年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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不意に電話が架かってきたのは、多分昼の11時半くらいだった。テーブルに置きっぱなしのスマホを手に取って表示を確認すると、それはとっても意外な人物だった。

「もしもーし!何かあった?」

電話を取るなりそう言うと、電話の向こうからザワザワとした音と共に、『あ、えーと……今大丈夫ですか?』と恐る恐ると言った低い声が聞こえて来た。

「うん。大丈夫だよ?どうしたの?香緒と喧嘩でもした?」

俺がそう尋ねると『いえ……それは無いです』と武琉君はキッパリと答えた。確かに2人が喧嘩するなんて、想像は出来ないんだけど。


何かあったらいつでも連絡ちょうだいね~、と自分の連絡先を渡したのはほんの数日前。じゃあ俺のも、と武琉君とその場で連絡先を交換した。
それにしても、おそらく外、それもそれなりに人の多そうな場所からわざわざ電話してくる用事ってなんだろうか?

『あの……。ちょっと相談に乗って貰いたい事があって。今から会えないですか?』

他でもない武琉君のお願いだ。一瞬だけ悩んでから、俺はほぼ即答といった感じでそれに答えた。

「午後から用事あるからあんまり時間取れないけど、それでも良かったら」

電話の向こうから安堵したように小さく息を洩らす気配がすると『ありがとうございます』と武琉君は言った。
それから待ち合わせ場所を聞いて、着いたら連絡するからと電話を切った。
ただ、電話を切る前に武琉君は不思議な事を言いだした。

『香緒から伝言なんですけど……今から送る写真に合いそうな服装で来て欲しいって。よろしくお願いします』

しばらくすると写真が届いた。開けてみると、そこにはベージュのワンピースが写っている。

一体……何のゲーム?

そんな事を思いながらクローゼットに向かう。とりあえず時間もあんまり無いし急ごうか。そう多くはないワードローブの中から、指定された通りに写真のその服と並んでも浮かない服装を選んで俺は家を出た。

指定されたのは、若者で溢れる繁華街にあるカフェの前。近くのパーキングに何とか空きを見つけて車を停めるとそこに向かった。

「ごめん!お待たせ!」

人並みをかき分け武琉君のそばまで行ってそう声を掛けると、武琉君は眺めていたスマホの画面から顔を上げて俺を見た。

「いえ。こちらこそ突然すみません」

そう言うと、武琉君は礼儀正しくお辞儀をした。
その顔を見て俺は懐かしくなる。彼が小学生の頃、ちょっとしたお菓子をあげた時も同じようにお辞儀してたなと俺は微笑ましくなりながらそんな事を思い出していた。

とりあえず、待ち合わせたカフェに入ろうと言う事になり2人で入る。お昼時だけど運良くすんなりと席に着けて、コーヒーをオーダーしてからようやく俺は本題に入った。

「で、改まって相談事って何?」

そう尋ねると、何故か武琉君はバツの悪そうな顔をして俺を見た。

「その……すみません。実は……香緒に……」

そこまで言うと、武琉君は言い辛そうに視線を下に向けた。

「香緒に?」

何が言いたいのか全く検討もつかず、俺は一言だけ復唱するように尋ねると、武琉君は決心したように顔を上げた。

「睦月さんを、あと1時間足止めするように言われてるんです」
「…………どう言うこと?」

突拍子もない内容に、俺は目を丸くして武琉君の顔を眺めた。それから、もの凄く困ったような顔をしている武琉君に、俺は笑いながら話しかける。

「1時間は困るかなぁ。これから約束あるし」
「たぶん……その、俺も香緒も何も聞いてないんですけど……」

武琉君がそこまで口にしたタイミングで、コーヒーが運ばれてきて店員さんが柔かにテーブルに置くと去っていく。俺はそれを手にしながらまた武琉君の方を見て「うん、それで?」と続きを促す。

「睦月さんが約束してる相手を……今、香緒が連れ回してるので」

皿に置こうとしたカップが勢い余ってガシャンと音を立てる。

「どう言うこと⁈」

本日2回目の台詞を驚きと共に吐き出すと、あまりに煩かったのか隣のテーブルからジロリと睨まれてしまった。
取り繕った笑顔を見せて隣の人に謝るように会釈してからまた武琉君に視線を送ると、ようやくカップに口を付けている武琉君が目に入った。

「何も聞いてないって、その相手に、だよね?」

声のトーンを落として武琉君に尋ねると、カップを持ったまま少し安堵したような顔を見せた。

「そうなんですけど、香緒が、きっと睦月さんの為にあんな事言い出したんだろうなって言ってて」

未だに全く話が見えて来ず、俺が呆然としたままでいると、武琉君はカップを皿に置いてから真っ直ぐ俺を見て口を開いた。

「香緒、凄く張り切ってて。仕事で頼られた事はあるけど、プライベートで頼られたの初めてだって言ってました」
「それって……さっちゃんに、って事だよね?」

確認するように尋ねると、武琉君は黙って頷いて見せる。

ようやくだけど、何となく俺は察する。
さっちゃんが香緒に何かを頼み、そして2人は今一緒にいるんだろう。きっとこの近くで。
そして、武琉君は時間稼ぎに俺を呼び出した、そんなところなのかもと。
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