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山賊王女
1 誰が望んだ力
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トウヒの木の葉が青々と繁る春先の針葉樹林はまだまだ肌寒く、山肌を二百メートルも登れば、季節をまたいだ白く硬い雪を手に取ることもできる。濡れた革が擦れ合うようなツグミの声や雪解けの瀬音に混じり、大地を乱雑にかき乱した余塵が森を舞っていた。
林道を進む箱馬車と荷馬車、それらを護衛するように随伴する兵士らしき男たち、その隊列が平穏な森に砂煙を立てている。鎖帷子を着ていかにも兵士然とした者や軽装に長剣だけ携えた者、身の丈ほどもある曲刀を担いだ巨躯の男など、性別のほかは成員たちに外見上の統一性はない。唯一あるとすれば、荒事については得手に帆を上げて臨みそうな、その面構えだけだった。
先頭の男が手を上げ、歩みを止めた。後続もそれに倣い、馬は震えるように鼻を鳴らす。隊列全体に不穏な空気が立ち籠め、多くの者が得物に手をかけた。
猛悪な集団の前進を大胆に止めたのは、たった一人の女だった。革のコートに身を包み、薄く赤みがかったゆるい内巻きの長髪は気品を感じさせるが、それに包まれた顔は不敵な笑みの下に危うい殺意がのぞく。腰に下げた二本の柄には、刀身が独特の曲線を描く山刀、大振りのククリナイフが収まっている。鞘が虚仮威しでなければ、その刃はナイフと呼ぶにはあまりにも長大で分厚い。
「何者か! 我らはリードホルム王国の交易使節団であるぞ」
女は下を向いたまま小さく笑った。
「それを聞こうと思ってたんだよ。話が早くて助かるぜ!」
「例の山賊だ! 排除しろ!」
集団全体が怒号に湧くよりも早く女山賊は前方に跳躍して身を躍らせ、またたく間に二人の男を斬り捨てる。息つく間もなく右の男の体を踏み台にして飛び上がり、身を翻した勢いにまかせもう一人の首をククリナイフで切り裂いた。戦慄で怒号が止む。緑の針を束ねたようなトウヒの葉にしぶきが飛び、粘りのある血の重さが細枝をわずかにしだれさせる。女盗賊は得物の峰で肩を叩きながら、事も無げな表情で言った。
「分かってっと思うけど、荷物置いてきゃ助けてやらねえこともねえぞ? 穏便に済むなら、すべて世は事もなし、だ」
一瞬で三人の兵士を屠った女山賊が、不敵な顔で笑う。彼女の実力を目の当たりにし、なお剣を交えようとする者は、すぐには名乗りを上げなかった。
「おのれ……オーリーン、貴様用心棒であろう!」
「しょうがねえなあ……」
箱馬車に座っていた身なりの豪奢な口ひげの男が金切り声を上げると、右手に曲刀、左手に重厚な篭手を装備した大男が前に進み出る。周囲の男たちが子供に見えるほどの体躯を持ったその男は、リードホルム王国でも名の知れた賞金稼ぎだ。町々を移動する商隊などの護衛役を務めて十年以上生き残り、同業者の誰もが一目置く存在だった。
「へえ……? 知ってるぞてめえ、“両断のオーリーン”だろ?」
「おっ、さすがだねえ俺様。山賊風情にも名前が知れ渡ってるとは。そうだな、降参して俺の女になるってんなら、見逃してやってもいいぞ」
斜に構えたような笑みを浮かべていた女山賊の目つきが急変し、すぐさま二本のナイフが振り下ろされた。オーリーンは巨躯に似合わぬ機敏さで曲刀を構え、その刃を受け止める。巨大な筋肉が隆起し、力任せに曲刀を押し放つと、弾かれた女山賊は宙返りをして距離をとった。
「そういう冗談は好きじゃないんでな」
「こっちも凶暴な女は願い下げだ。いつモノを切り落とされるか分かったもんじゃねえ」
