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「それにしても……これ、全部さっちゃんのだったんだね」
別れ際、香緒は持っていた大きめの紙袋を全部俺に渡してきた。
「私もびっくりしました。てっきり自分の服以外は香緒ちゃんのだと思ったし」
4つもある紙袋を全部右肩に掛けて、左手でさっちゃんと手を繋いで歩く。実のところ、さっちゃんが家から着て来たのは1つ分だけで、残りは全部香緒からさっちゃんへのプレゼントだった。
もちろんさっちゃんは「こんなに貰えないよ!」と言ったのだが、香緒はニコニコと「さっちゃんのイメチェン記念ね!家で睦月君に見せてあげなよ」と笑って返していた。
とりあえず、これを持って歩き回るのも……と、一旦車に戻ることにしたのだった。
駐車場に戻って荷物を後部座席に乗せると、ふと袋に控えめに表示されている『Aster』が目に入った。
「これって全部同じ店のなんだね。さっちゃんの知ってる店?」
ドアを閉めて尋ねると、さっちゃんは首を振って答える。
「香緒ちゃんの知り合いのお店で。……でも、小さい頃から知ってるコだって。もしかして、睦月さんも知ってるのかも。藤原紫音さん、なんですけど」
「えっ?紫音?」
俺は思わず聞き返す。
「はい。やっぱりご存知だったんですね」
「知ってるも何も……。って言うか日本に戻ってたんだ」
俺は独り言のように口に手を当て呟いた。最後に会ったのは一体いつだっただろうか。
「ごめんさっちゃん。その店連れてって貰えないかな?久しぶりに会いたいし」
「いいですよ?結構近くです」
店は本当にすぐ近くで、あっという間に着く。外側はガラス張りで、店の中の様子が見える。品のいい店内には、たまたまなのか客の姿はそうなかった。
足を止めて深呼吸していると、隣でさっちゃんが俺を見上げて尋ねた。
「緊張……してますか?」
「あ、うん……。会うの15年ぶりくらいでさ、覚えてくれてるかな?って」
「そんなに?」
さっちゃんは目を丸くしてそう言った。
紫音は、昔時々香緒の撮影現場に来ていた。彼女の母が香緒の着ていた服を作っていたから、母が現場を見に来る時一緒に。
その時の俺の仕事といえばまだまだ香緒の送迎がメインみたいなもので、必然的に紫音が来ると両方の相手をしていたのだった。
覚えられてなかったらちょっと寂しいなぁ、なんて思いながら扉を開けて中に入る。
「いらっしゃいませ!」
振り返ってそう言ったのは間違いなく紫音。母にそっくりだからすぐにわかった。
そして紫音は俺の顔を見るなり、こう言って俺の腕に飛び込んで来た。
「パパっ!!」
と。
店内中の視線を集めたのは間違いなく、俺は焦りながら腕にしがみつく紫音に呼びかける。
「ちょっと紫音!恥ずかしいんだけど!」
ようやく顔を上げると、「あはは。ごめんごめん!」と言いながら、子供のように屈託なく笑った。
「それにしても……。パパの彼女が咲月さんだったなんてねぇ」
3人で店の近くのカフェに移動して、目の前でしげしげと俺達を見ながら紫音はそんな事を言った。
「だからさ、パパはもうやめてよ。本当、何か悪いおじさんに見えるからさ」
肩を落としながら俺が言うと、「え~!だってパパはパパだし」と不満げな顔を見せた。
「あの……何でパパなんですか?」
隣でさっちゃんが小さく尋ねてくる。それに笑顔で返しながら俺は口を開いた。
「彼女のお父さんが凄く忙しい人で、約束してた遊園地に行けなくなってさ。代わりに連れてったんだけど、その時からパパって呼び始めたよね、紫音は」
「そうそう。まだ小学生になってなかったなぁ。高いところによじ登って大騒ぎして。で、代わりに連れてってくれたんだよね。懐かしいなぁ」
見た目はすっかり変わったが、時々見せる表情は子供の頃と変わらない。紫音と同じように、俺もとても懐かしくなった。
「にしても、あの時は若いパパで良いわねなんて言われたけど、今は職質されそうだから!普通に呼んでくれない?」
生クリームのたっぷり乗った甘そうな飲み物を手に、紫音は少し考える。
「じゃ、睦月」
あっけらかんとそう言うところが子供の頃と全く変わってない。まぁいいか。初めて会った時に呼ばれた呼び方じゃなかっただけ。
「さすがに最初に会った時みたいに、おじさんとか呼ばないよぉ!」
そう言って紫音は思いきり俺を笑い飛ばした。
「変わってないね……紫音……」
乾いた笑いを漏らしながら俺が言うと、「そう言う睦月も変わってないよ?」と不思議そうに小首を傾げた。
「本当。2人とも親子みたい」
俺達の様子を横で眺めていたさっちゃんが、急にそう言いながらクスクスと笑い出した。
「えっ?そう?」
さすがに親子程歳が離れてるわけでも無いし、紫音が大人になった分そんな風には見えないと思うんだけど……
「でしょう?睦月はきっといいパパになりますよ?」
紫音も笑顔でさっちゃんにそう返す。
「ですね」
そうさっちゃんが答えたところで紫音は立ち上がった。
「私、そろそろ店に戻るね。咲月さん!やっぱりその服とっても似合ってます。また店に遊びに来てくださいね!」
「是非、また寄らせてください」
