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☆番外編3☆
honey moon 2
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私達は結婚式の2週間後、新婚旅行に行く計画を立てていた。期間は1週間。場所は、今回のオファーと同じニューヨークと、他にも足を伸ばそうとホテルやチケットの手配は済ませていた。それも全部睦月さんが。
それを今から全てキャンセルするのは、なんか睦月さんに申し訳ない気持ちになってしまう。
「これってさ、この期間のうち何日かに撮影が入るってことでいいんだよね?」
睦月さんはもう一度紙に視線を落としそう言う。
「あぁ。ずっと張り付きっぱなしじゃない。みかの父親の本業もあるから合間見て、だと。まだ詳細は決まってない」
長門さんはアイスティーのストローを弄びながらそう答える。
「自由時間はそれなりにありそうだね。じゃ、司。早く詳細聞いといてよ。もう一回計画立て直すし」
「計画立て直すって、新婚旅行のか?」
笑顔で言う睦月さんと正反対に、長門さんは訝しげな様子だ。
「もちろん。俺も一緒に行くからさ。いいでしょ?」
睦月さんはそう言ってニッコリと長門さんに笑いかける。そんな睦月さんを見て、長門さんは思い切り顔を顰めていた。
「だろうと思った。向こうの滞在1週間延びるがいいのかよ?」
「うーん。そこは調整必要だけど、なんとかなるでしょ。ってことで、さっちゃん。俺も着いてっていいかな?」
睦月さんは笑顔のまま私に尋ねる。
「うん!一緒に行きたい!みかさんに睦月さんを紹介したいし」
計画が台無しになったのに、それに愚痴など言うこともなく、また計画を立て直してくれるって言ってくれるだけで、睦月さんの懐の大きさを思い知る。
「よかった。ありがとう、さっちゃん」
ありがとうと言いたいのは私のほうだ。人生で大事なイベントの新婚旅行より、チャレンジしてみたい仕事を優先する私の背中を優しく押してくれるのだから。
睦月さんは穏やかな瞳をしばらく私に向けてから、前に向き直った。
「にしても、司。よくこの仕事受けたねぇ。司の誕生日も被ってるし、瑤子ちゃんの出産予定日直前なのに」
しみじみとそう言うと、長門さんはバツの悪そうな表情で視線を反らし「まぁ……」と呟いた。
それを見て睦月さんは盛大に笑い出した。
「わかってるって!どうせ、瑤子ちゃんに言われたんでしょ?行って来いって。目に浮かぶよ!司が渋々返事したところ」
そう言われて、長門さんは睦月さんを睨みつけるように見ると「うるせぇ。黙ってろ」と言いながら、なんだかちょっと照れ臭そうな顔をしていた。
──そして
「じゃあ、瑤子さん。行ってきます」
出発当日。私達は長門さんのおうちの玄関先で瑤子さんに挨拶していた。
出産予定日はもうすぐ。はち切れそうなほど大きくなったお腹に手を当てて、瑤子さんは微笑んでいる。
「いってらっしゃい。楽しんできてね?」
「ありがとう、瑤子ちゃん。かんちゃんのこともよろしくね」
これから2週間家を空けることになるから、かんちゃんはいつものサロンで預かってもらうことになった。で、瑤子さんは時々様子を見に行くと言ってくれたのだ。
「ううん?私も気晴らしになってちょうどいいかも。病院からは動きなさいって言われてるし」
瑤子さんはそう言って笑った。
「じゃあ、そろそろタクシー来る時間だし、先に外で待ってるって司に言っといて」
睦月さんがそう瑤子さんに言い、私達は玄関を出た。長門さんは最後の荷物の確認があるからと、まだ出てきていなかった。
にしても……まさか新婚旅行が3人旅、いや、正確にはニューヨークに一緒に向かうのは合わせて5人になるなんて思いもしなかった。
睦月さんがニューヨークで暮らし始めた7年ほど前。その時向こうで初めてできた友人。その2人を、睦月さんは結婚式に呼びたがっていたのだけど、残念ながらその時は『店の都合で行けない』だった。でも、『新婚旅行はニューヨークだし、その時会えるか』なんて言っていたのに、なんと式当日、長門さんがサプライズだと2人を呼び寄せていたのだった。
その2人、レイさんとアンさんは、式のあとも今日まで日本に滞在し、長門さんのご実家に宿泊しながら、日本を楽しんでくれた。私達の行きに合わせ2人は帰るのだ。
「タクシー着いたみたい。にしても司……遅い。一回くっついたらなかなか離れないって磁石かな?ちょっと呼んでくる」
半分呆れたように笑いながらそう言うと、睦月さんはまた玄関に向かう。
「司!時間!名残惜しいのは分かるけど、こっちもタクシー待たせてるんだからね!」
勢いよくそう言いながら睦月さんは玄関を開け入って行く。そして一旦閉まった扉はまたすぐに勢いよく開いた。
「ほらほら急いで!下でタクシーも待ってるし、空港でレイちゃんもアンちゃんも待ってるんだから!」
睦月さんに腕を引かれ、なかば引き摺られるように長門さんは出てくる。
その顔は、なんか叱られたあとのかんちゃんみたいな、しょんぼりした様子だ。
