はないちもんめ

高尾 閑

文字の大きさ
4 / 13
1‐1:御浪荘

しおりを挟む
 

「で、高田さんの住居はここだ」

 そう言って課長が指したのは、寮の後ろに位置する建物。共同スペースのある建物とは違い、寮との行き来ができないようになっている。
 造りは寮と同じで1LDKだが、お風呂とキッチンが広い。

「3年前までは管理人もこの御浪荘に住んでいたんだけどね、前任者が来たときに別にすることになったんだよ。それまでは管理人はみな男だったから問題はなかったんだけどね、さすがに女性を男だらけの所に一緒に住まわせるわけにはいかないだろう?」
「はい、そうですね」

 眉を下げて笑う課長に、羽奈も小さく笑い返す。
 そう。羽奈がこれから住み込みで働く職場は、男子寮なのだ。

「まさか彼女が突然辞めてしまうとは思わなかったが、3年前に建てたばかりだから、綺麗だと思うよ。それにセキュリティも最新のを用いているから万全だし。安心して暮らしてほしい」

 そう言って課長はにっこり笑うと、残りの説明事項を順番に分かりやすく説明した。そうして一通り説明が済むと、

「よし。じゃあそろそろ御浪荘に行こうかね」
「はい。よろしくお願いいたします」

 羽奈はペコリと頭を下げて、資料を鞄にしまうと、課長の後を追いかけた。

 課長の運転する車に乗って約40分。
 たどり着いた御浪荘は、資料を見て思ったよりも大きく綺麗な建物だった。

「すごい……。綺麗ですね」
「ははっ。そうだろう。なんせ2ヶ月前に塗り替えたばかりだからね」
「そう、なんですね……」

 やけに綺麗だと思えば、外壁を塗り替えたばかりらしい。たしか、羽奈の見間違えじゃなければ6年前に改築をして、去年リホームをしている。
 そして2ヶ月前に外壁の塗り替え。
 そんなに頻繁に行われるようなことなのだろうか、とぽかんとする羽奈に、課長は大きな口を開けて笑った。

「いやー、実はね、ここに住む社員はなんというかヤンチャでね。あ、悪い奴等じゃないんだよ? 若いけど我が社のエリートだし。ただなんというか……少々わんぱくでね、うん。高田さんに渡した資料には書いてなかったけど、お陰で結構修繕とか塗り替えとかしているんだよ」
「…………」
「ああ、大丈夫だよ。人に暴力を振るったり、非道なことをするような奴等じゃないから。それに彼らの行動を改めさせろ、だなんて無茶も言わないし。高田さんはこの寮の管理をしてくれればそれでいいから。ね?」
「はい」

 安心させるような笑みでそう言う課長に、羽奈は頷きながらも内心首を傾げた。

 エリートでヤンチャでわんぱく……。いったいどんな人たちなんだろう。

 まったく想像がつかなかったが、課長の表情は穏やかなままだったので、きっと危険な人たちではないのだろうと納得した。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...