その中に入って行く。

「んんんっ」

柔らかく熱い瑤子の舌の感触を味わって、お互いを求め合う。

気持ちがあるのとないのでは、同じ行為でもこんなにも変わるのか

俺は改めて、愛を交わすという言葉の意味を、瑤子と体を重ねて初めて知った。



「おはよう~。今日は一段と寒くない?」

瑤子がパジャマのまま分厚いカーディガンを羽織りキッチンに顔を出す。先に目が覚めた俺は、まだ時間も早いしと瑤子を起こさないようベッドから抜け出してコーヒーを入れていた。

「なんだ。意外と早く起きてきたな」

俺がそう言うと、瑤子はむうっと口を尖らせるようにして「やけにベッドがスカスカするから目が覚めちゃったの!」と言った。
その子どもみたいな顔を、可愛いなと思いながら抱き寄せて、額に唇を落とす。

「何?そんなに俺がいなくて寂しかったのか?」
「ちっっ違うもん!寒かっただけ!」

顔を赤らめて照れ隠しのようにそう言う瑤子に「はいはい」と笑いながら答えて腕を離す。
瑤子はそのまま「もー!」とぼやきながら冷蔵庫に向かって行く。

「クロックムッシュ作るけど食べるでしょ?」

背中を向けて冷蔵庫の扉を開けている瑤子に、俺は「んー。食う。コーヒー先に入れとく?」と返した。

「お願い」

返事を聞いてから、いつも使っているカップにさっき入れたコーヒーを注ぎ、両手にそれぞれ持ってから先にキッチンを後にする。

いつも通りに始まる日常。

これまでと変わらないのに、何となく違っているように感じるのは俺だけだろうか。
まるで憑物が落ちたような、そんなすっきりとしたような感覚を覚える。

結局、俺も色々なものに囚われていたんだな、と考えながらソファの前にあるテーブルにコーヒーを置くと、テレビを付けた。

朝の時間帯。所謂ワイドショーと言われる番組が放送される時間。

テレビから音声が流れ始めると、すぐに『日本国籍のハリウッド女優ミッシェルが電撃結婚』と司会者が告げる声が聞こえて来た。

「えっ!ミッシェルさん結婚したの⁈」

テレビの音声が聞こえて来たのか、瑤子が慌ててキッチンから出てくると、ソファに座りテレビを見ている。

「みてーだな」

そう言って俺はコーヒーを口に運ぶ。

「驚かないの?今日の仕事相手なのに」

瑤子の方が驚いた顔で俺を見るが、まぁ別にそう知り合いって程でもないし、結婚してもおかしくはない年齢なのだから、さほど驚かない。

「いや別に。驚くほどこいつの事を知っているわけじゃないし」

涼しい顔して俺は答える。
正直、テレビから流れてくるミッシェルの経歴は初めて聞くものばかりだ。
高校卒業後単身アメリカに渡り、そこで映画デビュー。日本では活動したことがなく、今回映画のプロモーションも兼ねて10年振りに帰国した……らしい。

突然こいつから『日本の帰国に合わせて撮影をして欲しい』とメールが届いたのは3ヶ月ほど前だ。
全く接点のなかったハリウッド女優からの依頼を、俺はもちろん断るつもりだった。
だが、そのメールに書かれていた紹介者の名前に手が止まる。そして、その紹介者からも『Wheel of Fortune運命の輪の正位置。面白そうだから受ければ?』とメールが来て、ようやく依頼者に興味が湧いたのだった。

そして、そこで俺はようやくその依頼者と接点があった事に気付いた。

「どうしよう。花束でも用意しておいた方がいいかな」

瑤子がテレビを見ながら独りごちているのを見ながら、俺は昔の事を思い出していた。
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