36 / 183
10
3
しおりを挟む
俺は、昔から何となく結婚願望は強い方だった。
なんでだろうなぁ?って考えると、父と母の様な夫婦になりたかったから、なのかも知れない。
元々あまり体が丈夫ではなかった母は、俺が小学校に上がった頃には入退院を繰り返すようになっていた。
そんな母の代わりに家事をしていたのは父で、愚痴ひとつこぼさず、仕事から帰ると家の事をしてくれていた。
一番印象的だったのは、キッチンで母は椅子に座り、父は作り方を聞きながら料理をする姿。この時の2人はとても楽しそうで、子供心に邪魔出来ないなぁ何て思っていた。
その母は、俺が中学生になった姿を見ることなく亡くなり、父の落胆振りは凄まじいものだった。
その父を励ましたもの。それが写真だった。
家には、元気だった頃の母の写真や、一緒に行った場所の写真がたくさん置いてあった。
父がそれを、時々一人で愛おしいそうに、懐かしそうに、眺めている姿を見かける事があった。
そして、ふと思いついたように俺と弟を連れて撮影旅行に行くようになり、それが俺の写真を撮るきっかけになったのだった。
単純に、こんな慈しみ合う家族を作りたい。きっと、俺はそんな事を幼いながらに思い続けたのだろう。
けど、現実にそんな相手とは中々、と言うより全く出会えなかった。
高校生の頃、初めて彼女が出来た。
仲の良い友達だったその子のほうから告白されて付き合い初め、それらしく2人で遊びに行って、ちゃんと彼女として扱っていたつもり……だった。
けれど、「なんか、友達だった時と変わらない。私の事、好きなの?」って振られたのが最初。
それからは、だいたい同じ理由で振られ続けた。
ずっと何でだろう?って思っていたけど、今になれば分かる気がする。
今まで付き合ってきた、誰とも結婚したいって気持ちにならなかった。その子と、ずっと先の未来を思い描く事などなかった。
でも、今は違う。
「睦月さん、どれくらい食べますか?」
俺が作ったシチューを、さっちゃんは温め直してくれて、それをお皿によそおうとしていた。
「実は味見し過ぎてそこまでお腹空いてないんだよね。さっちゃんと同じくらいでいいよ?」
そう言って笑いかけると、さっちゃんも「そうなんですか?」と笑いながら答えてくれた。
「凄く美味しそうです」
何て目を輝かせて言ってくれるさっちゃんを、俺は目の前で、ずっとこの先も、見続けたいな……なんて思っていた。
「「いただきます」」
小さなダイニングテーブルに向かい合わせで2人、手を合わせてそう言う。
目の前には俺の作ったシチューと、買ってきたパン。ご飯とどっちがいいんだろう?と悩んだけど、無難にパンにして、昨日瑤子ちゃんに近所に美味しい店がないか聞いて、午前中おすすめの店に買いに行ってきたものだ。
「凄い……。これ、睦月さんが全部一人で作ったんですよね?」
「あ、うん。なんとかね?どうかな?」
今日のシチューの具は、本当にオーソドックスにした。鶏肉、ジャガイモ、にんじん、玉ねぎにブロッコリー。
さっちゃんに嫌いなものないか聞いたら、ないって返ってきたら、もうちょっと違う具も……って考えたけど、とりあえず最初からハードルあげてもと、普通にした。
「わ……美味しい。ジャガイモがホクホクでちょうどいいです」
さっちゃんはそう言って、本当に嬉しそうにしてくれていた。
「よかった。たくさんあるからね?ルーの箱見て作ったら大量に出来ちゃったし」
「ですね。このままじゃ3食ずっとシチューですよ?」
さっちゃんはシチューを口に運びながらクスクス笑っている。
あー……本当に可愛いなぁ……
俺は食べるのも忘れてその顔を眺めてしまう。
「睦月さん、本当に切り方も上手ですよね。うちの父に切らせたら、きっとジャガイモは半分になりそう」
さっちゃんはスプーンでジャガイモを持ち上げて笑う。
「さっちゃんのお父さんは料理しないの?」
「はい。結婚した時お母さんが全部やってたらそれが当たり前になっちゃったってお母さん、反省したそうです。でも、専業主婦と子供2人を養い続けてくれた父なので、それは感謝してます」
ご両親を思い出しているのか、さっちゃんは視線を外して微笑んでいる。
「いいご両親だね。会ってみたいな」
ついそんな本音が口から出る。
普通に考えて、両親に会ってみたいなんて、何も思っていない相手に言わないだろうし。
「えっ!」
さっちゃんは、さすがに驚いて俺をみている。
もしかして、気持ちに気づかれた?と顔に出さないように努めながらも内心焦る。
「あ、えーと、いい友達になれるかなぁ……?なんて?」
とっても苦しい言い訳を、渇いた笑いと共にすると、さっちゃんは不思議そうに、「友達……ですか?」と俺に返した。
「うん。6歳くらいの違いなら友達かな~?って」
本当の事だけど、言ってて虚しくなる事実。
だって、どう頑張っても、俺とさっちゃんの歳の差が埋まるわけないんだから。
なんでだろうなぁ?って考えると、父と母の様な夫婦になりたかったから、なのかも知れない。
元々あまり体が丈夫ではなかった母は、俺が小学校に上がった頃には入退院を繰り返すようになっていた。
そんな母の代わりに家事をしていたのは父で、愚痴ひとつこぼさず、仕事から帰ると家の事をしてくれていた。
一番印象的だったのは、キッチンで母は椅子に座り、父は作り方を聞きながら料理をする姿。この時の2人はとても楽しそうで、子供心に邪魔出来ないなぁ何て思っていた。
その母は、俺が中学生になった姿を見ることなく亡くなり、父の落胆振りは凄まじいものだった。
その父を励ましたもの。それが写真だった。
家には、元気だった頃の母の写真や、一緒に行った場所の写真がたくさん置いてあった。
