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すっかりどこに何があるのか覚えたさっちゃんは、うちのキッチンでご飯の用意をしてくれている。
「俺も一緒にやるよ?」
そう言ってみたものの、さっちゃんは「睦月さんのほうが疲れてるでしょうから座って待ってて下さい」と笑顔で俺に返した。
確かに、意外と撮影は動き回る。けど、もう慣れっ子なんだけどな、と思いつつ、せっかくだからテーブルに座ってカウンターの向こうに見えるさっちゃんの後ろ姿を眺めた。
子リスのように動き回るさっちゃんの背中を見ていると、こう……ムラムラする。もちろん本人にはそんなこと言えやしないけど。
いい歳したおっさんだけど、さすがに俺も男で、キスだけじゃ物足りないと思ったことはいくらでもある。我ながら、よくもってるな、なんて自分を褒めたくなるくらい。
でも、焦りたくはない。もし、その行為がさっちゃんのトラウマになんてなってしまったら、俺は立ち直れないかも知れない。
俺がそんないかがわしいことを考えているなんて、想像もしてないんだろうなぁ、と食事をのせたトレーを持ってこちらに向かってくるさっちゃんの顔を見て思った。
「ほんと、最近の冷凍パスタって美味しいよね」
そう言いながら、俺はペスカトーレを口に運ぶ。
「ですね。結構お世話になってます」
さっちゃんがそう言いながら食べているのは、蟹入りのクリームパスタ。
手抜きといえば手抜きだけど、俺はそんなこと気にしない。さっちゃんもきっと同じで、そこはなんと言うか安心する。
お互い仕事もしているし、場合によっては遅くなることもある。だから、無理に手作りにこだわらなくてもいいんじゃないかな、と思っている。
けれど、あんまりガツガツ将来の話、みたいになるのは避けて、今日の仕事の話やスタッフから聞いたお土産話をしながら食事を済ませた。
そして、食後のアイスを食べようとソファに移動して、そこに並んで座る。
さっちゃんは、濃厚なチョコレートで、俺はもちろんストロベリー。
それを口に運びながら、ふと相談事を聞いてないのを思い出した。
「そう言えばさっちゃん。話したいことって……」
顔を覗き込むようにしてさっちゃんを見ると、さっちゃんは俺を見て小さく口を開いた。
「あの……明後日。私、午前中で仕事終わるんです。睦月さんは……午後からお仕事なんですよね?それで……その……」
そこまで言うと、さっちゃんは恥ずかしそうに視線を外す。
もしかして……。いや、俺の勘違いかも知れないけど
そう思いながら「ちょっと待ってて」とテレビ台の引き出しへ向かう。
そしてまた戻ると、そこから取り出したものをさっちゃんに差し出した。
「えっ?」
それを見て、さっちゃんは驚いたように俺を見上げた。
俺の手からぶら下がるのは、うちのスペアキー。まっさらなそれが、灯りを反射して時折輝いていた。
「あ、違ってた?」
笑いながらそう言ってまた横に座ると、さっちゃんの手を取り鍵を握らせる。
「明後日、迎えに行けないと思うから。ここで待ってて欲しいな?」
包み込んだままの手を眺めるように、さっちゃんは俯いている。
「何で……わかったんですか?」
自分の手をギュッと握りしめてさっちゃんは俺に尋ねる。俺はその手から離れ、背中を抱き寄せてさっちゃんを腕に収めた。
「ほとんど自分の願望だったけど、もしかしたら俺の帰りを待っててくれるのかな?って」
「……私、ご飯作って待っててもいいですか?」
シャツ越しにさっちゃんの温もりが伝わってきて、堪らない気持ちになりながら一層強く抱き寄せる。
「もちろん。凄く楽しみ」
「それで……食べたいもの、ないですか?」
少し顔を上げて、上目遣いに俺を見ながらさっちゃんはそう尋ねる。
前も同じこと聞かれたなぁ。その時は答えなかったけど
「俺の一番食べたいものは……さっちゃんかな?」
そう言って背中を丸めてさっちゃんの頰を齧るようにキスをする。
「え、む、睦月さん?」
頰に唇を触れられたまま、さっちゃんは腕の中で身動ぎする。
「ん?何?」
少しだけ唇を離してワザとらしく返事をすると、「冗談、ですよね?」と慌てふためくようにさっちゃんから声がした。
「冗談かぁ……。それは残念」
そう言いながら、今度は耳たぶに唇を移動させて、軽く喰む。
「っ、んっ」
小さくそう声を漏らすさっちゃんが可愛くて仕方ないけど、さすがにやりすぎか、と俺は体を起こした。
「さっちゃんが作ってくれるなら、ご飯と味噌汁だけでもご馳走だけど、あえて言うなら……魚かな。俺、海のない県出身だから、美味しい魚が食べられる地域が羨ましくって」
さっきまでの出来事なんてなかったようにそう答えると、さっちゃんは顔を真っ赤にしたまま、ちょっとむくれている。
「睦月さん、また私を揶揄ったんですか?」
「えー……だって。さっちゃんが可愛すぎて」
戯けたように答えると、さっちゃんは照れたままの顔を俺に向けて頰を膨らましている。
「それに……さっちゃんを食べたいって言うのは、半分本気だしね?」
そう言ってから、頰に手を添えて顔を近づける。
もうすでに何度もしているのに、やっぱり恥ずかしそうな表情を見せてから、さっちゃんはゆっくりと瞼を伏せた。