「不安に怯える夜が嫌なら、今すぐに切り落としてやるよ!」
「どうやら両断されたいらしいな!」
長大な曲刀を垂直に構えたオーリーンは、距離を詰めて縦一文字に振り下ろした。その風切り音と風圧が、後ろに控えていた兵たちにも伝わったほどの斬撃だ。この一撃を受け止めようとして、構えた得物ごと頭から股まで文字通り両断された悪漢は数知れず、しかし女山賊はすんでの所で身を躱していた。ナイフで反撃に転じるには間合いが開きすぎており、オーリーンには再び剣を構える余裕があった。
「危ねえ危ねえ。当たったら白樺の薪だぜ」
「身の軽い奴だ。いつまで逃げ回れるかな」
オーリーンは攻め手を変え、今度はいくぶん小刻みに、曲刀を横薙ぎに振るった。女山賊は懐に入り込めず、刃先を避けながら徐々に後退してゆくだけだった。立木の間に追い込まれたかに見えた女山賊は木の幹を蹴って宙返りし、さらに別の幹を蹴って位置を入れ替える。
「……そのうち木に剣めり込ませて墓穴掘るんじゃねえかと思ってたが、てめえ意外とやるな」
「そのへんのウスノロと“両断のオーリーン”を一緒にすんじゃねえ」
攻め続けている割に、オーリーンはさほど息が上がっている様子もなく、表情は余裕に満ちている。
「そういうわけだ。観念してそろそろ斬られちまえ、女」
「そうだな、そろそろ終わりにするか」
オーリーンは再び剣を垂直に構えると、女盗賊めがけて餓えたヒグマのように突進し、初太刀よりもいっそう力を込めて曲刀を振り下ろす。鋼がぶつかり合う音が豁然と響き、固唾を飲んで見守る観衆たちは耳鳴りを感じた気がした。曲刀の刃先は地面に接することなく、鍔元付近で女山賊がナイフを交差して受け止めていた。
予想外の事態にオーリーンが戦慄し、曲刀を引くよりも早く、女山賊が彼の股ぐらに爪先蹴りを叩き込んだ。内臓がせり上がるような激痛に耐えかね、オーリーンは目玉が飛び出しそうな顔で曲刀を取り落とし、膝をついた。
「てめえ……まさか……」
「お? 知ってるのか?」
戸惑いと恥辱が入り混じった表情で女山賊を見上げるオーリーンは、ある噂話を思い出していた。外見からは想像もつかない、常識を超えた力を持つ、リーパーと呼ばれる能力者について――見たものは少ないが、たしかにリードホルムには存在するという。時の神ツーダンのちからを持つとも言われるリーパーは、その名を畏怖とともに知られていた。その力が発現するとき、周囲には耳鳴りのような音が満ちるという。
「リーパーかよ……じゃあ降参だ降参。悪かったよ」
「なんだ、ずいぶん物わかりがいいじゃねえか」
「物わかりの良さで、この稼業で今日まで生きてきたんでなあ。潰されたタマについては水に流すからよ……痛え」
「……ま、こっちは取るもん取れりゃ構わねえけどさ」
「ここはひとつ見逃してくれねえか、これでも妻も子もいるんだよ俺は。……リーパーに勝てるわけがねえからな」
「どうも調子が狂うな」
女山賊は拍子抜けしたように言い、オーリーンは曲刀を支えにして内股で立ち上がった。
彼は確信していた。欲を出して不意打ちなど仕掛けても、リーパーには通用しないのだ。常人には絶対に不可能な距離と時間で曲刀の鍔元まで踏み込んで、女の細腕と二本のナイフ程度では頭から切断されて然るべき斬撃を、たやすく受け止められたのだ。――自分の剣など、老人の歩みのように見えていることだろう。
「きさまオーリーン、用心棒なら死ぬまで戦え! 金を払っているんだぞ!」
馬車の中で二人の戦いを傍観していた口ひげの男が、戦闘を勝手にやめたオーリーンに耳障りな金切り声で命令する。