父がそれを、時々一人で愛おしいそうに、懐かしそうに、眺めている姿を見かける事があった。
そして、ふと思いついたように俺と弟を連れて撮影旅行に行くようになり、それが俺の写真を撮るきっかけになったのだった。
単純に、こんな慈しみ合う家族を作りたい。きっと、俺はそんな事を幼いながらに思い続けたのだろう。
けど、現実にそんな相手とは中々、と言うより全く出会えなかった。
高校生の頃、初めて彼女が出来た。
仲の良い友達だったその子のほうから告白されて付き合い初め、それらしく2人で遊びに行って、ちゃんと彼女として扱っていたつもり……だった。
けれど、「なんか、友達だった時と変わらない。私の事、好きなの?」って振られたのが最初。
それからは、だいたい同じ理由で振られ続けた。
ずっと何でだろう?って思っていたけど、今になれば分かる気がする。
今まで付き合ってきた、誰とも結婚したいって気持ちにならなかった。その子と、ずっと先の未来を思い描く事などなかった。
でも、今は違う。
「睦月さん、どれくらい食べますか?」
俺が作ったシチューを、さっちゃんは温め直してくれて、それをお皿によそおうとしていた。
「実は味見し過ぎてそこまでお腹空いてないんだよね。さっちゃんと同じくらいでいいよ?」
そう言って笑いかけると、さっちゃんも「そうなんですか?」と笑いながら答えてくれた。
「凄く美味しそうです」
何て目を輝かせて言ってくれるさっちゃんを、俺は目の前で、ずっとこの先も、見続けたいな……なんて思っていた。
「「いただきます」」
小さなダイニングテーブルに向かい合わせで2人、手を合わせてそう言う。
目の前には俺の作ったシチューと、買ってきたパン。ご飯とどっちがいいんだろう?と悩んだけど、無難にパンにして、昨日瑤子ちゃんに近所に美味しい店がないか聞いて、午前中おすすめの店に買いに行ってきたものだ。
「凄い……。これ、睦月さんが全部一人で作ったんですよね?」
「あ、うん。なんとかね?どうかな?」
今日のシチューの具は、本当にオーソドックスにした。鶏肉、ジャガイモ、にんじん、玉ねぎにブロッコリー。
さっちゃんに嫌いなものないか聞いたら、ないって返ってきたら、もうちょっと違う具も……って考えたけど、とりあえず最初からハードルあげてもと、普通にした。
「わ……美味しい。ジャガイモがホクホクでちょうどいいです」
さっちゃんはそう言って、本当に嬉しそうにしてくれていた。
「よかった。たくさんあるからね?ルーの箱見て作ったら大量に出来ちゃったし」
「ですね。このままじゃ3食ずっとシチューですよ?」
さっちゃんはシチューを口に運びながらクスクス笑っている。
あー……本当に可愛いなぁ……
俺は食べるのも忘れてその顔を眺めてしまう。
「睦月さん、本当に切り方も上手ですよね。うちの父に切らせたら、きっとジャガイモは半分になりそう」
さっちゃんはスプーンでジャガイモを持ち上げて笑う。
「さっちゃんのお父さんは料理しないの?」
「はい。結婚した時お母さんが全部やってたらそれが当たり前になっちゃったってお母さん、反省したそうです。でも、専業主婦と子供2人を養い続けてくれた父なので、それは感謝してます」
ご両親を思い出しているのか、さっちゃんは視線を外して微笑んでいる。
「いいご両親だね。会ってみたいな」
ついそんな本音が口から出る。
普通に考えて、両親に会ってみたいなんて、何も思っていない相手に言わないだろうし。
「えっ!」
さっちゃんは、さすがに驚いて俺をみている。
もしかして、気持ちに気づかれた?と顔に出さないように努めながらも内心焦る。
「あ、えーと、いい友達になれるかなぁ……?なんて?」
とっても苦しい言い訳を、渇いた笑いと共にすると、さっちゃんは不思議そうに、「友達……ですか?」と俺に返した。
「うん。6歳くらいの違いなら友達かな~?って」
本当の事だけど、言ってて虚しくなる事実。
だって、どう頑張っても、俺とさっちゃんの歳の差が埋まるわけないんだから。
1
あなたにおすすめの小説
夜の声
神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。
読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。
小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。
柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。
そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】
その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。
片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。
でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。
なのに、この呼び出しは一体、なんですか……?
笹岡花重
24歳、食品卸会社営業部勤務。
真面目で頑張り屋さん。
嫌と言えない性格。
あとは平凡な女子。
×
片桐樹馬
29歳、食品卸会社勤務。
3課課長兼部長代理
高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。
もちろん、仕事できる。
ただし、俺様。
俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる