年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

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ジューンブライドと言われる季節だけど、日本では梅雨真っ只中。それも平日で、今は貸し切り状態だ。待ち合わせはチャペルや宴会場のある階にしてあって、もうそろそろ時間だ……と思っていたら、その時間通りに2人は現れた。

「おーい!司!瑤子ちゃん!」

エレベーターから降りてきた2人に呼びかけると、瑤子ちゃんが小さく手を振って返してくれた。
瑤子ちゃんは今6ヶ月目に入り、すっかりお腹も出てきて、どこから見ても妊婦さんって感じだ。

「岡田さん、咲月ちゃん。今日は私達のためにありがとうございます」

瑤子ちゃんがまずそう言うと、司もそれに続いた。

「悪いな、綿貫。今日は頼む」
「そんな!私、凄く楽しみにしてたんです。こちらこそよろしくお願いします」

とさっちゃんは恐縮しつつ返した。

「って、俺には?」
「お前は二つ返事だっただろうが」

眉を顰めながら言う司に、俺は「まぁそうだけどね?」と笑いながら返し、ふと気になったことを口にした。

「司さ、俺たちが結婚してもずっと綿貫って呼ぶわけ?」

結婚したら、さっちゃんのことを岡田と呼ぶつもりなんだろうかと、素朴な疑問が浮かんだのだ。

少し考えてから司は「じゃあ……。さ……」と言いかけて、俺はストップをかける。

「ちょっと!人の婚約者を気安く呼ばないでくれるかなぁ?」
「はあ?俺は基本、苗字か名前を呼び捨てでしか呼ばねーよ。知らねぇの?」

不機嫌そうに返す司に、「知ってます!」と投げやりに返す。

「あ、あのっ!名前変わっても綿貫で大丈夫ですから!」

さっちゃんが困ったように司を見上げてそう言う。その横で、瑤子ちゃんは真逆な顔でクスクス笑っていた。

「大丈夫よ、咲月ちゃん。心配しなくても喧嘩してるわけじゃないから。小学生男子の言い合いだとでも思ってればいいから」

そう言われて、さっちゃんは赤面しながら「そっ、そうなんですか?」と瑤子ちゃんに向かって言っている。

「ま。小学生じゃなくて、いい歳したおっさん2人だけどね」

バツの悪そうな顔をしている司を放って置いて、俺はさっちゃんに笑いながら答えた。

「さ、こんなところで無駄話してる場合じゃないや。さっちゃんは瑤子ちゃんをよろしく。司はこっちね~。式の前に花嫁さんの姿見ちゃダメでしょ~」

そう言って司の背中を押しながら、美容室と反対方向に歩き出す。

「だから、お前が話振ったんだろうが!」

機嫌悪そうに返す司を気にすることなく、俺はその背中をグイグイ押しながら笑っていた。

「おい睦月」

背中を押すのを止めて横に並ぶと、唐突に司はそう言う。

「何?」
「瑤子はもう行ったか?」

振り返って確認すると、場所的にすぐ曲がって行っただろう2人の姿はなかった。

「行ったみたいだけど?」
「よし。なら車に戻るぞ」

そう言って司は踵を返した。

「何?忘れ物?」

先に歩き出した司を追いかけるように続くと、司から「いーや?」と返ってくる。その声色はなんとなく浮かれてるように聞こえる。

「見つからねーうちに荷物動かしときたいからな」

エレベーターの下を押す司の横顔を見て、俺はなんとなく察した。

「なに悪巧み考えてるのさ」

笑いながら言うと、司は顔を顰めてこちらを向く。

「悪巧みじゃねぇよ」
「だって、ものすごく悪そうな顔してるよ?今」

茶化しながら到着したエレベーターに乗り込むと、司は「うるせーな」と小さく言った。

駐車場に着き司の車まで来ると、司はトランクを開ける。

「大変だねぇ。サプライズも」

小さめのスーツケースを取り出した司に俺は笑いながら言うと、勢いよくドアを閉めて、「瑤子には言うなよ」司に念を押される。

「言うわけないでしょ。司の一世一代のサプライズ。そんなことをする司に立ち会えるなんて、俺、感動で涙出そう」

冗談めかしながら言うと、「お前はもう黙ってろ」と溜め息を吐かれてしまった。
それから「これを持て」と、カメラの入っているだろうバッグを差し出されて、俺はそれを受け取った。

「司も瑤子ちゃん撮るんだ」

またエレベーターに戻りながら尋ねると、「当たり前だろうが。言っとくが、お前にはそれ見せねぇからな」なんて返された。
もう、独占欲の塊すぎて笑いが出る。本当に瑤子ちゃんが絡むと別人になるんだから。

大荷物を持ったまま一度フロントに向かい、司はカードキーを受け取ると、またエレベーターに向かった。そして降り立ったのは、エグゼクティブスイートのあるフロア。

「今日はここ泊まるんだ。瑤子ちゃん喜ぶだろうね」

入った部屋はさすがに広く、大きな窓からの見晴らしも抜群だった。

「だといいんだがな」
「大丈夫だって!瑤子ちゃんなら喜んでくれるよ。それより、ちょうどいいからこれに着替えてきてよ」

珍しく弱気な司を励ましつつ、俺はずっと持っていた司用の衣装を渡す。

「あぁ」

それを受け取ると、司は奥の部屋に向かう。

こっちもこれから一世一代のサプライズ仕掛けるけどね。本当、楽しみ。

そんなことを思いながら俺はその姿を見送った。
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