恋をするのに理由はいらない

玖羽 望月

文字の大きさ
52 / 76
10

1

しおりを挟む
 社長はあとで来ると通された客間。俺はまず、そこにあった棚の中に釘付けになっていた。
 数々のトロフィーや盾。古いものは澪が小学生のころのものだ。最近のものは、俺も知っている、去年リーグでMVPセッターに選ばれたもの。そして、一番目を引いたのはやはりこれだった。

「オリンピックのメダル……。すげぇ……」

 3年前、日本がもぎ取ったメダル。目の前で見るのは初めてだ。

「かけてみる?」

 澪は軽くそう言うとガラス戸を開けていた。

「え。いや、いいって!」

 こんな大事なものを気軽に身につけられるわけねぇ、と慌てて断ると、澪はケースを取り出しながら言った。

「そう? 見に来た人たち、すぐにかけさせてって言うんだけどな……」

 よくまぁ、軽々しくそんなこと口にできるな、と見たこともない奴らに苛立ちを覚える。どれだけの苦労してこれを手に入れたか。俺だって現場にいたわけじゃないが、ずっと試合を追いかけ続けたからか、自分のことのように感じてしまう。

「俺は……お前が付けたところ、もう一回見たい」

 澪がメダルをかけている姿は、画面越しでしか見たことがない。あれから3年経って、本人にそんなことを願えるなんて思いもしなかった。
 
「じゃあ……。一矢がかけてくれる?」

 ケースから取り出したメダルを、澪は俺に差し出し、俺は恐る恐る受け取った。そして、思っていた以上にズシリとするメダルをゆっくり澪の頭からかけると、澪は恥ずかしそうに顔を上げていた。

「そんなに見ないでよ。恥ずかしいじゃない」

 あまりにもじっとその姿を見ていたからか、澪はそんなことを言う。

「なんか……思い出してた。試合の間はずっと難しい顔してたのに、これ貰ったとき、ようやく嬉しそうな顔したもんなお前」

 一試合も逃さず見た前回のオリンピック。クールと言われ続けた澪は、本当にずっと涼しい顔をしていた。けれどメダルを受け取ったとき、ようやく本来の顔を見せていた。

「そんなこと覚えてるの?」
「覚えてる。その前のオリンピックは悔しそうな顔しか見られなかったからな。すげぇ嬉しかったよ」

 もう、あのときにはすでにんだよな、と今さら思う。画面越しでしか会ったことのない澪に。そう思うと思わず笑みが溢れた。

「7年……私のこと見てたって、本当だったんだ」

 顔が熱くなったのか、両頬に自分の手を当て澪は言う。
 前に、いつから片想いしてたのか尋ねられたとき、俺は迷わず7年と答えた。俺が澪を知ったのがその頃。『さすがに嘘でしょ⁈』と驚いていたが、やっと信じてもらえたようだ。

「ま、戸田常務の10年にはおよばねぇけどな」

 そんなことを笑いながら話していると、部屋の扉がノックされた。こちらが返事をする前に扉は開き、その人が入ってくると、俺たちの様子を見て驚いたような表情を見せた。確かにメダルをかけて遊んでいればそんな顔にもなるだろう。
 俺は眉を顰めたままのその人に向くと口を開いた。

「朝木一矢です。今日はお時間を割いていただいてありがとうございます。枚田社長」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ソツのない彼氏とスキのない彼女

吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。 どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。 だけど…何故か気になってしまう。 気がつくと、彼女の姿を目で追っている。 *** 社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。 爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。 そして、華やかな噂。 あまり得意なタイプではない。 どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

卒業まであと七日。静かな図書室で,触れてはいけない彼の秘密を知ってしまった。

雨宮 あい
恋愛
卒業まであと七日。図書委員の「私」は、廃棄予定の古い資料の中から一冊の薄いノートを見つける。 「勝手に見つけたのは、君の方だろ?」 琥珀色の図書室で、優等生な彼の仮面が剥がれ落ちる。放課後の密室、手のひらに刻まれた秘密の座標、そして制服のプリーツをなぞる熱い指先。日曜日、必死にアイロンを押し当てても消えなかったスカートの皺は、彼に暴かれ、繋がれてしまった心と肉体の綻びそのものだった。 白日の下の教室で牙を隠す彼と、誰にも言えない汚れを身に纏う私。卒業証書を受け取る瞬間さえ、腰元に潜む「昨日の熱」が私を突き動かす。 清潔な制服の下で深まっていく、二人にしか分からない背徳の刻印。カウントダウンの果てに待つのは、残酷な別れか、それとも一生解けない甘い呪縛か――。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】 その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。 片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。 でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。 なのに、この呼び出しは一体、なんですか……? 笹岡花重 24歳、食品卸会社営業部勤務。 真面目で頑張り屋さん。 嫌と言えない性格。 あとは平凡な女子。 × 片桐樹馬 29歳、食品卸会社勤務。 3課課長兼部長代理 高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。 もちろん、仕事できる。 ただし、俺様。 俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...