「うるせえバカ野郎! リーパー相手だってのに、はした金で命を捨ててられるか。戦いてえなら隊長のてめえがやれ!」
「いい子だ。他の連中もお家に帰る時間だぜ」
「潮時だてめえら。とっととズラかるぞ」
オーリーンが子飼いの一団らしき部隊に声をかけると、めいめい荷馬車を放棄して踵を返し始めた。
「まだやるってんなら、その辺に生えてるトウヒやアカマツがてめえらの墓標になるぞ!」
女山賊がそう一喝すると、他の隊員たちも散り散りに逃げ出していった。荷物と口ひげの男を身を挺して守ろう、などという心意気の持ち主はいないようだ。
「貴様らも逃げるな! それでもリードホルムの兵士か」
「大した金も出さねえくせに、仕事ばっかり要求するんじゃねえ!」
「金もらって故郷に帰るためにやってんだ。おれらは奴隷じゃねえんだぞ!」
隊長と呼ばれていた口ひげの男を口々に罵り、兵士たちは続々と去ってゆく。残ったのは、馬車の中の口ひげだけだ。とっとと降りろバカ野郎、と女山賊は男を馬車から引きずり下ろし、その首元にククリナイフを突きつけた。男は恐怖で口ひげと体全体を震わせ、今にも失禁しそうなほど怯えている。
「さあ、てめえはどうすんだ? お帰りはあちらだぜ?」
「わ、わしは兵士じゃない、典礼省の役人なんだ……今度も輸送に失敗したら、アウグスティン様に何をされるか分かったものではない。だから……」
「あのクズは……相変わらずのようで何よりだ」
「何が何でもこれをノルドグレーンに届けなければいかんのだ!」
女山賊は失望したようにため息をついた。
「この期に及んで言うことがそれか。周りを見てみろ、一体誰がこれだけの荷物を運ぶ。てめえが一人で引きずっていくのか? ベステルオースどころかオルヘスタルに着く前に、五回は追い剥ぎに遭うだろうぜ」
口ひげの男は言葉に詰まり、血走った目で落ち着きなく周囲を見渡す。
「……尻尾巻いてアウグスティンのもとに逃げ帰れって言ってんのが分かんねえか」
「こ、この山賊風情が!」
口ひげの男は激昂して腰の剣に手をかけたが、それを抜くよりも早く、頭部と身体が永遠に分かたれた。
「哀れな野郎だ。命を軽く扱い過ぎなんだよ、自分のも、他人のもな」
林道を進む箱馬車と荷馬車、それらを護衛するように随伴する兵士らしき男たち、その隊列が平穏な森に砂煙を立てている。鎖帷子を着ていかにも兵士然とした者や軽装に長剣だけ携えた者、身の丈ほどもある曲刀を担いだ巨躯の男など、性別のほかは成員たちに外見上の統一性はない。唯一あるとすれば、荒事については得手に帆を上げて臨みそうな、その面構えだけだった。
先頭の男が手を上げ、歩みを止めた。後続もそれに倣い、馬は震えるように鼻を鳴らす。隊列全体に不穏な空気が立ち籠め、多くの者が得物に手をかけた。
猛悪な集団の前進を大胆に止めたのは、たった一人の女だった。革のコートに身を包み、薄く赤みがかったゆるい内巻きの長髪は気品を感じさせるが、それに包まれた顔は不敵な笑みの下に危うい殺意がのぞく。腰に下げた二本の柄には、刀身が独特の曲線を描く山刀、大振りのククリナイフが収まっている。鞘が虚仮威しでなければ、その刃はナイフと呼ぶにはあまりにも長大で分厚い。
「何者か! 我らはリードホルム王国の交易使節団であるぞ」
女は下を向いたまま小さく笑った。
「それを聞こうと思ってたんだよ。話が早くて助かるぜ!」
「例の山賊だ! 排除しろ!」
集団全体が怒号に湧くよりも早く女山賊は前方に跳躍して身を躍らせ、またたく間に二人の男を斬り捨てる。息つく間もなく右の男の体を踏み台にして飛び上がり、身を翻した勢いにまかせもう一人の首をククリナイフで切り裂いた。戦慄で怒号が止む。緑の針を束ねたようなトウヒの葉にしぶきが飛び、粘りのある血の重さが細枝をわずかにしだれさせる。女盗賊は得物の峰で肩を叩きながら、事も無げな表情で言った。
