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その電話が鳴ったのは、1月2日の夜。
そろそろさっちゃんを家に帰さなきゃなぁ……と思っていた頃だった。
そう鳴ることのないスマホがソファの前にあるテーブルの上で震え出し、俺はさっちゃんに断ってそれに出た。
「何~?」
相手は表示を見なくても分かる。
正月早々電話してくる人なんて限られているし、それに向こうの時間を考えれば、用件も察しがついた。
『よぉ、お前暇か?』
「暇じゃないよ~?嫌だからね」
『は?まだ何も言ってねーし!』
電話の向こうで司が不機嫌そうに返す。その声だけで、顔を顰めた司が思い浮かぶようだ。
「どうせ、明日空港に迎えにきて~!でしょ?悪いけど俺、暇じゃないんだよね?」
ソファに座ったままそう返す俺を、さっちゃんはハラハラした様子で伺っている。
まぁ、今までだったら面白いから茶化しに迎えに行ってただろうけど、今はそんな事よりさっちゃんといる方が大事だし。
『仕事……なわけねーよな、こんな正月に。それ以外でお前から暇じゃないなんて言葉初めて聞いたんだけど?』
「ま、俺にも色々あるの!お土産話はまたゆっくり聞かせてよ」
『しゃーねーな、ったく!……そーいやレイから伝言』
迎えを諦めたのか投げやりに吐き捨ててから、思い出したように司は続けた。
「レイちゃん?何?」
『いや……Lucky starは掴まえたか?だってよ。どう言う意味だよ?』
それを聞いて俺が盛大に笑い出すと、目の前でさっちゃんが目を丸くしている。
レイちゃんは結果を知ってて尋ねてるんだから意地が悪い。早く連絡して来いってことかな?なんて思いながら、さっちゃんの頭をそっと撫でる。
「ふふ。レイちゃんには直接答えるよ。司には……またそのうちね」
前にレイちゃんから来たメール。それにstarの文字があった。きっとそれを指してるんだろうなと俺は思った。
メールを読んだあと調べたそのカードの意味。月は不安、星は希望、そんな意味らしい。
確かに俺にとってさっちゃんは、希望そのものなのかも知れないな、なんてその顔を見て思う。
『気をつけて帰って来て』とだけ言ってから電話を切ると、さっちゃんは心配そうに俺を見上げていた。
「あの、何か用事があるなら私のことは気にしないでください」
そんなさっちゃんを俺はギュッと抱きしめる。
「さっちゃん以上に大切な用事なんてないから。いいんだよ、いい歳した大人なんだから勝手に帰ってくるよ。それより……明日は何しよう?」
そう俺は腕に閉じ込めたさっちゃんに尋ねた。
◆◆
世間一般のサラリーマンより少し長めのお正月休み。
その間毎日さっちゃんに会った。付き合った相手とこんなに頻繁に会うなんて初めてで、少し不安もあった。ちょっと引かれないかなぁ、なんて。でもそれは杞憂に終わり、自分でも驚くくらい自然に過ごすことができた気がした。
時々外に出て話題のスポット、なんて言われるところにも行ってみたが、大体は俺の家で過ごすことが多かった。さっちゃんも、人が多いところより家でゆっくり過ごすほうが好きだと言ってくれて、一緒にご飯作ったり、映画を見たりしていた。
「さっちゃん、料理上手だよね」
一緒にご飯を作りながらそう言うと、さっちゃんは意外そうな顔でこちらを見た。
「そう……ですか?普通だと思ってるんですけど」
「そんなことないよ!今時料理できない子も結構いるって聞くし」
一般論、みたいに俺は言うが、本当は過去に付き合った相手がほぼ料理をしない人ばかりだった。そんな流れにならなかっただけかも知れないけど、そう言えば外食が当たり前だったな、なんて思い出した。
「小さい頃から、お母さんが将来困らないようにって教えてくれたんです。もちろん真琴も。お父さんが料理出来ないから困ることもあったみたいで。これからは男女関係なく料理くらいできなきゃって言ってました」
包丁を握ったまま、さっちゃんは俺を見てそう答える。そんな話を聞くだけで、いいお母さんだなぁ、って俺は感心してしまう。
「俺は必要に駆られてできるようになっただけだけど、こうやって一緒にご飯作れるからできてよかったなぁって思ってるよ?」
「私もよかったです。こうやって一緒にキッチンに並んでご飯作るのは楽しいです」
「俺も。凄く楽しい。さっちゃんは朔に俺の料理美味しいって言ってくれたけど、さっちゃんの作るものも凄く美味しいよ?」
俺がそう言うと、さっちゃんは少し恥ずかしそうな顔をして「……嬉しいです」と答えた。
今日で俺の休みは終わり。これからしばらく平日に会うのは難しそうだ。だから、いつもより時間をかけてご飯を作ろうと2人で相談し合ってメニューを考えた。スマホで検索したり、前にショッピングモールで買った料理本を見たりしながら考える時間でさえ楽しかった。
早く……毎日こうやって過ごせたらいいなぁ
まな板に視線を落として包丁を動かすその横顔を、そんな事を思いながら眺める。
その前に、やることはたくさんあるんだけど。まずは……レイちゃんにあれを頼まなきゃ
と、俺はニューヨークにいる友人の顔を思い出していた。
