100 / 206
4.五月闇に、忍び寄る
10
しおりを挟む
「…………って、依澄さん? 本気ですか⁈」
スマホを取り出し、難しい顔でブツブツ言いながら画面を見始めた彼の姿に、ようやく我に返った。
「ん? 駄目なのか?」
何か問題でもあるのかと言いたげな表情で、依澄さんはこちらを向く。
「だ、だって! 仕事は? それに、どんな理由をつけて出張するの? さすがに無理です!」
これは本気だ。このままじゃ、仕事を放り出して着いてきそうで、焦りながら強めに口にする。すると彼は、みるみる眉を下げた。
(捨てられた犬みたいな顔されたら、困るよ……)
それに危うく絆されそうになり、頭を振って続ける。
「リアムのことは、弟みたいにしか思ってないです。宿泊先だって、きっと別になるでしょうし、現地の施設を案内するだけ。だから、心配しないでください」
依澄さんはまだシュンとしたまま、やおら口を開いた。
「恵舞のことを、信用してないわけじゃない。ちょっと……嫉妬というか、独占欲というか。とにかく、羨ましかったんだ」
耳まで赤く染めて、顔を逸らす依澄さんを見て思う。
(どうしよう……。可愛い……)
付き合い始めてから、いや、その前から見せる意外な一面に、枯渇しそうだった乙女心が湧き出す。結局、彼に翻弄されて、転がされてしまうのだ。
軽く拳を握り口元へ持って行くと、わざとらしく咳払いする。
「とにかく。仕事上で接点なんてないんですから、依澄さんが出張するのは難しいです。でも、土日なら……。一日に往復二便しかないような場所ですけど、来ます、か?」
来て欲しいなんて、可愛く言えない自分が憎い。けれどこれでも、頑張っていると思いたい。
顔を上げた彼は、パァッと明るい表情に切り替わる。絶対会社ではしないだろう、弾けるような笑顔だ。
「いいのか?」
「もちろん。私だって、依澄さんと旅行したいです」
「じゃ、計画立てなきゃな。楽しみだ」
それに笑顔で、大きく頷いた。
食事が終わり、二人で片付けをして、それからお風呂。遅い時間だからとかこつけて、半ば無理矢理一緒に入ることになった。
バスタブの中で背中から抱きしめられるというこのシチュエーションは、何度経験してもいまだに慣れない。
「あっ、何、してるんですか!」
「何もしてないよ」
笑いながら、彼は首に唇を押し当てる。かと思うと、時々刺されたような小さな痛みが走った。
「やっ、ちょっと、依澄さん!」
何をされたか察してジタバタする。
自分からは見えないけど、他人からは見える場所。そこに、絶対付けられただろう痕を想像して。
スマホを取り出し、難しい顔でブツブツ言いながら画面を見始めた彼の姿に、ようやく我に返った。
「ん? 駄目なのか?」
何か問題でもあるのかと言いたげな表情で、依澄さんはこちらを向く。
「だ、だって! 仕事は? それに、どんな理由をつけて出張するの? さすがに無理です!」
これは本気だ。このままじゃ、仕事を放り出して着いてきそうで、焦りながら強めに口にする。すると彼は、みるみる眉を下げた。
(捨てられた犬みたいな顔されたら、困るよ……)
それに危うく絆されそうになり、頭を振って続ける。
「リアムのことは、弟みたいにしか思ってないです。宿泊先だって、きっと別になるでしょうし、現地の施設を案内するだけ。だから、心配しないでください」
依澄さんはまだシュンとしたまま、やおら口を開いた。
「恵舞のことを、信用してないわけじゃない。ちょっと……嫉妬というか、独占欲というか。とにかく、羨ましかったんだ」
耳まで赤く染めて、顔を逸らす依澄さんを見て思う。
(どうしよう……。可愛い……)
付き合い始めてから、いや、その前から見せる意外な一面に、枯渇しそうだった乙女心が湧き出す。結局、彼に翻弄されて、転がされてしまうのだ。
軽く拳を握り口元へ持って行くと、わざとらしく咳払いする。
「とにかく。仕事上で接点なんてないんですから、依澄さんが出張するのは難しいです。でも、土日なら……。一日に往復二便しかないような場所ですけど、来ます、か?」
来て欲しいなんて、可愛く言えない自分が憎い。けれどこれでも、頑張っていると思いたい。
顔を上げた彼は、パァッと明るい表情に切り替わる。絶対会社ではしないだろう、弾けるような笑顔だ。
「いいのか?」
「もちろん。私だって、依澄さんと旅行したいです」
「じゃ、計画立てなきゃな。楽しみだ」
それに笑顔で、大きく頷いた。
食事が終わり、二人で片付けをして、それからお風呂。遅い時間だからとかこつけて、半ば無理矢理一緒に入ることになった。
バスタブの中で背中から抱きしめられるというこのシチュエーションは、何度経験してもいまだに慣れない。
「あっ、何、してるんですか!」
「何もしてないよ」
笑いながら、彼は首に唇を押し当てる。かと思うと、時々刺されたような小さな痛みが走った。
「やっ、ちょっと、依澄さん!」
何をされたか察してジタバタする。
自分からは見えないけど、他人からは見える場所。そこに、絶対付けられただろう痕を想像して。
18
あなたにおすすめの小説
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
椿蛍
恋愛
念願のデザイナーとして働き始めた私に、『家のためにお見合いしろ』と言い出した父と継母。
断りたかったけれど、病弱な妹を守るため、好きでもない相手と結婚することになってしまった……。
夢だったデザイナーの仕事を諦められない私――そんな私の前に現れたのは、有名な美女モデル、【リセ】だった。
パリで出会ったその美人モデル。
女性だと思っていたら――まさかの男!?
酔った勢いで一夜を共にしてしまう……。
けれど、彼の本当の姿はモデルではなく――
(モデル)御曹司×駆け出しデザイナー
【サクセスシンデレラストーリー!】
清中琉永(きよなかるな)新人デザイナー
麻王理世(あさおりせ)麻王グループ御曹司(モデル)
初出2021.11.26
改稿2023.10
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる