勇者様より私ががんばってます

空沙樹

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メインストーリー

16.カルロの過去

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~カルロ視点~

 私は昔、とある疑問をもったことがあった。
 それは本を読んだある日のことだ。

「お父さん、なんで魔物は全員やられちゃうの?」

 私の父は魔界でも名の知れた思想家だった。
 そのため、人間界の蔵書がたくさんあった。

「それはな人間は魔物が嫌いだからだ」

 父は楽しそうにそう答えた。
 いつも、人間と魔族はいつか分かり合えると私に力説していた父からすれば、人間界の本に興味を持ったのは嬉しかったのだろう。

「どうして?」

「少しは自分で考えてみろ。明日に答え合わせだ」

 父は笑顔を崩さず去って行った。
 私は魔界の文献などを徹夜で調べた。
 そのお陰で魔界と人間界の関係や情勢を理解した。

 次の日の朝、父は食卓で私に切り出した。

「さあ、答えは出たか?」

 私は本に書いてあった通りに今の内乱を収めるために新しい敵、絶対悪を作ったことなどを父に説明した。
 父はいつも見せる笑顔で言った。

「それは正解であって正解ではない」

 その時の私には、その言葉を理解することでさえ難しかった。
 答えを見出すなんて以ての外だ。

 しばらく私が考えていると、父は私の頭を撫でながら自分の理論を語った。

「私の持論はコミュニケーション不足だ。魔物と人間は圧倒的に会話が足りていない。話せば分かり合えるはずなんだ」

 こんな希望論を唱えるのは、魔界が広くとも父と魔王様くらいだったと思う。

 私の一族は、魔獣創成という魔界でも珍しい能力を持っていた。
 私の能力、つまり合成獣創りもその一つということだ。
 その能力のお陰で父は魔王様の幹部の一人として働けていた。
 たまに魔王様はお忍びで私の家に来て、朝まで人間と理解し合う方法を朝まで考えていた。

 そんな平和な日々はある日、突然破綻を迎えた。
 魔王様が殺されたのだ。
 その被害はもちろん同じ思想をもった父にも及んだ。

 父は全てに絶望したようなため息をしてもなお、私にいつもの笑顔で言った。

「醜いのは人間じゃない、争う全ての者たちだ。聡明な私の娘ならわかるだろう?」

 これが最後に聞いた父の言葉であり、叫びだった。
 父は私たちを逃がすために数千の魔族を敵にした。

 無論父は死んだだろう。
 母も、しばらくした後に私を残して自分は身を投げた。

「どうせなら私も連れてってくれればよかったのに」

 私は小さく呟いた。
 その後は時が止まったように、私は目的を失った。

 その穴を埋める理由として、父の理想を使ったのは今でも愚かなことだと思っている。
 でも、そうでもしなければ停滞した私の時間は動かなかっただろう。
 それからは力を手に入れるために家から持ち出した禁書を読み、一番得意な空間魔法の最終奥義を習得した。

 合成獣もいろいろなパータンを試して、神話上の魔物や自分で考えた合成獣を使役できるまでになった。

 少し経ったある日。
魔界では魔王も死に、新体制を作る為に急遽幹部の募集を募った。
 その期を見逃すほど私は愚かではなかった。
 十分な力もあり、当然といえば当然だが私は幹部に、ついでに魔王になった。
 しばらくは魔界の内乱を収めて、人間との戦いも極力減らした。

 それでも父の思想の実現には程遠く、手をこまねいていたその時にナノ様が現れた。
 初めは好都合だと思った。
 しかし、彼女と話していくうちにナノ様の願い、父の理想を私も叶えたいと本気で思えてきた。

「カルロ~今日も一杯やるぞ!」

「はい!ナノ様」

 今度酒を呑む相手が人間であったら、なんで期待をしながら私は今日を過ごしていく。
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