山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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逆賊討伐

9 防衛戦

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「たかが山賊とあなどっていたが……我らとの戦い方を心得ている者がいたらしい」
「リースベット自身がリーパーだという話です。おそらく中心となって対策を立てたのでしょう」
「そうだろう。たかが山賊、ではなかったのだ。その力においても、討つことの意義においてもな」
 ティーサンリード山賊団の拠点入り口にたどり着いた近衛兵たちは、ようやく一息ついて状況を再認識していた。周囲は葉の落ちたナラの木に囲まれ、冷たく乾いた風が枯れ葉を舞わせている。
「隊長こんな任務受けないほうがよかったんじゃないですか?」
 ラーネリードという名の近衛兵が肥満体を揺らしながら、隊長のアムレアンに早口で喋りかけた。
「私が断ればフリークルンドが受けるだろう。そうして奴に名を成さしめてみろ、奴が真の隊長ということになるぞ……まあそれはよい」
「どのみちここからは純粋な戦闘だ。この分野で俺たちに勝てる者はいない」
「だが気をつけろ。先程の奴らのやり口を見ただろう。通路に火を放つくらいのことはやるかも知れんぞ」
「もう不意打ちは食いませんよ。隊長ぜひ俺に先鋒を任せてください」
 アムレアンは顎髭あごひげを触りつつラーネリードを見やり、しばし考えを巡らせてから口を開いた。
「……いいだろう。ラーネリード、一戦して敵の力量を見極めろ。油断するなよ」
「お任せあれ俺一人で片付けてご覧に入れます」
 ラーネリードは右足を半歩下げて右腕を体の前で折り、まるで貴族のように頭を下げた。

 数ヶ月前、アウロラ・シェルヴェンが刺客として攻め入ったときとは違い、拠点入り口には木戸がえ付けてある。だがその扉は特に頑丈なものではなく、厳重に施錠されているわけでもない。ラーネリードが軽く押すと、きしんだ音を立てて苦もなく開いた。
 内部は下り階段の通路がまっすぐ伸びている。扉を開けた途端に矢が飛んできたり、侵入を知らせる音が鳴ることもなかった。
 床の敷石はところどころ湿った土で汚れており、側面の土壁は波打っているかのように起伏がある。
「さあ逆賊ども近衛兵の手にかかって死ねることを光栄に思え」
 ラーネリードが独り言をつぶやきながら階段を降りてゆくと、坂が平坦になったところで、通路の先に小さな人影が見えた。
 背中には剣のつからしきものが二本、肩越しに確認できる。目深まぶかにかぶったフードからは、燃えるような赤毛が見え隠れしていた。
「おいおいとっくに逃げ出したあとか? 子供一人しかいないじゃないか」
「……驚いたわ」
「何?」
 アウロラがフードを下ろし、数ヶ月前より少しだけ大人びた顔をあらわにした。
「へへ……結構かわいいじゃないか……」
「あんたに会いたいと思ってたのよ」
「なんだと……?」
 不思議そうなラーネリードの表情が、すぐにいやらしい笑みに変わった。
「そうか覚えているぞ。貴様いつか一日で脱走した小娘だな」
「当たり」
「何をしているかと思えば山賊に拾われていたのか。逃げ出さなければ遥かにまともな生活ができたものを」
 ラーネリードはあざ笑うように言い捨てた。
 かつてアウロラが一日だけ端女はしためとして仕えさせられた時の黎明館ツー・グリーニンで、彼女に乱暴を働こうとして手痛い逆撃を受けたのが、この男だ。
 ラーネリードは額の傷跡を撫で回しながら、残虐な笑みを浮かべた。
「思い出したぞこの傷は治るまで一月もかかったんだ。お前は不埒ふらちの報いを受ける必要があるな」
「……あの時は、陶器の水差しを顔に叩きつけたんだったかしらね」
 アウロラは興味なさげに言いながら、背中の二本の柄に両手をかけた。
 それは剣ではなく、刃のない棒状の武器だった。長剣と同程度の長さで、芽吹いた花のつぼみのような返しが幾つもついた、鋼鉄製のロッドだ。
 遠方からの移民である山賊ルインがその武器について、異国の武術で使われるものだと説明していた。だがアウロラが持っているような鉄製のものは一般的でないらしい。
 アウロラは異国の武術の名を借りて、その武器をカリ・スタブと呼んでいた。
「今回あんたには、これをあげるわ」
「どうやら帰る気はないようだな。まあ下賤げせんの身にはこんな場所がお似合いだ」
 ラーネリードの言葉が呼び水となったようにアウロラが攻めかかり、二本のカリ・スタブと幅広の直剣ちょくけんが火花を散らした。
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