山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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逆賊討伐

2 近衛兵始動 2

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「よう旦那、ジェンティアナは元気か?」
「ああ。すこし急がせたせいで疲れているが……」
「水とは用意してるぜ」
 ラルセン山の山道で、バックマンはいつものようにエンロートに声をかける。ジェンティアナとは彼の愛馬だ。
 幾度かの対話から、この男は本人よりも馬の方を気遣うと機嫌が良くなる、という傾向をバックマンは学んでいた。
 山道から少し離れた丘の上には、小さな木のテーブルと椅子が二つ用意されている。彼らがいつも使っている会談場所だ。そこには大きな水盤すいばん飼い葉か ば桶、それにユーホルトら三人の山賊が待っている。
 ジェンティアナと呼ばれた栗毛の牝馬ひんばが牧草をむ横で、定例の情報交換が始まった。
「急いだってのは、やっぱりアウグスティンが死んだからか?」
「そうだ。行ってみれば急ぐ必要もなかったようだったが……」
「そりゃご苦労だったな」
 エンロートは頷きながら、懐から小さな紙を取り出した。
「何だそりゃ」
「手配書が出ているぞ」
「手配書?」
 バックマンは手配書を受け取り絶句した。
 そこに描かれていたのは、よく特徴を捉えたリースベットの人相書きだ。名前は載っておらず、ラルセン山を拠点にする山賊という情報と、賞金が10万クローナであることが記されている。
「こいつは……」
「詳しくは知らんが、お前たちの仲間だろう」
「しばらく騒ぎにならなかったから、バレてねえと思ってたが……」
 愕然がくぜんとして手配書を眺めているバックマンの背後では、ユーホルトの指示で二人の山賊がジェンティアナのひづめを洗い、ナッツから作った固形油を塗っている。
 エンロートはその様子を眺めながら、つい半時前までは話す気のなかった情報を口にした。
「それと、その手配書の件とは別に、兵の動きがあるようだ」
「何?」
「どうやらその手配書は、国王の意を受けて内務省が配布したもののようだ。だが賞金稼ぎや義勇兵の手にかかるより先に、エイデシュテット閣下はより確実な手段で状況を決定づけてしまう腹積もりらしい」
「エイデシュテットが……? いくら奴でも、私兵を持つほどの権力はなかったはずだが……」
「おそらく近衛兵が動く」
「なんだって?!」
 近隣諸国の軍事関係者を一様に震え上がらせる近衛兵が、百名足らずの山賊討伐に動くという。
 バックマンの驚きように、蹄の手入れをしていた山賊たちはおろか、ジェンティアナの視線までもエンロートに集まった。
「今のリードホルムに、お前たちに勝てる軍は他にあるまい」
「そ、そりゃそうだが……」
「いつ、どうやって近衛兵を動かすかまでは、私は知らん。何しろ弁の立つ方だからな、うまく国王を口車に乗せる気だろう」
 険しい表情で顎に親指を当てるバックマンの元に、エンロートたちが集まってきた。
「何だ、大事おおごとか?」
「……ああ。それも間違いなく、山賊団がまとまって以来のな」
「知っていることは全て話した。ジェンティアナの礼だ」
「わかった。今回ばかりは本気で感謝するぜ」
 バックマンはそう言いながら椅子から立ち上がった。
「俺らはすぐ戻って対策を立てなきゃならねえ。こいつは置いてくから好きに休んでってくれ」
 飼い葉桶と水盤を顎で示すバックマンに、エンロートは珍しく気遣いの言葉を送った。
「気をつけてな」
「戻るぞ。理由は道中で話す」
 馬の世話をしていた二人は事情をよく飲み込めていないが、それでもバックマンのただならぬ様子に口出しはできなかった。歴戦の弓兵であるユーホルトだけが、ひとり落ち着きを払っている。
「この頭領カシラが出払ってる時に襲われたら……いや、まさかそれも仕組まれてたのか?」
 戦闘では常に先陣を切り、圧倒的な戦果を上げ続けていたリースベット抜きでの戦いは、おそらく凄惨せいさんなものとなるだろう。
 バックマンは戦慄せんりつを覚えながら帰路を急いだ。
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