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七夕編2話
しおりを挟むカフェでお茶をして、ブラブラと村を歩いて皆と話をしているとすぐに日は暮れた。
「そろそろお時間ですね」
外を眺めていたルイがぽつりと呟いた。
「ありがとう、ルイ。ミア様、広場に参りましょうか」
「うん」
ずっと歩いていたためミアの負担が大きいと思い、店に入ってゆっくりしていた。
店の店主もいくらでもいてくれと言っていたが、流石にそろそろお暇しよう。
「店を貸してくれてありがとな」
「いいや。ヒューズの坊ちゃんとミア嬢ちゃんのためならいくらでも貸すさ」
この店の店主は、俺たちのことを昔から知り、いつも見守ってくれた優しい人だ。
優しいとは分かっているのだが、
「そろそろ坊ちゃんは止めてくれ」
「わしからすれば、坊ちゃんは坊ちゃんじゃ。わしは死ぬまで坊ちゃんを貫くぞ」
ミアの頭を優しく撫でながら、店主の爺さんは豪快に笑った。
ミアも大きく口を開けてケラケラと笑っている。
ミアが楽しそうならばいいか。
「皆、星祭りか?」
「ああ」
「そうか。楽しんでな」
「爺さんもな」
慈愛が籠った目で優しく見つめられる。
この爺さんはいつもそうだ。
元は高貴な身分だと分かるリズにも、何処の馬の骨とも分からない輩にも、この爺さんは孫に向けるような愛情を与えようとする。
だから、この村の若者はこの爺さんのことが好きなのだ。
「長生きしろよ」
「まだまだくたばる訳にはいかんからの。特に、ヒューズの坊ちゃんとミアの嬢ちゃん、リズの嬢ちゃんとルイ坊の結婚式を見るまではな」
「絶対呼ぶからな」
「俺達もですか」
ルイとリズが巻き込まれたが、決意が強ければ強い方がいい。
その方が死ねないと、死にそうな時に気力が出るからな。
「まあ、また来る」
「ばいばい、お爺ちゃん!」
「失礼致します」
「また参ります」
ミアだけが無邪気に手を振り、皆で店を出る。
ちらほらと広場の方に歩いている村人が見えるから、本当にそろそろ時間なのだろう。
「行くか」
「うん」
ミアと手を繋ぎ、道を歩く。
俺たちに気づいた人が、声をかけてきて、ミアはその声全てに元気よく応じている。
これでこそミアだろう。
広場に着くと、木で枠を作り、紙でできたランタンを渡される。
「中の蝋燭に火をつけて、短冊を括りつけて空に飛ばしてね」
「分かったよ、村長のお姉さん」
「偉い偉い」
村長はミアの頭を撫でて、ふふっと笑った。
「はい、ササに吊るしていたミアちゃんの短冊よ。こっちは皆のね」
村長から短冊を受け取り、それぞれに渡す。
ランタンに括り付け、ミアの蝋燭にも火をつけた。
「手を離せば浮かぶからな」
「うん」
ミアはランタンを持った手をできる限り上にあげて、手を離した。
ランタンはゆっくりと上に上昇していく。
「お願い、叶うといいな」
「そうだな」
上に上にゆるりと上昇していく数多のランタンを見つめながらミアの言葉を肯定した。
「リズさんは何をお願いしたの?」
「このまま幸せに、楽しくこの村で過ごすことです」
「リズさんらしいお願いだね」
ミアは皆の願いが気になるのか、こっそりと尋ねていた。
「ルイさんは?」
「リズ様を守れるように。そして、リズ様がこのまま幸せに暮らせることですね」
「ルイさんはリズさんのことが大切なんだね」
「はい。勿論、ミア様もヒューズ様も大切です」
「そうなのね」
「本当はお願いすることではないんですけどね」
ルイはリズを守る力が欲しいのか。
自身の努力が大切だということは誰よりも分かっている奴だから、気休め程度の願いなのだろう。
「ミア様のお願い、お聞きしても宜しいですか?」
「うん!えっとね、皆が幸せに暮らすことだよ。ヒュウもリズもルイもお爺ちゃんも皆、幸せに暮らすこと」
「いい願い事ですね」
ミアは変わらずミアだった。
誰よりも多くの人の幸せを願うミアの性質は昔から変わらない。
「ヒュウのお願いは?」
ミアがこちらに微笑みかけてくる。
可愛らしいと思いながら、俺は俺の願いを告げた。
「ミアとリズ、ルイが笑って、幸せに、楽しく、この村で暮らすことだ」
どうか笑ってくれ。
ミアはこの村の闇に気づかないまま。
リズとルイはこの村の、俺の手が届く範囲で。
辛かった過去を笑い飛ばせるくらい、幸せに暮らしてくれればいい。
それだけが俺の望み。
「叶うといいな」
「うん」
空に浮かぶランタンが灯す色は何よりも優しい色をしていた。
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