「俺も一緒にやるよ?」
そう言ってみたものの、さっちゃんは「睦月さんのほうが疲れてるでしょうから座って待ってて下さい」と笑顔で俺に返した。
確かに、意外と撮影は動き回る。けど、もう慣れっ子なんだけどな、と思いつつ、せっかくだからテーブルに座ってカウンターの向こうに見えるさっちゃんの後ろ姿を眺めた。
子リスのように動き回るさっちゃんの背中を見ていると、こう……ムラムラする。もちろん本人にはそんなこと言えやしないけど。
いい歳したおっさんだけど、さすがに俺も男で、キスだけじゃ物足りないと思ったことはいくらでもある。我ながら、よくもってるな、なんて自分を褒めたくなるくらい。
でも、焦りたくはない。もし、その行為がさっちゃんのトラウマになんてなってしまったら、俺は立ち直れないかも知れない。
俺がそんないかがわしいことを考えているなんて、想像もしてないんだろうなぁ、と食事をのせたトレーを持ってこちらに向かってくるさっちゃんの顔を見て思った。
「ほんと、最近の冷凍パスタって美味しいよね」
そう言いながら、俺はペスカトーレを口に運ぶ。
「ですね。結構お世話になってます」
さっちゃんがそう言いながら食べているのは、蟹入りのクリームパスタ。
手抜きといえば手抜きだけど、俺はそんなこと気にしない。さっちゃんもきっと同じで、そこはなんと言うか安心する。
お互い仕事もしているし、場合によっては遅くなることもある。だから、無理に手作りにこだわらなくてもいいんじゃないかな、と思っている。
けれど、あんまりガツガツ将来の話、みたいになるのは避けて、今日の仕事の話やスタッフから聞いたお土産話をしながら食事を済ませた。
そして、食後のアイスを食べようとソファに移動して、そこに並んで座る。
さっちゃんは、濃厚なチョコレートで、俺はもちろんストロベリー。
それを口に運びながら、ふと相談事を聞いてないのを思い出した。
「そう言えばさっちゃん。話したいことって……」
顔を覗き込むようにしてさっちゃんを見ると、さっちゃんは俺を見て小さく口を開いた。
「あの……明後日。私、午前中で仕事終わるんです。睦月さんは……午後からお仕事なんですよね?それで……その……」
そこまで言うと、さっちゃんは恥ずかしそうに視線を外す。
もしかして……。いや、俺の勘違いかも知れないけど
そう思いながら「ちょっと待ってて」とテレビ台の引き出しへ向かう。
そしてまた戻ると、そこから取り出したものをさっちゃんに差し出した。
「えっ?」
それを見て、さっちゃんは驚いたように俺を見上げた。
俺の手からぶら下がるのは、うちのスペアキー。まっさらなそれが、灯りを反射して時折輝いていた。
「あ、違ってた?」
笑いながらそう言ってまた横に座ると、さっちゃんの手を取り鍵を握らせる。
「明後日、迎えに行けないと思うから。ここで待ってて欲しいな?」
包み込んだままの手を眺めるように、さっちゃんは俯いている。
「何で……わかったんですか?」
自分の手をギュッと握りしめてさっちゃんは俺に尋ねる。俺はその手から離れ、背中を抱き寄せてさっちゃんを腕に収めた。
「ほとんど自分の願望だったけど、もしかしたら俺の帰りを待っててくれるのかな?って」
「……私、ご飯作って待っててもいいですか?」
シャツ越しにさっちゃんの温もりが伝わってきて、堪らない気持ちになりながら一層強く抱き寄せる。
「もちろん。凄く楽しみ」
「それで……食べたいもの、ないですか?」
少し顔を上げて、上目遣いに俺を見ながらさっちゃんはそう尋ねる。
前も同じこと聞かれたなぁ。その時は答えなかったけど
「俺の一番食べたいものは……さっちゃんかな?」
そう言って背中を丸めてさっちゃんの頰を齧るようにキスをする。
「え、む、睦月さん?」
頰に唇を触れられたまま、さっちゃんは腕の中で身動ぎする。
「ん?何?」
少しだけ唇を離してワザとらしく返事をすると、「冗談、ですよね?」と慌てふためくようにさっちゃんから声がした。
「冗談かぁ……。それは残念」
そう言いながら、今度は耳たぶに唇を移動させて、軽く喰む。
「っ、んっ」
小さくそう声を漏らすさっちゃんが可愛くて仕方ないけど、さすがにやりすぎか、と俺は体を起こした。
「さっちゃんが作ってくれるなら、ご飯と味噌汁だけでもご馳走だけど、あえて言うなら……魚かな。俺、海のない県出身だから、美味しい魚が食べられる地域が羨ましくって」
さっきまでの出来事なんてなかったようにそう答えると、さっちゃんは顔を真っ赤にしたまま、ちょっとむくれている。
「睦月さん、また私を揶揄ったんですか?」
「えー……だって。さっちゃんが可愛すぎて」
戯けたように答えると、さっちゃんは照れたままの顔を俺に向けて頰を膨らましている。
「それに……さっちゃんを食べたいって言うのは、半分本気だしね?」
そう言ってから、頰に手を添えて顔を近づける。
もうすでに何度もしているのに、やっぱり恥ずかしそうな表情を見せてから、さっちゃんはゆっくりと瞼を伏せた。
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