ちょっと可愛いかも……
長門さんの意外な一面を見て、そう思ってしまったけど、本人には絶対言えないな、なんて私は思った。
それを今から全てキャンセルするのは、なんか睦月さんに申し訳ない気持ちになってしまう。
「これってさ、この期間のうち何日かに撮影が入るってことでいいんだよね?」
睦月さんはもう一度紙に視線を落としそう言う。
「あぁ。ずっと張り付きっぱなしじゃない。みかの父親の本業もあるから合間見て、だと。まだ詳細は決まってない」
長門さんはアイスティーのストローを弄びながらそう答える。
「自由時間はそれなりにありそうだね。じゃ、司。早く詳細聞いといてよ。もう一回計画立て直すし」
「計画立て直すって、新婚旅行のか?」
笑顔で言う睦月さんと正反対に、長門さんは訝しげな様子だ。
「もちろん。俺も一緒に行くからさ。いいでしょ?」
睦月さんはそう言ってニッコリと長門さんに笑いかける。そんな睦月さんを見て、長門さんは思い切り顔を顰めていた。
「だろうと思った。向こうの滞在1週間延びるがいいのかよ?」
「うーん。そこは調整必要だけど、なんとかなるでしょ。ってことで、さっちゃん。俺も着いてっていいかな?」
睦月さんは笑顔のまま私に尋ねる。
「うん!一緒に行きたい!みかさんに睦月さんを紹介したいし」
計画が台無しになったのに、それに愚痴など言うこともなく、また計画を立て直してくれるって言ってくれるだけで、睦月さんの懐の大きさを思い知る。
「よかった。ありがとう、さっちゃん」
ありがとうと言いたいのは私のほうだ。人生で大事なイベントの新婚旅行より、チャレンジしてみたい仕事を優先する私の背中を優しく押してくれるのだから。
睦月さんは穏やかな瞳をしばらく私に向けてから、前に向き直った。
「にしても、司。よくこの仕事受けたねぇ。司の誕生日も被ってるし、瑤子ちゃんの出産予定日直前なのに」
しみじみとそう言うと、長門さんはバツの悪そうな表情で視線を反らし「まぁ……」と呟いた。
それを見て睦月さんは盛大に笑い出した。
「わかってるって!どうせ、瑤子ちゃんに言われたんでしょ?行って来いって。目に浮かぶよ!司が渋々返事したところ」
そう言われて、長門さんは睦月さんを睨みつけるように見ると「うるせぇ。黙ってろ」と言いながら、なんだかちょっと照れ臭そうな顔をしていた。
──そして
「じゃあ、瑤子さん。行ってきます」
出発当日。私達は長門さんのおうちの玄関先で瑤子さんに挨拶していた。
出産予定日はもうすぐ。はち切れそうなほど大きくなったお腹に手を当てて、瑤子さんは微笑んでいる。
「いってらっしゃい。楽しんできてね?」
「ありがとう、瑤子ちゃん。かんちゃんのこともよろしくね」
これから2週間家を空けることになるから、かんちゃんはいつものサロンで預かってもらうことになった。で、瑤子さんは時々様子を見に行くと言ってくれたのだ。
「ううん?私も気晴らしになってちょうどいいかも。病院からは動きなさいって言われてるし」
瑤子さんはそう言って笑った。
「じゃあ、そろそろタクシー来る時間だし、先に外で待ってるって司に言っといて」
睦月さんがそう瑤子さんに言い、私達は玄関を出た。長門さんは最後の荷物の確認があるからと、まだ出てきていなかった。
にしても……まさか新婚旅行が3人旅、いや、正確にはニューヨークに一緒に向かうのは合わせて5人になるなんて思いもしなかった。
睦月さんがニューヨークで暮らし始めた7年ほど前。その時向こうで初めてできた友人。その2人を、睦月さんは結婚式に呼びたがっていたのだけど、残念ながらその時は『店の都合で行けない』だった。でも、『新婚旅行はニューヨークだし、その時会えるか』なんて言っていたのに、なんと式当日、長門さんがサプライズだと2人を呼び寄せていたのだった。
その2人、レイさんとアンさんは、式のあとも今日まで日本に滞在し、長門さんのご実家に宿泊しながら、日本を楽しんでくれた。私達の行きに合わせ2人は帰るのだ。
「タクシー着いたみたい。にしても司……遅い。一回くっついたらなかなか離れないって磁石かな?ちょっと呼んでくる」
半分呆れたように笑いながらそう言うと、睦月さんはまた玄関に向かう。
「司!時間!名残惜しいのは分かるけど、こっちもタクシー待たせてるんだからね!」
勢いよくそう言いながら睦月さんは玄関を開け入って行く。そして一旦閉まった扉はまたすぐに勢いよく開いた。
「ほらほら急いで!下でタクシーも待ってるし、空港でレイちゃんもアンちゃんも待ってるんだから!」
睦月さんに腕を引かれ、なかば引き摺られるように長門さんは出てくる。
その顔は、なんか叱られたあとのかんちゃんみたいな、しょんぼりした様子だ。
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長門さんの意外な一面を見て、そう思ってしまったけど、本人には絶対言えないな、なんて私は思った。
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