それを聞いて紫音はニッコリ笑うと去っていった。
別れ際、香緒は持っていた大きめの紙袋を全部俺に渡してきた。
「私もびっくりしました。てっきり自分の服以外は香緒ちゃんのだと思ったし」
4つもある紙袋を全部右肩に掛けて、左手でさっちゃんと手を繋いで歩く。実のところ、さっちゃんが家から着て来たのは1つ分だけで、残りは全部香緒からさっちゃんへのプレゼントだった。
もちろんさっちゃんは「こんなに貰えないよ!」と言ったのだが、香緒はニコニコと「さっちゃんのイメチェン記念ね!家で睦月君に見せてあげなよ」と笑って返していた。
とりあえず、これを持って歩き回るのも……と、一旦車に戻ることにしたのだった。
駐車場に戻って荷物を後部座席に乗せると、ふと袋に控えめに表示されている『Aster』が目に入った。
「これって全部同じ店のなんだね。さっちゃんの知ってる店?」
ドアを閉めて尋ねると、さっちゃんは首を振って答える。
「香緒ちゃんの知り合いのお店で。……でも、小さい頃から知ってるコだって。もしかして、睦月さんも知ってるのかも。藤原紫音さん、なんですけど」
「えっ?紫音?」
俺は思わず聞き返す。
「はい。やっぱりご存知だったんですね」
「知ってるも何も……。って言うか日本に戻ってたんだ」
俺は独り言のように口に手を当て呟いた。最後に会ったのは一体いつだっただろうか。
「ごめんさっちゃん。その店連れてって貰えないかな?久しぶりに会いたいし」
「いいですよ?結構近くです」
店は本当にすぐ近くで、あっという間に着く。外側はガラス張りで、店の中の様子が見える。品のいい店内には、たまたまなのか客の姿はそうなかった。
足を止めて深呼吸していると、隣でさっちゃんが俺を見上げて尋ねた。
「緊張……してますか?」
「あ、うん……。会うの15年ぶりくらいでさ、覚えてくれてるかな?って」
「そんなに?」
さっちゃんは目を丸くしてそう言った。
紫音は、昔時々香緒の撮影現場に来ていた。彼女の母が香緒の着ていた服を作っていたから、母が現場を見に来る時一緒に。
その時の俺の仕事といえばまだまだ香緒の送迎がメインみたいなもので、必然的に紫音が来ると両方の相手をしていたのだった。
覚えられてなかったらちょっと寂しいなぁ、なんて思いながら扉を開けて中に入る。
「いらっしゃいませ!」
振り返ってそう言ったのは間違いなく紫音。母にそっくりだからすぐにわかった。
そして紫音は俺の顔を見るなり、こう言って俺の腕に飛び込んで来た。
「パパっ!!」
と。
店内中の視線を集めたのは間違いなく、俺は焦りながら腕にしがみつく紫音に呼びかける。
「ちょっと紫音!恥ずかしいんだけど!」
ようやく顔を上げると、「あはは。ごめんごめん!」と言いながら、子供のように屈託なく笑った。
「それにしても……。パパの彼女が咲月さんだったなんてねぇ」
3人で店の近くのカフェに移動して、目の前でしげしげと俺達を見ながら紫音はそんな事を言った。
「だからさ、パパはもうやめてよ。本当、何か悪いおじさんに見えるからさ」
肩を落としながら俺が言うと、「え~!だってパパはパパだし」と不満げな顔を見せた。
「あの……何でパパなんですか?」
隣でさっちゃんが小さく尋ねてくる。それに笑顔で返しながら俺は口を開いた。
「彼女のお父さんが凄く忙しい人で、約束してた遊園地に行けなくなってさ。代わりに連れてったんだけど、その時からパパって呼び始めたよね、紫音は」
「そうそう。まだ小学生になってなかったなぁ。高いところによじ登って大騒ぎして。で、代わりに連れてってくれたんだよね。懐かしいなぁ」
見た目はすっかり変わったが、時々見せる表情は子供の頃と変わらない。紫音と同じように、俺もとても懐かしくなった。
「にしても、あの時は若いパパで良いわねなんて言われたけど、今は職質されそうだから!普通に呼んでくれない?」
生クリームのたっぷり乗った甘そうな飲み物を手に、紫音は少し考える。
「じゃ、睦月」
あっけらかんとそう言うところが子供の頃と全く変わってない。まぁいいか。初めて会った時に呼ばれた呼び方じゃなかっただけ。
「さすがに最初に会った時みたいに、おじさんとか呼ばないよぉ!」
そう言って紫音は思いきり俺を笑い飛ばした。
「変わってないね……紫音……」
乾いた笑いを漏らしながら俺が言うと、「そう言う睦月も変わってないよ?」と不思議そうに小首を傾げた。
「本当。2人とも親子みたい」
俺達の様子を横で眺めていたさっちゃんが、急にそう言いながらクスクスと笑い出した。
「えっ?そう?」
さすがに親子程歳が離れてるわけでも無いし、紫音が大人になった分そんな風には見えないと思うんだけど……
「でしょう?睦月はきっといいパパになりますよ?」
紫音も笑顔でさっちゃんにそう返す。
「ですね」
そうさっちゃんが答えたところで紫音は立ち上がった。
「私、そろそろ店に戻るね。咲月さん!やっぱりその服とっても似合ってます。また店に遊びに来てくださいね!」
「是非、また寄らせてください」
それを聞いて紫音はニッコリ笑うと去っていった。
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