「分かってっと思うけど、荷物置いてきゃ助けてやらねえこともねえぞ? 穏便に済むなら、すべて世は事もなし、だ」
一瞬で三人の兵士を屠った女山賊が、不敵な顔で笑う。彼女の実力を目の当たりにし、なお剣を交えようとする者は、すぐには名乗りを上げなかった。
「おのれ……オーリーン、貴様用心棒であろう!」
「しょうがねえなあ……」
箱馬車に座っていた身なりの豪奢な口ひげの男が金切り声を上げると、右手に曲刀、左手に重厚な篭手を装備した大男が前に進み出る。周囲の男たちが子供に見えるほどの体躯を持ったその男は、リードホルム王国でも名の知れた賞金稼ぎだ。町々を移動する商隊などの護衛役を務めて十年以上生き残り、同業者の誰もが一目置く存在だった。
「へえ……? 知ってるぞてめえ、“両断のオーリーン”だろ?」
「おっ、さすがだねえ俺様。山賊風情にも名前が知れ渡ってるとは。そうだな、降参して俺の女になるってんなら、見逃してやってもいいぞ」
斜に構えたような笑みを浮かべていた女山賊の目つきが急変し、すぐさま二本のナイフが振り下ろされた。オーリーンは巨躯に似合わぬ機敏さで曲刀を構え、その刃を受け止める。巨大な筋肉が隆起し、力任せに曲刀を押し放つと、弾かれた女山賊は宙返りをして距離をとった。
「そういう冗談は好きじゃないんでな」
「こっちも凶暴な女は願い下げだ。いつモノを切り落とされるか分かったもんじゃねえ」
「不安に怯える夜が嫌なら、今すぐに切り落としてやるよ!」
「どうやら両断されたいらしいな!」
長大な曲刀を垂直に構えたオーリーンは、距離を詰めて縦一文字に振り下ろした。その風切り音と風圧が、後ろに控えていた兵たちにも伝わったほどの斬撃だ。この一撃を受け止めようとして、構えた得物ごと頭から股まで文字通り両断された悪漢は数知れず、しかし女山賊はすんでの所で身を躱していた。ナイフで反撃に転じるには間合いが開きすぎており、オーリーンには再び剣を構える余裕があった。
「危ねえ危ねえ。当たったら白樺の薪だぜ」
「身の軽い奴だ。いつまで逃げ回れるかな」
オーリーンは攻め手を変え、今度はいくぶん小刻みに、曲刀を横薙ぎに振るった。女山賊は懐に入り込めず、刃先を避けながら徐々に後退してゆくだけだった。立木の間に追い込まれたかに見えた女山賊は木の幹を蹴って宙返りし、さらに別の幹を蹴って位置を入れ替える。
「……そのうち木に剣めり込ませて墓穴掘るんじゃねえかと思ってたが、てめえ意外とやるな」
「そのへんのウスノロと“両断のオーリーン”を一緒にすんじゃねえ」
攻め続けている割に、オーリーンはさほど息が上がっている様子もなく、表情は余裕に満ちている。
「そういうわけだ。観念してそろそろ斬られちまえ、女」
「そうだな、そろそろ終わりにするか」
オーリーンは再び剣を垂直に構えると、女盗賊めがけて餓えたヒグマのように突進し、初太刀よりもいっそう力を込めて曲刀を振り下ろす。鋼がぶつかり合う音が豁然と響き、固唾を飲んで見守る観衆たちは耳鳴りを感じた気がした。曲刀の刃先は地面に接することなく、鍔元付近で女山賊がナイフを交差して受け止めていた。
予想外の事態にオーリーンが戦慄し、曲刀を引くよりも早く、女山賊が彼の股ぐらに爪先蹴りを叩き込んだ。内臓がせり上がるような激痛に耐えかね、オーリーンは目玉が飛び出しそうな顔で曲刀を取り落とし、膝をついた。
「てめえ……まさか……」
「お? 知ってるのか?」
