87 / 247
落日の序曲
16 禁じられた再訪
しおりを挟む
薄曇りの空の下、寒々とした空気に包まれたラルセンの森にリースベットの怒声がこだました。
「お前かよ! ふざけんじゃねえよ! 何でこんなとこにいんだよ!」
ティーサンリード山賊団拠点の入口前で待ち受けていた来客の顔を見るなり、リースベットは烈火のごとく怒りだした。
その怒気にあてられ付近の小鳥はいっせいに飛び立ち、リスやタヌキは巣穴に身を隠す。
多少の謝罪や弁明は覚悟の上で来訪したラルフ・フェルディンだったが、これほどの瞋恚の炎に晒されることは予想していなかった。傍に控えるカールソンも、リースベットの剣幕に圧倒され身を縮こまらせている。
「あ、兄貴、大丈夫なのか」
「ぼ、僕がなんとか、話してみよう」
「あー殺す。もう殺す」
「ま、ま、待ってくれないか」
「あたし言ったよなあ、二度とそのツラを見せんなって!」
面白半分に後をついてきたバックマンとアウロラも、入り口から恐る恐る様子をうかがっている。老弓師ユーホルトも岩垣の上から見物していた。
リースベットがついにククリナイフを抜く。
「すす済まない、約束を破ったことは詫びる」
「じゃあ死ね。今すぐ死ね」
「その、今日は……君たちに仕事を依頼しに来たんだ」
「あん?」
「もちろん相応の金も用意してきた」
「よし話を聞こう」
バックマンが入り口の扉から顔だけを出して返答した。リースベットが鬼神の形相で睨みつけると、またすぐに身を隠す。
「……あいつと話せ」
リースベットは舌打ちしながらオスカを鞘に収め、バックマンを顎で示した。
「あ、ありがとう、ございます」
「兄貴が喰われるかと思ったぜ」
バックマンがようやく全身をあらわにし、リースベットは腕組みをして岩壁にもたれかかった。話は自分も聞く気らしい。
アウロラはまだ入り口から様子をうかがっている。
「さてマントの旦那、頭領に殺される危険を冒してまで頼みてえ仕事ってのは、一体何だ?」
「……ラルフ・フェルディンだ。君は?」
「副長のバックマンだ」
「なるほど、さしずめ君が事務担当者か。……僕は賞金稼ぎを生業としているが、錠前破りや窃盗といったことは得意ではない、というか端的に経験がなくて……」
リースベットの舌打ちがフェルディンの話を遮り、場の空気が凍りつく。
「とっとと仕事内容を言え殺すぞ」
「り、リーパー研究所から情報を盗み出すのを、手伝って欲しいのだ」
「リーパー研究所……? どっかで聞いた話だな」
リースベットは脱力したようにため息をついている。予測が的中した、という様子だ。
「正式には、王立ノルシェー研究所という。ヘルストランドの郊外にあるのだが、現在は閉鎖されている」
「ああそいつだ。……旦那、エイデシュテットに一杯食わされたようだな」
「情けない限りだ」
「それで業を煮やして、盗みに入ろうってわけか」
「……とにかく僕は、情報が欲しい。それがどんな些細なものでもいい、目的のために行動していたいのだ」
バックマンはリースベットに目を向けた。彼女は興味なさげに、眉間にしわを寄せて天を仰いでいる。――お前に任せるよ、という意思表示でもあった。
リースベットの見上げる空には、雨粒がぱらつき始めている。
「お前かよ! ふざけんじゃねえよ! 何でこんなとこにいんだよ!」
ティーサンリード山賊団拠点の入口前で待ち受けていた来客の顔を見るなり、リースベットは烈火のごとく怒りだした。
その怒気にあてられ付近の小鳥はいっせいに飛び立ち、リスやタヌキは巣穴に身を隠す。
多少の謝罪や弁明は覚悟の上で来訪したラルフ・フェルディンだったが、これほどの瞋恚の炎に晒されることは予想していなかった。傍に控えるカールソンも、リースベットの剣幕に圧倒され身を縮こまらせている。
「あ、兄貴、大丈夫なのか」
「ぼ、僕がなんとか、話してみよう」
「あー殺す。もう殺す」
「ま、ま、待ってくれないか」
「あたし言ったよなあ、二度とそのツラを見せんなって!」
面白半分に後をついてきたバックマンとアウロラも、入り口から恐る恐る様子をうかがっている。老弓師ユーホルトも岩垣の上から見物していた。
リースベットがついにククリナイフを抜く。
「すす済まない、約束を破ったことは詫びる」
「じゃあ死ね。今すぐ死ね」
「その、今日は……君たちに仕事を依頼しに来たんだ」
「あん?」
「もちろん相応の金も用意してきた」
「よし話を聞こう」
バックマンが入り口の扉から顔だけを出して返答した。リースベットが鬼神の形相で睨みつけると、またすぐに身を隠す。
「……あいつと話せ」
リースベットは舌打ちしながらオスカを鞘に収め、バックマンを顎で示した。
「あ、ありがとう、ございます」
「兄貴が喰われるかと思ったぜ」
バックマンがようやく全身をあらわにし、リースベットは腕組みをして岩壁にもたれかかった。話は自分も聞く気らしい。
アウロラはまだ入り口から様子をうかがっている。
「さてマントの旦那、頭領に殺される危険を冒してまで頼みてえ仕事ってのは、一体何だ?」
「……ラルフ・フェルディンだ。君は?」
「副長のバックマンだ」
「なるほど、さしずめ君が事務担当者か。……僕は賞金稼ぎを生業としているが、錠前破りや窃盗といったことは得意ではない、というか端的に経験がなくて……」
リースベットの舌打ちがフェルディンの話を遮り、場の空気が凍りつく。
「とっとと仕事内容を言え殺すぞ」
「り、リーパー研究所から情報を盗み出すのを、手伝って欲しいのだ」
「リーパー研究所……? どっかで聞いた話だな」
リースベットは脱力したようにため息をついている。予測が的中した、という様子だ。
「正式には、王立ノルシェー研究所という。ヘルストランドの郊外にあるのだが、現在は閉鎖されている」
「ああそいつだ。……旦那、エイデシュテットに一杯食わされたようだな」
「情けない限りだ」
「それで業を煮やして、盗みに入ろうってわけか」
「……とにかく僕は、情報が欲しい。それがどんな些細なものでもいい、目的のために行動していたいのだ」
バックマンはリースベットに目を向けた。彼女は興味なさげに、眉間にしわを寄せて天を仰いでいる。――お前に任せるよ、という意思表示でもあった。
リースベットの見上げる空には、雨粒がぱらつき始めている。
0
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる