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5. 行き合いの空に広がる
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日差しは真夏を思わせるほど強く、じっとりと汗が肌に滲んでいく。それを拭うより先に立ち止まり、バッグからスマートフォンを取り出した。
画面には通知の表示はない。折り返しの電話もなければ、メッセージが読まれた形跡もなかった。
(依澄さん……)
一気に不安が押し寄せる。でも、この状況を”私に連絡する暇もないほど動いてくれている”と解釈するしか、自分を納得させる方法はない。
スマートフォンをしまい、再び歩き出す。人の増えてきた展望デッキを抜け、そびえ立つホテルに向かって。
ロビーに着いたけれど、思ったより人は少ない。チェックアウトが終わり、チェックインが始まるまでの狭間の時間。今が一番閑散としているのだろう。キョロキョロと周りを見渡し、ジェイクの姿を探す。広いロビーには、ギリシャ神殿のような大きな柱が点在していて、すぐに見つけるのは難しそうだ。
(もっと奥かな……?)
そう思い一歩踏み出そうとした瞬間、後ろに気配を感じた。
「恵舞」
低い声に呼ばれ、勢いよく振り返る。そこに立っていたのは、能面のように冷たい表情を崩さないスーツ姿のジェイクだった。それは一分の隙もない佇まいだ。
「ジェイク……。リアムから、ここで待ってると聞いて」
緊張で声がうわずるのを自分でも感じる。でも、何に緊張しているのか、それを悟られるわけにはいかない。
「ええ。お送りするよう言付かっております。ただその前に、以前お伺いした内容で、再度確認したい点があります。お時間をいただけませんか?」
言葉はとても丁寧だ。でも、ジェイクの声には「NO」と言わせない圧力が込められている気がしてならない。
「……わかりました。場所はどこで?」
「ご用意しております。こちらへどうぞ」
先に歩き出したジェイクの後をついていく。その方向は外ではなく、ホテルの中だ。彼は当たり前のようにエレベーターホールで立ち止まり、軽く振り返って告げた。
「昨日からこちらに宿泊しております。資料はすべて部屋に揃えてありますので、そちらで話を伺いたいと思います」
ずっと変わらないビジネス口調。仕事に向き合う姿勢は本物で、それは誰が見ても明らかだ。だからこそ、私が彼をアテンドした立場として、この行動に疑いの目を向けるべきじゃない。
「大変ですね。休日までお仕事なんて」
「立ち止まってる暇などないですから」
一瞬だけ見えた彼の横顔は、どこか険しかった。ポンと軽快な音が鳴りエレベーターが到着する。彼の背中を追いながら、私はそこへ乗り込んだ。
画面には通知の表示はない。折り返しの電話もなければ、メッセージが読まれた形跡もなかった。
(依澄さん……)
一気に不安が押し寄せる。でも、この状況を”私に連絡する暇もないほど動いてくれている”と解釈するしか、自分を納得させる方法はない。
スマートフォンをしまい、再び歩き出す。人の増えてきた展望デッキを抜け、そびえ立つホテルに向かって。
ロビーに着いたけれど、思ったより人は少ない。チェックアウトが終わり、チェックインが始まるまでの狭間の時間。今が一番閑散としているのだろう。キョロキョロと周りを見渡し、ジェイクの姿を探す。広いロビーには、ギリシャ神殿のような大きな柱が点在していて、すぐに見つけるのは難しそうだ。
(もっと奥かな……?)
そう思い一歩踏み出そうとした瞬間、後ろに気配を感じた。
「恵舞」
低い声に呼ばれ、勢いよく振り返る。そこに立っていたのは、能面のように冷たい表情を崩さないスーツ姿のジェイクだった。それは一分の隙もない佇まいだ。
「ジェイク……。リアムから、ここで待ってると聞いて」
緊張で声がうわずるのを自分でも感じる。でも、何に緊張しているのか、それを悟られるわけにはいかない。
「ええ。お送りするよう言付かっております。ただその前に、以前お伺いした内容で、再度確認したい点があります。お時間をいただけませんか?」
言葉はとても丁寧だ。でも、ジェイクの声には「NO」と言わせない圧力が込められている気がしてならない。
「……わかりました。場所はどこで?」
「ご用意しております。こちらへどうぞ」
先に歩き出したジェイクの後をついていく。その方向は外ではなく、ホテルの中だ。彼は当たり前のようにエレベーターホールで立ち止まり、軽く振り返って告げた。
「昨日からこちらに宿泊しております。資料はすべて部屋に揃えてありますので、そちらで話を伺いたいと思います」
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「大変ですね。休日までお仕事なんて」
「立ち止まってる暇などないですから」
一瞬だけ見えた彼の横顔は、どこか険しかった。ポンと軽快な音が鳴りエレベーターが到着する。彼の背中を追いながら、私はそこへ乗り込んだ。
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