戸惑いと恥辱が入り混じった表情で女山賊を見上げるオーリーンは、ある噂話を思い出していた。外見からは想像もつかない、常識を超えた力を持つ、リーパーと呼ばれる能力者について――見たものは少ないが、たしかにリードホルムには存在するという。時の神ツーダンのちからを持つとも言われるリーパーは、その名を畏怖とともに知られていた。その力が発現するとき、周囲には耳鳴りのような音が満ちるという。
「リーパーかよ……じゃあ降参だ降参。悪かったよ」
「なんだ、ずいぶん物わかりがいいじゃねえか」
「物わかりの良さで、この稼業で今日まで生きてきたんでなあ。潰されたタマについては水に流すからよ……痛え」
「……ま、こっちは取るもん取れりゃ構わねえけどさ」
「ここはひとつ見逃してくれねえか、これでも妻も子もいるんだよ俺は。……リーパーに勝てるわけがねえからな」
「どうも調子が狂うな」
女山賊は拍子抜けしたように言い、オーリーンは曲刀を支えにして内股で立ち上がった。
彼は確信していた。欲を出して不意打ちなど仕掛けても、リーパーには通用しないのだ。常人には絶対に不可能な距離と時間で曲刀の鍔元まで踏み込んで、女の細腕と二本のナイフ程度では頭から切断されて然るべき斬撃を、たやすく受け止められたのだ。――自分の剣など、老人の歩みのように見えていることだろう。
「きさまオーリーン、用心棒なら死ぬまで戦え! 金を払っているんだぞ!」
馬車の中で二人の戦いを傍観していた口ひげの男が、戦闘を勝手にやめたオーリーンに耳障りな金切り声で命令する。
「うるせえバカ野郎! リーパー相手だってのに、はした金で命を捨ててられるか。戦いてえなら隊長のてめえがやれ!」
「いい子だ。他の連中もお家に帰る時間だぜ」
「潮時だてめえら。とっととズラかるぞ」
オーリーンが子飼いの一団らしき部隊に声をかけると、めいめい荷馬車を放棄して踵を返し始めた。
「まだやるってんなら、その辺に生えてるトウヒやアカマツがてめえらの墓標になるぞ!」
女山賊がそう一喝すると、他の隊員たちも散り散りに逃げ出していった。荷物と口ひげの男を身を挺して守ろう、などという心意気の持ち主はいないようだ。
「貴様らも逃げるな! それでもリードホルムの兵士か」
「大した金も出さねえくせに、仕事ばっかり要求するんじゃねえ!」
「金もらって故郷に帰るためにやってんだ。おれらは奴隷じゃねえんだぞ!」
隊長と呼ばれていた口ひげの男を口々に罵り、兵士たちは続々と去ってゆく。残ったのは、馬車の中の口ひげだけだ。とっとと降りろバカ野郎、と女山賊は男を馬車から引きずり下ろし、その首元にククリナイフを突きつけた。男は恐怖で口ひげと体全体を震わせ、今にも失禁しそうなほど怯えている。
「さあ、てめえはどうすんだ? お帰りはあちらだぜ?」
「わ、わしは兵士じゃない、典礼省の役人なんだ……今度も輸送に失敗したら、アウグスティン様に何をされるか分かったものではない。だから……」
「あのクズは……相変わらずのようで何よりだ」
「何が何でもこれをノルドグレーンに届けなければいかんのだ!」
女山賊は失望したようにため息をついた。
「この期に及んで言うことがそれか。周りを見てみろ、一体誰がこれだけの荷物を運ぶ。てめえが一人で引きずっていくのか? ベステルオースどころかオルヘスタルに着く前に、五回は追い剥ぎに遭うだろうぜ」
口ひげの男は言葉に詰まり、血走った目で落ち着きなく周囲を見渡す。
「……尻尾巻いてアウグスティンのもとに逃げ帰れって言ってんのが分かんねえか」
「こ、この山賊風情が!」
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