そろそろさっちゃんを家に帰さなきゃなぁ……と思っていた頃だった。
そう鳴ることのないスマホがソファの前にあるテーブルの上で震え出し、俺はさっちゃんに断ってそれに出た。
「何~?」
相手は表示を見なくても分かる。
正月早々電話してくる人なんて限られているし、それに向こうの時間を考えれば、用件も察しがついた。
『よぉ、お前暇か?』
「暇じゃないよ~?嫌だからね」
『は?まだ何も言ってねーし!』
電話の向こうで司が不機嫌そうに返す。その声だけで、顔を顰めた司が思い浮かぶようだ。
「どうせ、明日空港に迎えにきて~!でしょ?悪いけど俺、暇じゃないんだよね?」
ソファに座ったままそう返す俺を、さっちゃんはハラハラした様子で伺っている。
まぁ、今までだったら面白いから茶化しに迎えに行ってただろうけど、今はそんな事よりさっちゃんといる方が大事だし。
『仕事……なわけねーよな、こんな正月に。それ以外でお前から暇じゃないなんて言葉初めて聞いたんだけど?』
「ま、俺にも色々あるの!お土産話はまたゆっくり聞かせてよ」
『しゃーねーな、ったく!……そーいやレイから伝言』
迎えを諦めたのか投げやりに吐き捨ててから、思い出したように司は続けた。
「レイちゃん?何?」
『いや……Lucky starは掴まえたか?だってよ。どう言う意味だよ?』
それを聞いて俺が盛大に笑い出すと、目の前でさっちゃんが目を丸くしている。
レイちゃんは結果を知ってて尋ねてるんだから意地が悪い。早く連絡して来いってことかな?なんて思いながら、さっちゃんの頭をそっと撫でる。
「ふふ。レイちゃんには直接答えるよ。司には……またそのうちね」
前にレイちゃんから来たメール。それにstarの文字があった。きっとそれを指してるんだろうなと俺は思った。
メールを読んだあと調べたそのカードの意味。月は不安、星は希望、そんな意味らしい。
確かに俺にとってさっちゃんは、希望そのものなのかも知れないな、なんてその顔を見て思う。
『気をつけて帰って来て』とだけ言ってから電話を切ると、さっちゃんは心配そうに俺を見上げていた。
「あの、何か用事があるなら私のことは気にしないでください」
そんなさっちゃんを俺はギュッと抱きしめる。
「さっちゃん以上に大切な用事なんてないから。いいんだよ、いい歳した大人なんだから勝手に帰ってくるよ。それより……明日は何しよう?」
そう俺は腕に閉じ込めたさっちゃんに尋ねた。
◆◆
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その間毎日さっちゃんに会った。付き合った相手とこんなに頻繁に会うなんて初めてで、少し不安もあった。ちょっと引かれないかなぁ、なんて。でもそれは杞憂に終わり、自分でも驚くくらい自然に過ごすことができた気がした。
時々外に出て話題のスポット、なんて言われるところにも行ってみたが、大体は俺の家で過ごすことが多かった。さっちゃんも、人が多いところより家でゆっくり過ごすほうが好きだと言ってくれて、一緒にご飯作ったり、映画を見たりしていた。
「さっちゃん、料理上手だよね」
一緒にご飯を作りながらそう言うと、さっちゃんは意外そうな顔でこちらを見た。
「そう……ですか?普通だと思ってるんですけど」
「そんなことないよ!今時料理できない子も結構いるって聞くし」
一般論、みたいに俺は言うが、本当は過去に付き合った相手がほぼ料理をしない人ばかりだった。そんな流れにならなかっただけかも知れないけど、そう言えば外食が当たり前だったな、なんて思い出した。
「小さい頃から、お母さんが将来困らないようにって教えてくれたんです。もちろん真琴も。お父さんが料理出来ないから困ることもあったみたいで。これからは男女関係なく料理くらいできなきゃって言ってました」
包丁を握ったまま、さっちゃんは俺を見てそう答える。そんな話を聞くだけで、いいお母さんだなぁ、って俺は感心してしまう。
「俺は必要に駆られてできるようになっただけだけど、こうやって一緒にご飯作れるからできてよかったなぁって思ってるよ?」
「私もよかったです。こうやって一緒にキッチンに並んでご飯作るのは楽しいです」
「俺も。凄く楽しい。さっちゃんは朔に俺の料理美味しいって言ってくれたけど、さっちゃんの作るものも凄く美味しいよ?」
俺がそう言うと、さっちゃんは少し恥ずかしそうな顔をして「……嬉しいです」と答えた。
今日で俺の休みは終わり。これからしばらく平日に会うのは難しそうだ。だから、いつもより時間をかけてご飯を作ろうと2人で相談し合ってメニューを考えた。スマホで検索したり、前にショッピングモールで買った料理本を見たりしながら考える時間でさえ楽しかった。
早く……毎日こうやって過ごせたらいいなぁ
まな板に視線を落として包丁を動かすその横顔を、そんな事を思いながら眺める。
その前に、やることはたくさんあるんだけど。まずは……レイちゃんにあれを頼まなきゃ
と、俺はニューヨークにいる友人の顔を思い出していた。
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