17 / 17
エピローグ 優しい雨
しおりを挟む
維頼side
そうして俺たちは無事に現実世界へと戻ることができた。戻った後、俺はすぐに警察へと通報した。駆けつけた警察官は彼女の姿と怪我をした俺に驚いていたが、事情を説明するとすぐに保護してくれた。
彼女の失踪には謎ばかりが残っており、不思議な事件として扱われた。周りでは神隠しや怪事件だと囁く声が数々沸き起こった。
俺は傷の手当てをすると、後日すぐに事情聴取をされた。あの日あの場所へ行った理由や、彼女をどこで見つけたのか。もちろん、本当のことなど言えなかった。偶々訪れたあの山の神社で倒れている彼女を見つけたと説明した。肩の怪我も山で負ったことにしたが、特段怪しまれることはなかった。
数日して、紅羽さんは無事目が覚めたようだが、この期間に、何があったのかは覚えていないらしい。あの日、夏祭りに向かったところまでの記憶しかないようだった。その後、俺が彼女を見つけたことが本人にも伝わったようで、一度直接会って話をした。
「維頼くん、私……何があったのかちゃんと覚えていないんだけど、助けてくれて本当にありがとう」
「ううん、紅羽さんが無事で良かったよ」
彼女は、本当に何も覚えていないようだった。あの世界で起こったこと、その全ての記憶を失くしていた。でも、それが彼女にとって幸せなことなのだ。あの時、心を通わせたことを、彼女は覚えていなくとも……。
「ねえ、維頼くん」
「何?」
「私、何か忘れている気がするの。すごく大切なこと……維頼くんなら何か知ってるかなって思ったんだけど」
「……」
その疑問には答えられなかった。全てを話せば、彼女を傷つけることになる。だから、俺は彼女を守るための嘘をついた。
「俺は本当に偶々あの場所にいただけだから、何も知らないんだ……ごめん」
「そっか……」
彼女は納得していないようだったが、それ以上追及してくることはなかった。
***
それから月日は流れ、俺は大学を卒業した。就職先も無事に決まり、変わらずこの町での生活を続けている。彼女とは3年前のあの日以来、一度も会ってはいない。
今日はある場所へ向かう予定があった。あの出来事以来、毎年訪れている場所である。そこは卒業した高校の近くで、人は滅多に立ち寄らない、寂れた場所。
「……」
今年も俺はここに来た。かつて"彼"が祀られていた小さな社に。
彼は紅姫を、紅羽さんを苦しめた張本人だ。だから彼の境遇に同情したわけでも、哀れんだわけでもない。ただ、俺だけは知っているべき場所だと、そう思ったのだ。
「……雨」
しばらく社の前に立っていると、いつの間にか雨が降り出した。今日の天気は晴れのはずだったから、一時的な通り雨だろうか。
傘を持参していなかったため、そろそろ帰ろうと社に背を向けると、ふと、遠くから傘を差した人が歩いてくるのが見えた。その人はこの社へ一直線に向かってくる。この社の前で人に会ったことは一度もなかったから、珍しいことだ。
社に背を向けて、一直線の道を歩き出す。俺とその人の距離はどんどん近くなっていく。顔はよく見えないが、服装からして女性のようだ。
雨も降っていたことで、早足で歩みを進めていく。その女性とすれ違う間際だった。ふと、女性が俺の存在に気付いて顔を上げる。その顔は、俺のよく知る人物だった。
「……!」
……それは、彼女だった。紛れもなく、紅羽さんだった。彼女がここにいる。この場所にいる。それは偶然ではない。ということは、
ここにいる彼女は……
「……おかえり、紅羽さん」
俺がそう言葉をかけると、彼女は優しく微笑んでこう言った。
「ただいま、維頼くん」
俺たち二人を包み込むように、優しい小雨が降り注いでいた。
そうして俺たちは無事に現実世界へと戻ることができた。戻った後、俺はすぐに警察へと通報した。駆けつけた警察官は彼女の姿と怪我をした俺に驚いていたが、事情を説明するとすぐに保護してくれた。
