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絶望の檻
5 力の源泉 3
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「ねえリースベット、リーパーの力がそう……時間を動かすものなら、戻したりはできないのかな」
「戻す?」
「そう。まだいろんな事が起きなかった、昔へ」
「さてどうだかな……あたしは説明するために時間って言葉を使ったが、本当にそれが時間に関わるものなのかどうかさえ確かじゃねえ」
「そっか、そうよね……」
「今をときめくソレンスタム教団が、ファンナ教から引っ張り出して主神に仕立て上げたツーダンは時の神だぜ。何か関連があったら面白いな」
「時を戻す……か」
リースベットは無意識に右腕の痣をさすっていた。時間を遡行する夢想が胸をかすめたことは、彼女にも過去に何度かあった。だがそのたび、耽る間もなく現実が押し寄せ、すぐに実用主義的な山賊の首領に立ち戻ったのだ。
「そういやこの前のアホマント、リーパーの研究所があるとか言ってやがったが……」
「あの研究所、何年か前に廃止になったと思ったが」
「てことは、あのアホはエイデシュテットに一杯食わされたのか?」
「かも知れねえし、それでもいいから情報が欲しかったのかもな」
「研究って、どんなことをやってたんだろう」
「リーパーを捕まえて解剖でもしてたか?」
「気味の悪い想像をさせんな」
茶化したドグラスにリースベットが木のスプーンを投げつける。
「リーパーが生まれやすい、ってことになってるリードホルムにある研究所だ。情報はそれなりに溜め込んでるんだろうが……」
「廃止されたってことは、大した成果は出せなかったのかもな」
「あのアホマントのことはともかく……あたしやアウロラの役に立つなら、その情報ってのも価値のあるモンなんだろうがな」
「漁りに行ってみるか?」
「わざわざ盗みに入るほどじゃねえ。他にやることは山ほどあるんだ」
「さしあたって、まずはエーベルゴードの次男坊誘拐か」
アウロラが子どもたちの元へ戻ったあと、食堂に残った年長者たちはまだ会話を続けていた。かまどの火は落とされ、鍋のスープも冷めつつある。
「あいつ、一人で牢に乗り込んだりはしねえか? あの様子じゃ、まだかなり親のことは気にしてる」
リースベットは、アウロラの思いつめたような顔を想起していた。十四歳という年齢に相応の、不安定な危うさを含んだ顔だ。
「そうだな、あの連れ子三人がいる限り、あいつも滅多なことはしないんじゃないか? まるで人質でも取ってるようだが」
「たしかに歯止めにはなってるかもな」
アウロラが助け出したアニタ、アルフォンス、ミカルの三人の子供たちは今すくなくとも、かつてその身を売られたパーシュブラント子爵邸よりは平穏な生活を送れている。
その存在がある限り、身勝手な行動は採らないだろう――バックマンはそう考えていた。そんな性分でなければ、三人を山賊の根城にまで連れてきて世話をするような面倒など避け、自分ひとりで逃げていたはずだ。
「戻す?」
「そう。まだいろんな事が起きなかった、昔へ」
「さてどうだかな……あたしは説明するために時間って言葉を使ったが、本当にそれが時間に関わるものなのかどうかさえ確かじゃねえ」
「そっか、そうよね……」
「今をときめくソレンスタム教団が、ファンナ教から引っ張り出して主神に仕立て上げたツーダンは時の神だぜ。何か関連があったら面白いな」
「時を戻す……か」
リースベットは無意識に右腕の痣をさすっていた。時間を遡行する夢想が胸をかすめたことは、彼女にも過去に何度かあった。だがそのたび、耽る間もなく現実が押し寄せ、すぐに実用主義的な山賊の首領に立ち戻ったのだ。
「そういやこの前のアホマント、リーパーの研究所があるとか言ってやがったが……」
「あの研究所、何年か前に廃止になったと思ったが」
「てことは、あのアホはエイデシュテットに一杯食わされたのか?」
「かも知れねえし、それでもいいから情報が欲しかったのかもな」
「研究って、どんなことをやってたんだろう」
「リーパーを捕まえて解剖でもしてたか?」
「気味の悪い想像をさせんな」
茶化したドグラスにリースベットが木のスプーンを投げつける。
「リーパーが生まれやすい、ってことになってるリードホルムにある研究所だ。情報はそれなりに溜め込んでるんだろうが……」
「廃止されたってことは、大した成果は出せなかったのかもな」
「あのアホマントのことはともかく……あたしやアウロラの役に立つなら、その情報ってのも価値のあるモンなんだろうがな」
「漁りに行ってみるか?」
「わざわざ盗みに入るほどじゃねえ。他にやることは山ほどあるんだ」
「さしあたって、まずはエーベルゴードの次男坊誘拐か」
アウロラが子どもたちの元へ戻ったあと、食堂に残った年長者たちはまだ会話を続けていた。かまどの火は落とされ、鍋のスープも冷めつつある。
「あいつ、一人で牢に乗り込んだりはしねえか? あの様子じゃ、まだかなり親のことは気にしてる」
リースベットは、アウロラの思いつめたような顔を想起していた。十四歳という年齢に相応の、不安定な危うさを含んだ顔だ。
「そうだな、あの連れ子三人がいる限り、あいつも滅多なことはしないんじゃないか? まるで人質でも取ってるようだが」
「たしかに歯止めにはなってるかもな」
アウロラが助け出したアニタ、アルフォンス、ミカルの三人の子供たちは今すくなくとも、かつてその身を売られたパーシュブラント子爵邸よりは平穏な生活を送れている。
その存在がある限り、身勝手な行動は採らないだろう――バックマンはそう考えていた。そんな性分でなければ、三人を山賊の根城にまで連れてきて世話をするような面倒など避け、自分ひとりで逃げていたはずだ。
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