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社長はあとで来ると通された客間。俺はまず、そこにあった棚の中に釘付けになっていた。
数々のトロフィーや盾。古いものは澪が小学生のころのものだ。最近のものは、俺も知っている、去年リーグでMVPセッターに選ばれたもの。そして、一番目を引いたのはやはりこれだった。
「オリンピックのメダル……。すげぇ……」
3年前、日本がもぎ取ったメダル。目の前で見るのは初めてだ。
「かけてみる?」
澪は軽くそう言うとガラス戸を開けていた。
「え。いや、いいって!」
こんな大事なものを気軽に身につけられるわけねぇ、と慌てて断ると、澪はケースを取り出しながら言った。
「そう? 見に来た人たち、すぐにかけさせてって言うんだけどな……」
よくまぁ、軽々しくそんなこと口にできるな、と見たこともない奴らに苛立ちを覚える。どれだけの苦労してこれを手に入れたか。俺だって現場にいたわけじゃないが、ずっと試合を追いかけ続けたからか、自分のことのように感じてしまう。
「俺は……お前が付けたところ、もう一回見たい」
澪がメダルをかけている姿は、画面越しでしか見たことがない。あれから3年経って、本人にそんなことを願えるなんて思いもしなかった。
「じゃあ……。一矢がかけてくれる?」
ケースから取り出したメダルを、澪は俺に差し出し、俺は恐る恐る受け取った。そして、思っていた以上にズシリとするメダルをゆっくり澪の頭からかけると、澪は恥ずかしそうに顔を上げていた。
「そんなに見ないでよ。恥ずかしいじゃない」
あまりにもじっとその姿を見ていたからか、澪はそんなことを言う。
「なんか……思い出してた。試合の間はずっと難しい顔してたのに、これ貰ったとき、ようやく嬉しそうな顔したもんなお前」
一試合も逃さず見た前回のオリンピック。クールと言われ続けた澪は、本当にずっと涼しい顔をしていた。けれどメダルを受け取ったとき、ようやく本来の顔を見せていた。
「そんなこと覚えてるの?」
「覚えてる。その前のオリンピックは悔しそうな顔しか見られなかったからな。すげぇ嬉しかったよ」
もう、あのときにはすでに落ちてたんだよな、と今さら思う。画面越しでしか会ったことのない澪に。そう思うと思わず笑みが溢れた。
「7年……私のこと見てたって、本当だったんだ」
顔が熱くなったのか、両頬に自分の手を当て澪は言う。
前に、いつから片想いしてたのか尋ねられたとき、俺は迷わず7年と答えた。俺が澪を知ったのがその頃。『さすがに嘘でしょ⁈』と驚いていたが、やっと信じてもらえたようだ。
「ま、戸田常務の10年にはおよばねぇけどな」
そんなことを笑いながら話していると、部屋の扉がノックされた。こちらが返事をする前に扉は開き、その人が入ってくると、俺たちの様子を見て驚いたような表情を見せた。確かにメダルをかけて遊んでいればそんな顔にもなるだろう。
俺は眉を顰めたままのその人に向くと口を開いた。
「朝木一矢です。今日はお時間を割いていただいてありがとうございます。枚田社長」
数々のトロフィーや盾。古いものは澪が小学生のころのものだ。最近のものは、俺も知っている、去年リーグでMVPセッターに選ばれたもの。そして、一番目を引いたのはやはりこれだった。
「オリンピックのメダル……。すげぇ……」
3年前、日本がもぎ取ったメダル。目の前で見るのは初めてだ。
「かけてみる?」
澪は軽くそう言うとガラス戸を開けていた。
「え。いや、いいって!」
こんな大事なものを気軽に身につけられるわけねぇ、と慌てて断ると、澪はケースを取り出しながら言った。
「そう? 見に来た人たち、すぐにかけさせてって言うんだけどな……」
よくまぁ、軽々しくそんなこと口にできるな、と見たこともない奴らに苛立ちを覚える。どれだけの苦労してこれを手に入れたか。俺だって現場にいたわけじゃないが、ずっと試合を追いかけ続けたからか、自分のことのように感じてしまう。
「俺は……お前が付けたところ、もう一回見たい」
澪がメダルをかけている姿は、画面越しでしか見たことがない。あれから3年経って、本人にそんなことを願えるなんて思いもしなかった。
「じゃあ……。一矢がかけてくれる?」
ケースから取り出したメダルを、澪は俺に差し出し、俺は恐る恐る受け取った。そして、思っていた以上にズシリとするメダルをゆっくり澪の頭からかけると、澪は恥ずかしそうに顔を上げていた。
「そんなに見ないでよ。恥ずかしいじゃない」
あまりにもじっとその姿を見ていたからか、澪はそんなことを言う。
「なんか……思い出してた。試合の間はずっと難しい顔してたのに、これ貰ったとき、ようやく嬉しそうな顔したもんなお前」
一試合も逃さず見た前回のオリンピック。クールと言われ続けた澪は、本当にずっと涼しい顔をしていた。けれどメダルを受け取ったとき、ようやく本来の顔を見せていた。
「そんなこと覚えてるの?」
「覚えてる。その前のオリンピックは悔しそうな顔しか見られなかったからな。すげぇ嬉しかったよ」
もう、あのときにはすでに落ちてたんだよな、と今さら思う。画面越しでしか会ったことのない澪に。そう思うと思わず笑みが溢れた。
「7年……私のこと見てたって、本当だったんだ」
顔が熱くなったのか、両頬に自分の手を当て澪は言う。
前に、いつから片想いしてたのか尋ねられたとき、俺は迷わず7年と答えた。俺が澪を知ったのがその頃。『さすがに嘘でしょ⁈』と驚いていたが、やっと信じてもらえたようだ。
「ま、戸田常務の10年にはおよばねぇけどな」
そんなことを笑いながら話していると、部屋の扉がノックされた。こちらが返事をする前に扉は開き、その人が入ってくると、俺たちの様子を見て驚いたような表情を見せた。確かにメダルをかけて遊んでいればそんな顔にもなるだろう。
俺は眉を顰めたままのその人に向くと口を開いた。
「朝木一矢です。今日はお時間を割いていただいてありがとうございます。枚田社長」
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