彼女の失踪には謎ばかりが残っており、不思議な事件として扱われた。周りでは神隠しや怪事件だと囁く声が数々沸き起こった。
俺は傷の手当てをすると、後日すぐに事情聴取をされた。あの日あの場所へ行った理由や、彼女をどこで見つけたのか。もちろん、本当のことなど言えなかった。偶々訪れたあの山の神社で倒れている彼女を見つけたと説明した。肩の怪我も山で負ったことにしたが、特段怪しまれることはなかった。
数日して、紅羽さんは無事目が覚めたようだが、この期間に、何があったのかは覚えていないらしい。あの日、夏祭りに向かったところまでの記憶しかないようだった。その後、俺が彼女を見つけたことが本人にも伝わったようで、一度直接会って話をした。
「維頼くん、私……何があったのかちゃんと覚えていないんだけど、助けてくれて本当にありがとう」
「ううん、紅羽さんが無事で良かったよ」
彼女は、本当に何も覚えていないようだった。あの世界で起こったこと、その全ての記憶を失くしていた。でも、それが彼女にとって幸せなことなのだ。あの時、心を通わせたことを、彼女は覚えていなくとも……。
「ねえ、維頼くん」
「何?」
「私、何か忘れている気がするの。すごく大切なこと……維頼くんなら何か知ってるかなって思ったんだけど」
「……」
その疑問には答えられなかった。全てを話せば、彼女を傷つけることになる。だから、俺は彼女を守るための嘘をついた。
「俺は本当に偶々あの場所にいただけだから、何も知らないんだ……ごめん」
「そっか……」
彼女は納得していないようだったが、それ以上追及してくることはなかった。
***
それから月日は流れ、俺は大学を卒業した。就職先も無事に決まり、変わらずこの町での生活を続けている。彼女とは3年前のあの日以来、一度も会ってはいない。
今日はある場所へ向かう予定があった。あの出来事以来、毎年訪れている場所である。そこは卒業した高校の近くで、人は滅多に立ち寄らない、寂れた場所。
「……」
今年も俺はここに来た。かつて"彼"が祀られていた小さな社に。
彼は紅姫を、紅羽さんを苦しめた張本人だ。だから彼の境遇に同情したわけでも、哀れんだわけでもない。ただ、俺だけは知っているべき場所だと、そう思ったのだ。
「……雨」
しばらく社の前に立っていると、いつの間にか雨が降り出した。今日の天気は晴れのはずだったから、一時的な通り雨だろうか。
傘を持参していなかったため、そろそろ帰ろうと社に背を向けると、ふと、遠くから傘を差した人が歩いてくるのが見えた。その人はこの社へ一直線に向かってくる。この社の前で人に会ったことは一度もなかったから、珍しいことだ。
社に背を向けて、一直線の道を歩き出す。俺とその人の距離はどんどん近くなっていく。顔はよく見えないが、服装からして女性のようだ。
雨も降っていたことで、早足で歩みを進めていく。その女性とすれ違う間際だった。ふと、女性が俺の存在に気付いて顔を上げる。その顔は、俺のよく知る人物だった。
「……!」
……それは、彼女だった。紛れもなく、紅羽さんだった。彼女がここにいる。この場所にいる。それは偶然ではない。ということは、
ここにいる彼女は……
「……おかえり、紅羽さん」
俺がそう言葉をかけると、彼女は優しく微笑んでこう言った。
「ただいま、維頼くん」
俺たち二人を包み込むように、優しい小雨が降り注いでいた。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
読んでると独特の世界観に引き込まれて、とても、面白い作品だと思います。この先の更新楽しみです。
ホワホワさん、感想ありがとうございます😊これからも見ていただけたら嬉しいです!