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ひとしきり司の面白エピソード、と言っても本人は全く面白くないだろう話をすると、さっちゃんはずっと笑って話を聞いてくれた。
「どう?ちょっとは大丈夫な気してきた?」
すっかり綺麗になった皿を隅に置きながらそう尋ねると、さっちゃんはさっきよりは安心したように「少し……親近感湧きました」と表情を緩めながら答えた。
「確かにさ、司の拘りにはついていけない人もいる。でも、そんな司を間近で見てた俺は、さっちゃんならきっとやり遂げるって信じてる」
そう真っ直ぐにさっちゃんを見て俺は言う。
希海だってきっとそうだ。
司に頼まれたからと言って、あっさりさっちゃんを貸すなんて事しない筈だ。
それは、彼の、いや彼らの大切なパートナーが、きっとその仕事をやり遂げると信じているからだと思う。
「私に……出来ますか?」
まだ不安そうに揺らぐ瞳でさっちゃんは俺を見る。それに見つめ返して、俺は口を開いた。
「大丈夫。きっと出来るよ」
そう笑いかけると、さっちゃんはようやくふわっと可愛らしい笑みを浮かべて言う。
「睦月さんがそう言ってくれるなら、大丈夫な気がしてきました」
時折見せる、本当のさっちゃんの顔。
ずっと、こうやって、俺にだけその顔を見せてくれたらいいのに……
俺はそんな事を心に秘めたまま、その顔に笑い返した。
それからしばらく参考になりそうな司の拘りポイントの話をしたり、全く関係のない、さっちゃんのお父さんは誰に似ているかなんて話をして、俺達は店を後にした。
「本当によかったの?何も食べなくて」
車を走らせながら俺は尋ねる。
「すみません。家に残り物がそれなりにあって……」
助手席で、さっちゃんは申し訳なさそうにそう口にする。
「ううん?ところでさ、聞いてなかったけど、司の仕事っていつなの?」
「あ、えっと、来週の木曜日の夕方で……」
前を向いたままそう答えるさっちゃんに、思わずよそ見をしてしまいそうになりながら「夕方?」と尋ねた。
「はい。相手のご都合で。極秘なので、誰かは言えないんですけど……」
「夕方なんて依頼、よく司が受けたなぁ……」
司がそんな時間に仕事を入れるなんて今までなかったし、極秘の相手って言うのは気になるけど、俺にも言わないと言うのは余程の事なんだろう。
「じゃあその日、仕事前って空いてる?」
「その日ですか?元々一日中空いてる日だったんですけど……」
さっちゃんがそう言って俺の方を向いたのが目の端に映る。
「じゃあさ、仕事前……うちにご飯食べに来ない?」
俺の方を向いたまま、「え?」とさっちゃんは口にした。
ちょうど向こうに見える信号は赤。前の車のテールランプに倣いブレーキをゆっくり踏んでいく。
「ほら、前に俺、シチュー食べたいって言ったでしょ?来週冷え込みそうだし、作ってみようかなって?」
さっちゃんの顔を覗き込むようにして俺は笑いかける。
「夕食にはちょっと早いかも知れないけど、仕事終わるの遅くなるかも知れないし……。駄目……かな?」
凄くズルい聞き方、だと思う。
こんな聞き方したら、きっと断らないって、そう思うから。
さっちゃんの瞳に、点滅する歩行者用信号機の青色が映ってキラキラと光っている。それを黙って俺は見つめた。
「あ……の、ご迷惑じゃなければ……」
前の車が動き出し、また前を向いてハンドルを握る。
「迷惑なんかじゃないよ?楽しみにしてる。ねぇ、さっちゃんはどんなシチューが好き?」
そう言って、弾むような声で俺は尋ねる。
「そうですね……。大きめのジャガイモが入ってて、チキンもいいけど、実家では厚切りのベーコン入れたりしてました」
「へー。美味しそうだね。それもいいなぁ」
なんて平静を装いながら、本当は物凄く嬉しかった。
一緒にご飯を食べて、話をして。それだけでこんなに嬉しいと思うなんて、今まであっただろうか。まるで、初恋みたいだ。
いい歳して、何を思ってるんだか……
そんな自虐的な気分になりながら、俺はさっちゃんの家の前に車を停めた。
「今日はありがとうございました。色々と話が聞けて良かったです」
「どういたしまして。また聞きたい事思い出したらいつでも連絡して?」
車を降りてそんな事を言って、さっちゃんに荷物を渡す。今日もやっぱりとても重い。
「はい。これから依頼者の方を調べようと思うので、もしかしたらまた教えて貰いたい事も出てくるかも知れないです」
「うん。遠慮なく。さっちゃんの役に立てるなら光栄だ」
俺の言葉に少し顔を赤らめながら、「じゃあ、失礼します」と小さな体を折り曲げてさっちゃんはお辞儀をする。
俺はゆっくり持ち上がるその頭に、そっと手を乗せ少し撫でると手を離す。
顔を上げて、さっちゃんはとても驚いたように俺を見ていた。
より朱色に染まった頰が、その愛らしい顔に彩を添えている。
「おやすみ」
「……おやすみなさい……」
そそくさと俺の前から去って行くその姿を見ながら思う。
ごめんね。少しだけでも触れる事、許して。本当はもっと触れたくて、近寄りたいんだけど。
「どう?ちょっとは大丈夫な気してきた?」
すっかり綺麗になった皿を隅に置きながらそう尋ねると、さっちゃんはさっきよりは安心したように「少し……親近感湧きました」と表情を緩めながら答えた。
「確かにさ、司の拘りにはついていけない人もいる。でも、そんな司を間近で見てた俺は、さっちゃんならきっとやり遂げるって信じてる」
そう真っ直ぐにさっちゃんを見て俺は言う。
希海だってきっとそうだ。
司に頼まれたからと言って、あっさりさっちゃんを貸すなんて事しない筈だ。
それは、彼の、いや彼らの大切なパートナーが、きっとその仕事をやり遂げると信じているからだと思う。
「私に……出来ますか?」
まだ不安そうに揺らぐ瞳でさっちゃんは俺を見る。それに見つめ返して、俺は口を開いた。
「大丈夫。きっと出来るよ」
そう笑いかけると、さっちゃんはようやくふわっと可愛らしい笑みを浮かべて言う。
「睦月さんがそう言ってくれるなら、大丈夫な気がしてきました」
時折見せる、本当のさっちゃんの顔。
ずっと、こうやって、俺にだけその顔を見せてくれたらいいのに……
俺はそんな事を心に秘めたまま、その顔に笑い返した。
それからしばらく参考になりそうな司の拘りポイントの話をしたり、全く関係のない、さっちゃんのお父さんは誰に似ているかなんて話をして、俺達は店を後にした。
「本当によかったの?何も食べなくて」
車を走らせながら俺は尋ねる。
「すみません。家に残り物がそれなりにあって……」
助手席で、さっちゃんは申し訳なさそうにそう口にする。
「ううん?ところでさ、聞いてなかったけど、司の仕事っていつなの?」
「あ、えっと、来週の木曜日の夕方で……」
前を向いたままそう答えるさっちゃんに、思わずよそ見をしてしまいそうになりながら「夕方?」と尋ねた。
「はい。相手のご都合で。極秘なので、誰かは言えないんですけど……」
「夕方なんて依頼、よく司が受けたなぁ……」
司がそんな時間に仕事を入れるなんて今までなかったし、極秘の相手って言うのは気になるけど、俺にも言わないと言うのは余程の事なんだろう。
「じゃあその日、仕事前って空いてる?」
「その日ですか?元々一日中空いてる日だったんですけど……」
さっちゃんがそう言って俺の方を向いたのが目の端に映る。
「じゃあさ、仕事前……うちにご飯食べに来ない?」
俺の方を向いたまま、「え?」とさっちゃんは口にした。
ちょうど向こうに見える信号は赤。前の車のテールランプに倣いブレーキをゆっくり踏んでいく。
「ほら、前に俺、シチュー食べたいって言ったでしょ?来週冷え込みそうだし、作ってみようかなって?」
さっちゃんの顔を覗き込むようにして俺は笑いかける。
「夕食にはちょっと早いかも知れないけど、仕事終わるの遅くなるかも知れないし……。駄目……かな?」
凄くズルい聞き方、だと思う。
こんな聞き方したら、きっと断らないって、そう思うから。
さっちゃんの瞳に、点滅する歩行者用信号機の青色が映ってキラキラと光っている。それを黙って俺は見つめた。
「あ……の、ご迷惑じゃなければ……」
前の車が動き出し、また前を向いてハンドルを握る。
「迷惑なんかじゃないよ?楽しみにしてる。ねぇ、さっちゃんはどんなシチューが好き?」
そう言って、弾むような声で俺は尋ねる。
「そうですね……。大きめのジャガイモが入ってて、チキンもいいけど、実家では厚切りのベーコン入れたりしてました」
「へー。美味しそうだね。それもいいなぁ」
なんて平静を装いながら、本当は物凄く嬉しかった。
一緒にご飯を食べて、話をして。それだけでこんなに嬉しいと思うなんて、今まであっただろうか。まるで、初恋みたいだ。
いい歳して、何を思ってるんだか……
そんな自虐的な気分になりながら、俺はさっちゃんの家の前に車を停めた。
「今日はありがとうございました。色々と話が聞けて良かったです」
「どういたしまして。また聞きたい事思い出したらいつでも連絡して?」
車を降りてそんな事を言って、さっちゃんに荷物を渡す。今日もやっぱりとても重い。
「はい。これから依頼者の方を調べようと思うので、もしかしたらまた教えて貰いたい事も出てくるかも知れないです」
「うん。遠慮なく。さっちゃんの役に立てるなら光栄だ」
俺の言葉に少し顔を赤らめながら、「じゃあ、失礼します」と小さな体を折り曲げてさっちゃんはお辞儀をする。
俺はゆっくり持ち上がるその頭に、そっと手を乗せ少し撫でると手を離す。
顔を上げて、さっちゃんはとても驚いたように俺を見ていた。
より朱色に染まった頰が、その愛らしい顔に彩を添えている。
「おやすみ」
「……おやすみなさい……」
そそくさと俺の前から去って行くその姿を見ながら思う。
ごめんね。少しだけでも触れる事、許して。本当はもっと触れたくて、近寄りたいんだけど。
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