駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月

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5. 行き合いの空に広がる

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「才能に溢れ、自分の能力だけで大企業の役職に就き、実績を上げられるような優秀な人物。私は彼を目標に、いつか……」

 そこまでジェイクが言うと、彼の上着からくぐもった着信音が聞こえてきた。

「失礼します」

 そう一言だけ告げて、ジェイクは電話を取った。話の内容から、どうやらビジネスのようだ。タイミングが悪いが仕方ない。私は一息つくと、窓際に寄り添うように座り直し、外の景色を眺めた。

(あれ……?)

 待ち合わせのホテルまでの道は、見慣れた光景のはずだ。仕事で都内をあちこち移動する機会も多く、ランドマークとなる建物も頭に入っている。それなのに、本来右に曲がるはずの車が左へ進もうとしていた。  
 ジェイクに尋ねようとしたが、彼はまだ通話中だ。運転席までは距離があり、ここから会話ができるのかさえわからない。  
 慌てていると悟られないよう頭を整理する。車の進む方向はなんとなくわかるが、最終的にどこへ向かうのか、今の時点では予想がつかない。依澄さんには到着してから、隙を見て連絡したほうがいいと判断し、そのまま流れゆく景色を眺め続けた。  
 依澄さんとこの道を渡ったのは、まだ肌寒い春の夜だった。東京湾に架かる橋を越え、その対岸へと向かう。予定とは異なる場所へ向かっていることに私が気づいているのを、ジェイクはおそらく察しているのだろう。だが、彼は口を閉ざしたままだった。

 海沿いに点在するホテルの一つ。祖父も交えて家族で食事をしたことがあるラグジュアリーホテルに、車は静かに滑り込んだ。

「いらっしゃいませ」

 運転手がドアを開けてくれると、ドアマンが近づき、丁寧にお辞儀をして出迎えた。

「ご予約のお客様でいらっしゃいますか?」

 ドアマンがそう尋ねると同時に、後ろの自動扉が開き、「恵舞!」と声が響いた。ロビーで待っていたのか、リアムが笑顔で駆け寄ってくる。

「リアム。お招きありがとう」

 彼と会話を交わしていると、ドアマンは軽く会釈して下がった。代わりにこちらへやってきたのはジェイクだった。

「では、私はここで」  
「ありがとう、ジェイク」

 無愛想に告げるジェイクに対し、リアムは対照的に明るい表情で笑いかける。そんな短いやりとりが終わると、ジェイクは乗ってきた車に戻った。

「行こう、恵舞。レストランまでエスコートするよ」

 走り去る車を目で追うこともせず、リアムは腕を差し出して促す。

「ええ、お願いね」

 にっこり微笑み、リアムの腕を取ると、彼の歩みに合わせて進んだ。

「――どうぞ」

 案内されたのはレストランの個室だった。窓の向こうに広がるのは、都会のビル群と、そこへ繋がる橋。そして陽の光がきらめく海だった。
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