駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月

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番外編 〜巡る季節〜

秋.12

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 アンと握手を交わすと、依澄さんが先に口を開いた。

「いや、時間など忘れていた。会ってみたいと思っていた人がいて、驚いたよ」

 まだどこか夢見心地といった感じでそう言う依澄さんに、アンは小さく笑い声を漏らした。

「そう。ツカサを引き留めて置いて正解だったわね」

 まるで最初から分かっていたように柔かに笑うアンに、魔女たる所以を垣間見た気がした。

「二人とも、ゆっくりして行って。時間はあるんでしょう?」
「ああ。時間は大丈夫だ」
「じゃあ、何か飲み物でも入れてくるわね。お任せでいいかしら」

 それにOKと答え、ソファに掛ける。向かいでは、司さんとレイがまだ話しをしていた。

「で、俺に留守番させてまで渡したいものってなんだよ」
「まずこれ。ヨーコに渡して」

 レイは持っていた少し大きめの紙袋をそのまま渡すと、今度は振り返り、ガラスケースに置いてあった小さな紙袋を手にした。

「こっちは少し早いけど、イチカの2歳のバースデイに」
「毎年悪いな。瑤子もきっと喜ぶ」

 奥さまとお子さんのことだろうか。さっきまでの不機嫌そうだった司さんの表情が、柔らかなものに変わっていた。

「じゃ、用は済んだな。俺は帰る。飛行機に乗り遅れたら洒落になんねえし」

 すくっと立ち上がると、司さんは言う。

「一分一秒でも早くヨーコに会いたいもんね、ツカサは」
「うるせぇ。茶化すな」

 舌でも出しそうな勢いで思い切り顔を顰めて返す司さんに、レイは笑顔を返している。

「じゃ、俺はこれで」
「長門さん、お話しをお聞かせくださり、ありがとうございました」

 その場で立ち上がり、依澄さんがお礼を述べる。そして司さんは、フッと息を漏らし表情を緩めた。

「司でいい。イズミとエマ、だったな。また日本むこうで会うかもな。あいつらが引き合わせといて、これっきりってほうが有り得ねえし」

 魔女たちとの付き合いの長さが、この一言に凝縮されている。思わず依澄さんと顔を見合わせると、司さんは楽しそうに笑った。

「じゃあな。良い旅を」

 ヒラヒラと手を振りながら、司さんは扉へ向かう。

「ありがとうございます」

 私たちの声を背中に受けながら、司さんはあっさりと店を後にして行った。

「あら、ツカサはもう行っちゃったの? せっかく特製カモミールジンジャーティー淹れたのに」

 アンがトレイを手に出てくると、残念そうに言う。けれどそこには、また会えるのを確信しているような含みがあった。

(なんか……いいな)

 遠く離れていても、お互いを信頼している。そんな関係が、とても素敵だと思った。
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