駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月

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3. 夏の兆しとめぐる想い

4.

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「依澄さん?」

 確かに彼は、何か言おうとしていた。けれどそれを口にすることなく飲み込んでしまったように見えた。
 怪訝な表情を浮かべた私に、彼はハッとした様子を見せると、そのあと取り繕うように笑みを浮かべた。

「恵舞があまりにも可愛いから、見惚れてた」

 そんなふうには見えなかったけれど、頭によぎった何かを、今は言いたくないようだ。いったいそれが何なのかは全く見当がつかない。でも無理に聞きたくもない。自分にとってそれが、良いことだとは限らないのだから。

「また、揶揄ってます?」

 おそらく不安は顔に出ていたはずだ。それでも彼と同じように、取り繕った笑顔を貼り付けて返した。

「揶揄ってなどないよ。……そろそろ行こう。近くに海の見えるカフェがあるらしいんだ。興味ないか?」
「いいですね。行ってみたいです」

 ふわりと優しい笑みを浮かべると、さりげなく手を引かれる。まるで不安を拭うように、いつもより強めに握られた手を握り返した。

 ――散々遊んで帰路についた。
 夕食は、時間も時間だし簡単につまめるものを買って飲まないかと提案してみた。彼はそれを快く聞き入れてくれて、途中のスーパーでお惣菜やお酒をあれこれ買い込んだ。
 そして依澄さんの家に着いたころには、陽はとっくに暮れていた。

「……つまめるものを何か作るよ。簡単なものだけど。その間にゆっくり風呂に入っておいで」

 夕食の用意を手伝おうとした私に、依澄さんはそう言ってニッコリと微笑みかける。

「お……風呂……」

 "帰すつもりは無い"は本気だったようで、覚悟はしていたけれど改めて口に出されると、頰が熱くなってくる。

「潮風に当たったし、さっぱりしてくればいいよ。着替えも置いてあるから」

 当たり前のように言われて、心臓がギュッと縮まる。
 もちろん、今まで付き合った相手が一人もいないとは思っていない。けれどあまりにも卒がなくて、用意周到なのは、これまでそれなりの人数とデーティングを経験してきたからじゃないかと。

「恵舞?」

 黙りこくってしまったからか、心配そうな表情で呼びかけられる。それにすぐに返事をすることができず、目を逸らしてしまう。

(どう……しよう……)

 正式にお付き合いするつもりもない自分が、こんなことを思うなんて烏滸がましい。彼が本気で結婚相手を探しているなら尚更だ。けれどこんな後ろめたさを抱えたまま、彼と夜を共にすることもできない。
 意を決して、私は顔を上げた。

「依澄さん。お聞きしたいことがあります」
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